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平成17年神審第17号
件名

貨物船第二十八明徳丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄,甲斐賢一郎,村松雅史)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:第二十八明徳丸船長 海技免許:二級海技士(航海)

損害
船尾部船底外板及び左舷ビルジキールに擦過傷,プロペラ翼に欠損及び曲損

原因
操船(回頭措置)不適切

主文

 本件乗揚は,離岸出港時の回頭措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月5日22時50分
 兵庫県赤穂港
 (北緯34度44.9分東経134度21.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第二十八明徳丸
総トン数 699.69トン
全長 65.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 第二十八明徳丸(以下「明徳丸」という。)は,昭和54年2月に進水し,限定沿海区域を航行区域とする一層甲板船尾船橋型の産業廃棄物運搬船で,スラスタの設備がなく,船首端から船橋楼までの距離が約46メートルであり,主として瀬戸内海一円において発電所からセメント工場等へ石炭灰の輸送に従事していた。
 操舵室は,長さ4.2メートル幅6.0メートルで,同室内には,前面窓すぐ後ろ中央に磁気コンパス,その後方中央部に操舵スタンド,同スタンドの左舷側に第2レーダー,右舷側に機関操作コントロールスタンド,これの右斜め前方に第1レーダー,右舷船尾に海図台がそれぞれ配置され,GPS装置が備えられていた。
 明徳丸は,単暗車,1枚舵を有し,海上試運転成績表によれば,最大速力は,主機回転数毎分750の13.2ノットで,同速力における舵角35度での旋回径は,左旋回が203メートル,右旋回が241メートルであり,同速力で前進中,全速力後進発令から船体停止に要する時間は約1分38秒であった。

3 発生海域
(1)海域の状況
 本件発生地点付近の海域は,南方に港口を開いた赤穂港北西奥の大津川河口にあたり,東側には住友大阪セメント工場の岸壁(以下「住友大阪岸壁」という。)が北西から南東方向に延び,その西方対岸約200メートルのところにはハリマセラミック工場の陸岸(以下「ハリマ陸岸」という。)が方形状に東方に張り出し,この間が逆L字形に延びる,最狭部の幅約160メートルの水路となっていた。また,住友大阪岸壁中央から北側にかけての前面は,西側が三菱電機桟橋,南側がハリマ陸岸,さらに北側が大津川河口の浅水域に囲まれた,南北幅が約270メートル,東西幅が約560メートルの海域となっていた。
(2)水路事情
 大津川河口には,水深1.5メートルの等深線がほぼ東西に延び,等深線上の東西両岸寄りに約200メートルの間隔をもって,紅色灯火の付いた右舷灯浮標が設置され,また,ハリマ陸岸周辺にも,水深4メートル以下の海域が拡延し,同陸岸北東端の東方約80メートルの地点,及び同陸岸の北方約100メートルのところから西方にかけ,緑色灯火の付いた左舷灯浮標が4個設置されていた。このような水路事情は,海図W111赤穂港を調査することによって十分認識できる状況にあった。

