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平成17年広審第18号
件名

押船第五十一住若丸被押バージ正成乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年7月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均,米原健一,道前洋志)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第五十一住若丸次席二等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
バージの船首部船底外板に亀裂を伴う凹損,定置網全損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月11日03時00分
 山口県徳山下松港
 (北緯33度57.3分 東経131度48.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第五十一住若丸 バージ正成
総トン数 135トン  
全長 32.65メートル 90.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,940キロワット  
(2)設備及び性能等
 第五十一住若丸(以下「住若丸」という。)は,平成9年2月に進水した2機2軸の鋼製押船で,通常,その船首部を鋼製被押バージ正成(以下「バージ」という。)の船尾凹部に嵌合し,油圧ピン3本で結合して運航されていた。
 住若丸の船橋にはレーダー及びGPSが設備され,操舵室後部には背もたれと肘掛け付きのいすがあり,居眠り運航の防止措置などを記載したポスターが掲示されていた。また,バージは,海砂採取装置と荷役クレーンを備え,1個の船倉を有していた。
 海上公試運転成績書写によると,住若丸の旋回径は,右旋回時240メートル,左旋回時235メートルで,所要時間は,それぞれ2分14秒及び2分11秒であった。

3 事実の経過
 住若丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,船首尾5.0メートルの等喫水をもって,海砂1,800立方メートルを積み,船首尾6.0メートルの等喫水となったバージの船尾部に,その船首部を嵌合し(以下「住若丸押船列」という。),平成16年10月10日15時00分佐賀県呼子港北方沖合の海砂採取地を発し,山口県徳山下松港に向かった。
 ところで,A受審人は,海砂採取地や揚げ地で荷役中は,錨鎖の長さを調節したり整備作業などに従事しており,航海中は,専ら船長が操船する関門海峡通過時を除き,3人輪番で行う船橋当直の2ないし3時間を担当しており,それ以外の時間帯は休息することができたものの,当直時間が不定であったので,日頃から疲労を感じていた。
 また,船長が作成した居眠り運航の防止に関する注意書に署名しており,立ったまま船橋当直に当たるなど,居眠り運航の防止について船長から十分に指示を受け,理解していた。
 A受審人は,夕食を摂って少し休息したのち,翌11日00時00分本山灯標沖合で昇橋して船橋当直に就き,所定の灯火を表示して周防灘を東行し,02時21分周防野島灯台から180度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点において,針路を070度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.6ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,舵輪後方に置いたいすに腰掛けたり,立って他船を避航したりしながら,自動操舵により進行した。
 02時37分半A受審人は,いすに腰掛けて見張りに当たっていたとき,付近に航行の妨げとなる他船が存在しなくなって気が緩み,日頃の疲労から眠気を催したが,入航操船のため間もなく船長が昇橋してくるので,それまで眠気を我慢できるものと思い,立ち上がって見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,同じ姿勢のまま続航した。
 A受審人は,いつしか居眠りに陥り,02時56分笠戸湾に向け針路が変更されず,山口県笠戸島西岸に向首したまま進行し,02時59分同西岸沖合に設置された定置網に進入したのち,03時00分同県古島島頂から115度1,100メートルの地点において,住若丸押船列は,原針路原速力のまま,同西岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 船長は,乗揚の衝撃で目覚めたA受審人から報告を受け,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,バージの船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じて浸水したが,自力離礁し,のち修理された。また,住若丸の両舷推進器に絡網し,定置網が全損となった。

(本件発生に至る事由)
1 日頃から疲労を感じていたこと
2 舵輪後方に置いたいすに腰掛けていたこと
3 付近に航行の妨げとなる他船が存在しなくなって気が緩んだこと
4 日頃の疲労から眠気を催したが,入航操船のため間もなく船長が昇橋してくるので,それまで眠気を我慢できるものと思い,立ち上がって見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,立ち上がって見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置をとっていれば,笠戸湾に向け針路を変更することができ,乗揚を防止することが可能であったと認められる。
 したがって,A受審人が,舵輪後方に置いたいすに腰掛けていたとき,付近に航行の妨げとなる他船が存在しなくなって気が緩み,日頃の疲労から眠気を催した際,入航操船のため間もなく船長が昇橋してくるので,それまで眠気を我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,笠戸湾に向け周防灘を東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,山口県笠戸島西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,いすに腰掛けて単独の船橋当直に当たり,笠戸湾に向け周防灘を東行中,日頃の疲労から眠気を催した場合,立ち上がって見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,入航操船のため間もなく船長が昇橋してくるので,それまで眠気を我慢できるものと思い,立ち上がって見張りに当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,山口県笠戸島西岸に向首したまま進行し,定置網に進入したのち,同西岸への乗揚を招き,バージの船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じて浸水させ,住若丸の両舷推進器に絡網し,定置網を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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