日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  機関損傷事件一覧 >  事件





平成17年横審第9号
件名

漁船第十二観音丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年5月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(濱本 宏,田邊行夫,西田克史)

理事官
相田尚武,岡田信雄

受審人
A 職名:第十二観音丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(履歴限定)(機関限定)

損害
過給器のタービン翼,ノズルリング及びロータ軸等の損傷

原因
過給機ロータ軸のリングナット締付けが不十分

主文

 本件機関損傷は,過給機ロータ軸のリングナットの締付けが不十分で,同リングナットが緩む状況のまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月20日07時15分
 茨城県大洗港東方沖合
 (北緯36度18.4分東経140度49.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十二観音丸
総トン数 42トン
全長 27.55メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 566キロワット
回転数 毎分880
(2)設備及び性能等
ア 第十二観音丸
 第十二観音丸(以下「観音丸」という。)は,平成元年12月に進水した,沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型軽合金製漁船で,主機として同5年6月にB社が製造したM200-ST2型と呼称する,ディーゼル機関が船体中央部の甲板下に据付けられており,過給機が主機架構船尾側に装備され,主機遠隔操縦装置が船橋に設置されていた。
イ 過給機
 過給機は,C社が製造したVTR161-2型と呼称する軸流式排気ガスタービン過給機で,軸流タービンと遠心式ブロワが結合されたロータ軸(以下「ロータ軸」という。),ノズルリング等が組み付けられるケーシングが,渦巻室,タービン車室及び排気入口囲に3分割され,それぞれはめ合い構造となっていて,フランジ面円周上に均等配置された12本ずつの植込みボルトで締め付けられており,主機排気管等とケーシング側フランジ面とが合致せず接続できない場合,過給機の関係するケーシングを30度刻みで回転させて接続できるようになっていた。
ウ ロータ軸のケーシングへの組付け
 ロータ軸は,運転中,タービン翼などの回転部がケーシングやノズルリングなどの固定部に接触しないよう,ケーシングに組み付ける際,同軸のタービン側に単列玉軸受及びブロワ側に複列玉軸受を装着して,ケーシング軸受部に固定し,次に,前示両軸受の外側に密着させて,ダブルナットになっているリングナットを同軸に取り付け,ブロワ側で計測する軸端とケーシングとの距離が許容値内に収まるところで,軸方向に動かないよう前示リングナットを締め付けるようになっていた。

3 事実の経過
 観音丸は,主に福島県小名浜港を基地として,例年9月初めから翌年6月末まで,福島,茨城及び千葉各県にまたがる沖合を漁場とし,02時ごろ出航して,翌々日の早朝には水揚げのため帰港する周年操業を繰り返しており,7,8月の休漁期には,船体及び機関の定期整備が行われていた。
 A受審人は,操業期間においては,投網時に時々サージング領域にかかる運転があったなか,過給機の潤滑油を毎月交換し,前示休漁期には過給機の開放掃除及び軸受交換を行うなどの定期整備を実施して,同機の性能維持にあたっていた。
 ところで,観音丸は,平成15年9月25日操業中,主機排気弁の割損した破片により,過給機のノズルリング及びロータ軸等に損傷を生じたため,操業を一旦中断して帰港したのち,操業期間であったために,すぐに修理できるよう,同機を完備品にて新替えしようとしたものの,同完備品の排気入口にあたるフランジ面の向きが主機排気管に合致しないことが判明したため,急遽(きゅうきょ),同完備品を分解して,同フランジ面の向きを変更せざるを得なくなった。
 ところが,A受審人は,前示フランジ面の向きを変更したうえ,ロータ軸の再組付けを行った際,同軸が手で軽く回ったので大丈夫と思い,リングナットの締付けを十分に行うことなく過給機の修理を終え,その後,前示漁場での操業を再開しており,同ナットが緩む状況のまま運転を続けていた。
 こうして,観音丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成16年3月20日02時10分小名浜港を発し,茨城県大洗港沖合の漁場に至って操業中,同日07時15分大洗港南防波堤灯台から真方位088度11.7海里の地点において,過給機から異音を発するとともに煙突から黒煙が吹き出した。
 当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,海上は穏やかであった。
 その結果,観音丸は,以後の操業を断念して,主機回転数を低速にかけて小名浜港に帰港した後,業者により過給機が精査された結果,リングナットが緩んで,ロータ軸が軸方向にずれ動き,接触によるタービン翼,ノズルリング及びロータ軸等の損傷が判明して,同機が新替えされた。

(本件発生に至る事由)
1 投網時に時々サージング領域にかかる運転があったこと
2 A受審人が,過給機ロータ軸のリングナットの締付けを十分に行っていなかったこと

(原因の考察)

 過給機ロータ軸のリングナットは,これまで定期整備実施後に緩んだことがなかったことから,機関長が,臨時の過給機修理にあたり,リングナットの締付けを十分に行っていたなら,修理後半年程度の運転で同リングナットが緩むことはないと考えられ,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,リングナットの締付けを十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
 投網時に時々サージング領域にかかる運転があったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)

 本件機関損傷は,過給機の修理にあたり,ロータ軸を組み付けた際,同軸のリングナットの締付けが不十分で,同リングナットが緩む状況のまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)

 A受審人は,過給機の修理にあたり,ロータ軸を組み付ける場合,同軸のリングナットは,緩み止めのために,ダブルナットとなっているのだから,リングナットが有効に働くよう,リングナットの締付けを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,ロータ軸組付け後,同軸が手で軽く回ったので大丈夫と思い,リングナットの締付けを十分に行っていなかった職務上の過失により,リングナットが緩んで,同軸が軸方向にずれ動く事態を招き,接触によりタービン翼,ノズルリング及びロータ軸等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION