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平成17年横審第26号
件名

漁船第三いけす丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年6月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(濱本 宏)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:第三いけす丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
逆転減速機の軸受部に偏摩耗と前進側並びに後進側の出力軸小歯車,出力軸大歯車等の損傷

原因
主機及び逆転減速機の据付けボルトの点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機及び逆転減速機の据付けボルトの点検が不十分で,軸系の軸心が偏移する状況のまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月9日07時40分
 静岡県静浦漁港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三いけす丸
総トン数 19.90トン
登録長 16.26メートル
機関の種類 過給機付2サイクル12シリンダ・V型ディーゼル機関
出力 397キロワット
回転数 毎分2,170

3 事実の経過
 第三いけす丸(以下「いけす丸」という。)は,昭和50年2月に進水した,中型まき網漁業船団のFRP製灯船で,主機としてB社が製造したGM12V-21T1型と呼称するディーゼル機関を装備し,主機船尾側に同社が製造したMG-514型と呼称する逆転減速機(以下「減速機」という。)を備えていた。
 主機及び減速機は,主機架構両舷の船首側及び船尾側の四隅と減速機の両舷に各1個ずつ,計6箇所に鋳鋼製リブ付L型ブラケット(以下「ブラケット」という。)が取り付けられており,船底のFRP製据付け台にボルト締めされた鋼製機関台に同ブラケット固定用にボルト穴が貫通されていて,鋼製長ねじ製の据付けボルトを通し,奥行き90ミリメートル(以下「ミリ」という。)幅70ミリのコの字型調整ライナにより,主機,減速機及びプロペラ軸相互の軸系の軸心が調整されたうえ,同据付けボルトの機関台下側がダブルナットとされ,上側がナット及びばね座金で締め付けられていた。また,同据付けボルトは,主機の四隅のうち,船首側が長さ150ミリで,また,船尾側に長さ100ミリと長さが異なる,呼び径が4分の3インチのボルト4本に,二面幅32ミリの六角ナットの組合せで,また,減速機には片舷2本ずつ,長さ100ミリ,呼び径8分の5インチのボルトと二面幅26ミリの六角ナットの組合せとなっていた。
 ところで,いけす丸は,毎日夕方出漁して,駿河湾内での操業を行い,翌朝帰港することを周年繰り返し,操業中,主機は連続運転され,クラッチの嵌合(かんごう)・離脱を含め,急激な負荷変動が頻繁に行われており,機関振動等を受けて,主機及び減速機の据付けボルトがいつしか緩み,同振動により叩かれて同ボルトの締付け当たり面等が傷みはじめていたところ,平成15年5月前任船長により,緩んでいた同ボルトの増締めだけが行われていた。
 ところが,A受審人は,翌16年1月前任船長から前示据付けボルトの増締め等の引継ぎを受けた後,機関の運転保守に当たっており,月間270時間ばかりの運転を行いながら,毎月1回の5連休の時期を利用して,熱交換器の保護亜鉛の交換等の整備を行っていたが,増締めされた同ボルトが緩むことはないだろうと思い,目視していたものの,触手するなどして同ボルトの点検を十分に行っていなかったので,締付け当たり面等が傷むなどして緩み易くなっていた同ボルトが,機関振動等を受けて緩み,主機,減速機及びプロペラ軸相互の軸系の軸心が偏移する状況に気付かないまま運転を続けていた。
 こうして,いけす丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成16年5月9日07時30分水揚げを終えた静岡県沼津港を発し,同県静浦漁港に向け,主機回転数毎分2,050にかけ,速力10.8ノットで帰港中,07時40分沼津港西防波堤灯台から真方位162度2,100メートルの地点において,機関室減速機付近から異音が発生した。
 A受審人は,操舵室で同異音を聞き,すぐにクラッチを中立として,機関室に急行し,異常箇所は発見できなかったものの,クラッチは嵌合できたことから,主機回転数を毎分1,000にかけて,異音が続く状況のまま静浦漁港に帰港した。
 いけす丸は,帰港後,業者により,主機及び減速機が精査された結果,主機右舷船首側の据付けボルトが脱落し,その他はすべて緩んでおり,調整ライナが外れ,軸系の軸心に偏移が認められ,減速機の軸受部に偏摩耗と前進側並びに後進側の出力軸小歯車,出力軸大歯車等の損傷が判明した。その後,同機は,ほぼ同性能の他社製品に換装された。

(原因)
 本件機関損傷は,機関の運転保守を行う際,主機及び減速機の据付けボルトの点検が不十分で,軸系の軸心が偏移する状況のまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関の運転保守を行う場合,主機及び減速機の据付けボルトは,機関振動等を受けて緩むと,同振動で叩かれて同ボルト締付け当たり面等が傷むなどして,緩み易くなるから,同緩みを見逃さないよう,触手するなどして同ボルトの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,増締めされた同ボルトが緩むことはないだろうと思い,触手するなどして同ボルトの点検を十分に行っていなかった職務上の過失により,機関振動等の影響を受けて,同ボルトが緩み,脱落するなどしていたことに気付かないまま運転を続け,軸系の軸心が偏移する事態を招き,減速機の軸受部に偏摩耗と前進側並びに後進側の出力軸小歯車及び出力軸大歯車等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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