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平成17年那審第12号
件名

漁船健緒丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年9月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一,加藤昌平,杉崎忠志)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:健緒丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
左舷外板に大破口,のち廃船処理

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月6日21時20分
 沖縄県港川漁港南方沖合
 (北緯26度07.2分 東経127度45.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船健緒丸
総トン数 2.6トン
登録長 10.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 128キロワット
(2)設備及び性能等
 健緒丸は,平成元年6月に進水した,主として一本釣り漁業に従事する一層平甲板型のFRP製漁船で,船体中央よりやや船尾寄りに操舵室を有し,同室前部にGPSプロッター及び魚群探知器が,同室後部には左右両舷にわたって腰掛け用の渡し板がそれぞれ設置され,航海速力は,機関回転数毎分2,700の10.0ノットであった。

3 事実の経過
 健緒丸は,A受審人が1人で乗り組み,そでいか旗流し漁の目的で,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年2月5日05時30分沖縄県港川漁港を発し,07時30分同漁港南方沖合約18海里の浮魚礁が設置された漁場に至り,前日及び前々日に引き続き,漁を始めた。
 ところで,A受審人は,平素天候を見定めながら,漁の実施の可否を決め,日帰りの場合を含めて4ないし5日間連日の操業を行うこととし,日没とともに漁を中断して健緒丸を漂流させ,翌朝未明まで休息をとるか,若しくは所定の水揚げ時刻に合わせて帰港することとしていた。
 18時20分A受審人は,日没を迎えたが,釣果がよかったので,その後も中断しないで漁を続けたのち,23時00分片付けを終え,健緒丸を漂流させたまま就寝した。そして,翌6日05時30分起床して漁を再開し,そでいか250キログラムを獲て,19時00分漁場を発し,帰港の途に就いた。
 発進したのち,A受審人は,操舵室後部の渡し板の左舷側に腰掛け,同舷側の壁にもたれかかって当直にあたり,20時ごろ,右方からの横切り船1隻を減速して避航し,北上した。
 その後,A受審人は,港川漁港の街の明かりを次第に認めるようになり,20時40分港川港第2号灯標(以下,灯標の名称については「港川港」を省略する。)から185度(真方位,以下同じ。)5.3海里の地点で,GPSに入力した,同港間口から南南西方沖合0.8海里の転針地点に向けて針路を002度に定め,水揚げ時刻を調整するため,機関を半速力前進に減じ,7.7ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 定針したのち,A受審人は,操舵室後部の渡し板の左舷側に腰掛けたまま,同舷側の壁にもたれかかって当直にあたっていたところ,連日の操業による疲れと,視界が良好で前路に支障となる他船も見当たらなかったので気が緩み,眠気を催すようになったものの,街の明かりがはっきりして入港まで間もなくとなったので,居眠りに陥ることはあるまいと思い,立ち上がって外気にあたるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,いつしか居眠りに陥った。
 21時15分A受審人は,港川漁港港外のさんご礁に向首したまま,転針地点に達したが,居眠りに陥っていたので,同港間口に向けて転針の措置をとることができないまま進行中,21時20分健緒丸は,第2号灯標から244度600メートルの地点において,原針路,原速力のまま,さんご礁に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力3の南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,左舷外板に大破口を生じて浸水し,引船により引き下ろされて港川漁港に引き付けられ,のち廃船処理された。

(本件発生に至る事由)
1 前日は,23時ごろまで操業したうえ,連日の操業による疲れがあったこと
2 操舵室後部の渡し板の左舷側に腰掛け,同舷側の壁にもたれかかって当直にあたっていたこと
3 眠気を催したとき,立ち上がって外気にあたるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
4 居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 健緒丸は,夜間,沖縄県港川漁港南方沖合において,同港に向けて北上中,A受審人が,前日は,23時ごろまで操業したうえ,連日の操業による疲れがあり,操舵室後部の渡し板の左舷側に腰掛け,同舷側の壁にもたれかかって当直にあたっていたとしても,眠気を催したとき,立ち上がって外気にあたるなど,居眠り運航の防止措置をとっていれば,居眠り運航となる事態を回避し,乗揚は避けられたものと認められる。
 したがって,A受審人が眠気を催したとき,立ち上がって外気にあたるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,前日は,23時ごろまで操業したうえ,連日の操業による疲れがあり,操舵室後部の渡し板の左舷側に腰掛け,同舷側の壁にもたれかかって当直にあたっていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,沖縄県港川漁港南方沖合を同港に向けて北上中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港外のさんご礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,沖縄県港川漁港南方沖合を同港に向けて北上中,港川漁港港外に達し,眠気を催すようになった場合,連日の操業による疲れがあったのであるから,居眠り運航とならないよう,立ち上がって外気にあたるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,街の明かりがはっきりして入港まで間もなくとなったので,居眠りに陥ることはあるまいと思い,立ち上がって外気にあたるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,操舵室後部の渡し板の左舷側に腰掛け,同舷側の壁にもたれかかって当直にあたり,居眠りに陥って乗揚を招き,健緒丸の左舷外板に大破口を生じさせて浸水させ,引船により引き下ろされて港川漁港に引き付けられたが,のち廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する

 よって主文のとおり裁決する。





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