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平成17年横審第14号
件名

漁船小田丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年5月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(濱本 宏)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:小田丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給器のロータ軸及び軸受部が偏摩耗し,タービン翼及びブロワ等の損傷

原因
主機油受の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機油受の点検が不十分で,除去されず潤滑油に混じって系統内を循環したスラッジ等の異物がかみ込むなどして,過給機軸受部の潤滑が阻害されたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月21日14時30分
 静岡県大井川港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船小田丸
総トン数 119トン
全長 40.32メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,618キロワット
回転数 毎分750

3 事実の経過
 小田丸は,平成11年12月に進水した,かつお1本釣り漁業に従事する船尾楼付き一層甲板型鋼製漁船で,主機としてB社が製造した6DKM-26L型と呼称するディーゼル機関を装備し,主機架構船尾側には過給機が装備され,定格出力735キロワット同回転数毎分580とする燃料噴射制限装置が受検後に取り外されたまま,操舵室の主機遠隔操縦装置により操縦されていた。
 主機の過給機は,C社が製造したMET26SR型と呼称する排気ガスタービン過給機で,遠心ブロワと半径流タービンが取付けられたロータ軸,渦巻室,タービン車室及び軸受台などで構成されており,軸受台両端のロータ軸軸受部には,鋳鋼製軸受裏金にアルミ製メタルが鋳込まれた平軸受が装着されていた。
 主機の潤滑油系統は,容量600リットルの主機油受の潤滑油が直結ポンプで吸引送油されて,主機及び過給機の各軸受部等を潤滑するほか,容量2,100リットルのサブタンクにも送油されており,同タンクをオーバーフローした潤滑油を含め,いずれも主機油受に戻るようになっていた。なお,過給機入口の280メッシュの2筒式潤滑油こし器が詰まるなどして同機入口潤滑油圧力が0.6キログラム毎平方センチメートル以下に低下すれば,操舵室において警報が点灯吹鳴するようになっていた。
 小田丸は,例年1月中旬から11月まで伊豆七島周辺から三陸沖合にかけての周年操業を繰り返し,休漁期の12月に,船体及び機関の整備を行うのに併せ,主機油受及びサブタンクの潤滑油2,700リットルの全量更油を業者に実施させたのち,8月中旬には同油の汚損の進行程度と更油費用を考慮して同油受の潤滑油600リットルだけを同業者に更油させていた。
 A受審人は,昭和39年からまぐろ延縄漁船やかつお一本釣り漁船に機関員として乗り組み,昭和44年からD社に入社して,同46年8月に現有免許を取得して機関長に昇進したのち,小田丸には進水時から機関長職で乗船して,機関の運転保守にあたっており,平素,主機及び過給機の潤滑油こし器を定期的に開放掃除するなどを行っていた。
 ところで,小田丸は,主機が経年使用されるうち,ピストンリング,シリンダライナ等の摩耗が進行して,燃焼ガスが主機油受に漏洩(ろうえい)するようになり,同油受の潤滑油にカーボン等の燃焼生成物が混入して,同油が汚損され,性状が劣化して,スラッジ等の異物が発生し,同油に混じって系統内を循環しながら,次第に同油受に滞留するようになっていたところ,平成15年12月の休漁期に,過給機では開放掃除と軸受取替えが行われ,主機の潤滑油が全量更油されたものの,主機油受の点検が十分に行われておらず,同油受から前示異物が除去されないまま操業が開始されて,翌年5月14日操業中,初めて過給機入口潤滑油圧力の低下を示す警報が発生した。
 ところが,A受審人は,これまで主機油受の点検を十分に行っていなかったので,潤滑油の性状劣化でスラッジ等の異物が発生して,同油受に滞留していることに気付かず,主機を一旦停止して,目詰まりしていた過給機入口の前示こし器を開放掃除して運転を再開したところ,翌15日に,こし器が目詰まりして,再び,警報が点灯吹鳴したことから,例年より早く主機油受の潤滑油の汚損が進行していると感じ,同油の更油を3箇月早めて行う旨を船長に伝え,操業を中断して16日千葉県勝浦漁港に戻り,更油を実施した。
 しかし,A受審人は,潤滑油を更油したので,過給機は無難に運転できるだろうと思い,操業を再開したものの,依然として,主機油受の点検を十分に行っていなかったことから,同油受から前示異物が除去されず,潤滑油に混じって系統内を循環した異物が過給機軸受部にかみ込むなどして,同部の潤滑が阻害されていることに気付かないまま運転を続けていた。
 こうして,小田丸は,A受審人ほか19人が乗り組み,船首2.53メートル船尾4.54メートルの喫水をもって,5月21日12時00分静岡県焼津港を発し,同県御前崎港に向け回航中,14時30分大井川港灯台から真方位149度2.8海里の地点において,ケーシングにタービン翼などが接触して過給機が異音を発した。
 当時,天候は晴で風力4の西風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,急ぎ機関室に赴き,主機回転数毎分500の半速力以下として御前崎港に入港した。
 小田丸は,その後,業者により過給機が精査された結果,ロータ軸及び軸受部が偏摩耗して,同軸の軸心がずれ,タービン車室及び渦巻室への接触によるタービン翼及びブロワ等の損傷が判明し,のち各損傷部品が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は,過給機の潤滑油入口圧力低下警報が発生したことから主機油受の潤滑油の更油を行った際,同油受の点検が不十分で,除去されず潤滑油に混じって系統内を循環したスラッジ等の異物がかみ込むなどして,過給機軸受部の潤滑が阻害されたまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,過給機潤滑油圧力低下警報が発生したことから主機油受の潤滑油の更油を行う場合,主機が経年使用されるうち,同油受にはカーボン等の燃焼生成物が潤滑油に混入して,スラッジ等の異物が発生しているから,同異物を見逃さないよう,同更油に併せて同油受の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,潤滑油を更油したので,過給機は無難に運転できるだろうと思い,主機油受の点検を十分に行っていなかった職務上の過失により,前示異物が過給機軸受部にかみ込むなどして,同部の潤滑が阻害されていることに気付かないまま運転を続け,過給機ロータ軸及び同軸受部を偏摩耗させる事態を招き,タービン車室及び渦巻室への接触によりタービン翼及びブロワ等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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