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平成17年門審第45号
件名

漁船203長生丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年8月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:203長生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
シューピースの破損,機関の濡損など

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は,水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月26日14時05分
 長崎県対馬中央部浅茅湾竹敷錨地

2 船舶の要目
船種船名 漁船203長生丸
総トン数 19トン
全長 27.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 736キロワット

3 事実の経過
 203長生丸(以下「長生丸」という。)は,いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,一級小型船舶操縦士の操縦免許を有するA受審人ほか3人が乗り組み,平成15年12月26日08時30分長崎県対馬市美津島町の樽ヶ浜船だまりを発して同県三浦湾漁港(万関地区)で燃料及び氷を積載したのち,船首0.5メートル船尾1.6メートルの喫水をもって,操業の目的で,同日13時40分同漁港を発航し,対馬西方の漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,長生丸が平成15年9月に進水したときから同船に船長として乗船し,境港を基地として日本海での操業に従事し,その後,漁場が対馬周辺となって基地を厳原港としていたものの,対馬中央部の西方海域を漁場として操業中,荒天に遭遇して浅茅湾内に避難したり,漁場から近い同湾内の漁港などを基地とすることもあり得る状況であったが,艤装時に装備したGPSプロッタのソフトが電子海図の機能を備えているものと思い,厳原入港時に,海図W1211(対馬中央部)を備えるなどして水路状況の調査を十分に行える措置をとっていなかった。
 そして,A受審人は,発航日前日の同月25日の早朝,浅茅湾西方沖合の漁場で操業を終え,より漁場に近い場所を基地とすることとし,同日08時ごろ樽ヶ浜船だまりに初めて入港し,その日の午後出漁して,翌日07時30分同船だまりに再び入港したもので,いずれも浅茅湾から漏斗口を経由して鼠島の北側を抜けて竹敷錨地を通航し,同船だまりに至っており,海図を備えていなかったので,目視とGPSプロッタに表示される地形図を頼りに航行していた。
 A受審人は,発航時から単独で操船に当たり,狭い水路を目視しながら万関瀬戸を西行し,13時58分わずか前対馬鼠島灯台から140度(真方位,以下同じ。)2,800メートルの地点に達したとき,自動操舵により針路を327度に定め,機関をほぼ半速力前進にかけ10.0ノットの対地速力で進行した。
 14時02分少し過ぎA受審人は,竹敷錨地に入り対馬鼠島灯台から133.5度1,450メートルの地点に達したとき,前方を一瞥して,鼠島の南側水域が大きく開けていたことから,同水域を西行して漏斗口に向かうこととしたが,海図を備えていなかったので,水路状況の調査をすることができず,針路を288度に転じたところ,鼠島南東方の浅所に向首したものの,このことに気付かないまま,左舷方の定置網に注意しながら続航した。
 こうして,A受審人は,原針路,原速力で続航中,14時05分対馬鼠島灯台から160度800メートルの地点で,長生丸は,前示の浅所に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,長生丸は,シューピースの破損,船体傾斜による海水の船内流入により機関の濡損などを生じたが,サルベージ船により救助され,のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は,長崎県対馬中央部の竹敷錨地を漁場に向かう目的で西行中,水路調査が不十分で,浅所に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,対馬西方沖合で操業する場合,荒天に遭遇して浅茅湾内に避難したり,漁場から近い同湾内の漁港などを基地とすることもあったから,厳原入港時に海図W1211を備えるなどして,水路状況の調査を十分に行える措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,GPSプロッタのソフトが電子海図の機能を備えているものと思い,海図W1211を備えるなどして,水路状況の調査を十分に行える措置をとらなかった職務上の過失により,水路調査を行えず,浅所に向首進行して乗揚を招き,シューピースの破損,船体傾斜による機関の濡損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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