4 事実の経過
 明徳丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,石炭灰752トンを積載し,平成16年9月4日12時30分山口県小野田港を発し,兵庫県赤穂港に向かい,翌5日13時25分同港に至り,住友大阪セメント赤穂港導灯(前灯)(以下「導灯」という。)から256度(真方位,以下同じ。)70メートルの,住友大阪岸壁中央部付近に,左舷錨を投じ,錨鎖3節を伸ばして入り船右舷付けで着岸し,船首尾からそれぞれ2本ずつの係留索を岸壁にとって揚荷役を行った。
 A受審人は,22時10分揚荷役を終え,手仕舞いしたのち,22時25分,空倉のまま,船首0.90メートル船尾3.15メートルの喫水をもって,広島県大西港に向けての離岸作業に取り掛かり,左舷錨を巻き揚げた後,前進左回頭して港口に向かうことにした。
 ところで,A受審人は,明徳丸に乗船して以来,これまで赤穂港に4回出入港して住友大阪岸壁に離着岸した経験を有し,このうち夜間の出入港は2回となっており,同港の水路事情を海図W111赤穂港などで調べ,同岸壁の前面周辺に浅所が存在し,狭い海域であることや,浅所を示す左舷灯浮標及び右舷灯浮標が設置されていることを知っていた。
 離岸時,A受審人は,船首に一等航海士と次席一等航海士を,船尾に機関長と一等機関士をそれぞれ配置し,自らは操舵室の舵輪後方に立って単独で操船に当たり,折から自船の前後に他船が着岸中であったことから,各2本ずつとっていた船首及び船尾の係留索のうち,船首のバックスプリング1本を残し,機関と舵を使用して船尾を左方に振ったあと同スプリングを外し,左舷錨を巻き揚げ,機関を極微速力前進にかけて左回頭を開始し,その後,極微速力前進,停止を繰り返しながら左回頭を続けた。
 A受審人は,22時33分ごろ導灯から256度220メートルの地点で,2.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で左回頭中,船首が南方に向いたころ,ハリマ陸岸北東角の沖に約180メートルの間隔で設置されている,左舷灯浮標間の浅所に近づいたので左回頭を断念し,以前,右回頭して港口に向かったこともあったことから,一旦,後退したのち今度は前進右回頭して港口に向かうこととした。
 22時36分A受審人は,空船の船尾トリムの状態で,南南東風のなか,住友大阪岸壁から70メートル離れた,導灯から275度190メートルの地点において,船首が252度に向いた状態で,右舵一杯をとり,機関を極微速力前進,停止を繰り返しながら,2.0ノットの速力で回頭したが,浅所から離れて回頭できるものと思い,回頭の補助として錨を投じ機関,舵を使用して小回りするなど,浅所を十分に離す適切な回頭措置をとらなかった。
 A受審人は,22時38分半ごろ大津川河口東側の右舷灯浮標の紅灯を船首少し右に見る状況となり,思うように回頭力が得られなかったものの,船首及び船尾に配置している乗組員に,右舷灯浮標や岸壁までの距離の報告を求めず,また,乗組員からの同灯浮標及び岸壁までの接近模様の積極的な報告が得られないでいるうち,22時40分導灯から282度360メートルの地点に達し,船首が034度ばかりを向いていたとき,左舷方に大津川河口東側の右舷灯浮標の紅灯を認め,その後,同灯浮標東方の浅所に近づいているような気がしたが,なおも船首が北北東に向いた状態で,僅かな速力で前後進を繰り返していたところ,22時50分導灯から287度360メートルの地点において,明徳丸は,018度に向いたとき,1.0ノットの速力をもって,その船尾が水深約1.4メートルの浅所に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力3の南南東風が吹き,潮候はほぼ低潮時にあたり,視界は良好であった。
 乗揚の結果,船尾部船底外板及び左舷ビルジキールに擦過傷を,プロペラ翼に欠損及び曲損をそれぞれ生じ,のちプロペラが新替えされた。

(本件発生に至る事由)
1 明徳丸
(1)浅所から離れて回頭できるものと思い,適切な回頭措置をとらなかったこと
(2)浅所を十分に離さなかったこと
(3)船首及び船尾に配置している乗組員に,右舷灯浮標や岸壁までの距離の報告を求めないまま操船に当たったこと
(4)乗組員からの灯浮標及び岸壁までの接近模様の積極的な報告が得られなかったこと

2 その他
 住友大阪岸壁の前面周辺に浅所が存在して狭い海域であったこと

(原因の考察)
 本件は,住友大阪岸壁前面の狭い海域において,入り船右舷付け状態から離岸した後,左回頭を断念し,右回頭して港口に向かうことにして前進右回頭中,回頭の補助として錨を投じ機関,舵を使用して小回りするなど,適切な回頭措置をとり,浅所を十分に離すことにより,発生を回避することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,浅所から離れて回頭できるものと思い,回頭の補助として錨を投じ機関,舵を使用して小回りするなど,適切な回頭措置をとらなかったこと,及び浅所を十分に離さなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,船首及び船尾に配置している乗組員に,右舷灯浮標や岸壁までの距離の報告を求めないまま操船に当たったこと,また乗組員から,灯浮標及び岸壁までの接近模様について積極的な報告が得られなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,岸壁等に囲まれた海域で,周囲の灯浮標や構造物等から概位を把握することができたことから,これらが直ちに乗揚に直接結び付いたとは考えにくく,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,住友大阪岸壁の前面周辺に浅所が存在して狭い海域であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,これまでに同岸壁から離岸した船舶は,左回頭または右回頭して無難に出港しており,適切な措置をとることにより本件発生を回避できたことから,原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,赤穂港の住友大阪岸壁前面の狭い海域において,離岸して港口に向け出港する際,回頭措置が不適切で,同岸壁北西方の大津川河口に拡延する浅所に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,赤穂港において,港奥の住友大阪岸壁を入り船右舷付け状態から離岸し,狭い海域で左回頭から右回頭に切り替えて出港する場合,同岸壁前面周辺に浅所が存在することを知っていたのであるから,浅所に著しく接近することのないよう,回頭の補助として錨を投じ機関,舵を使用して小回りするなど,適切な回頭措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,浅所から離れて回頭できるものと思い,回頭の補助として錨を投じ機関,舵を使用して小回りするなど,適切な回頭措置をとらなかった職務上の過失により,大津川河口東側の浅所に著しく接近して進行し,乗揚を招き,船尾部船底外板及び左舷ビルジキールに擦過傷,プロペラ翼に欠損及び曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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