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平成17年仙審第5号
件名

漁船寿光丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年5月19日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:寿光丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
全壊して廃船処分,船長が低体温症などで8日間の入院

原因
気象・海象(いそ波の危険性)に対する配慮不十分

裁決主文

 本件転覆は,いそ波の危険性に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月22日09時00分
 新潟港

2 船舶の要目
船種船名 漁船寿光丸
総トン数 0.7トン
登録長 5.89メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30

3 事実の経過
 寿光丸は,昭和63年3月に進水した,刺網漁業等に従事するFRP製漁船で,昭和49年8月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,つぶ籠漁の操業のため,船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,平成16年4月22日05時00分救命胴衣を着用して新潟県松浜漁港を発し,同漁港北方沖合2海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,松浜漁港は,阿賀野川河口から1,200メートルばかりさかのぼった右岸に位置し,また,同河口から沖側にかけて遠浅になっていて,沖から海岸に向かう波浪は河口付近で波高が増大していそ波が発生しやすい状況にあった。
 A受審人は,漁場に至って操業を行っていたところ,08時30分ごろから西風が強まって波浪が高くなり,白波が立ってきたので操業を中止することとし,漁の区切りがついた同時50分阿賀野川口灯台から010度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点を発進し,船体中央部の操舵ハンドルの後ろに立ち,手動操舵で操船にあたって帰途についた。
 A受審人は,北寄りのうねりのある状況下,08時56分半阿賀野川口灯台から328度1,350メートルの地点に至り,北寄りのうねりがあって,西寄りまたは北寄りの風が強いときにはいそ波が高起し,自船のような小型船にとって河口付近を出入りすることは危険であることを知っていたが,針路を河口に向く168度とし,うねりの進行速力に合わせるよう機関の調整を行い,5.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,この程度のうねりなら阿賀野川河口付近においても特に危険なことはないと思い,同河口付近に近づかないよう,新潟港西区に避難するなどのいそ波の危険性に対する配慮を十分に行うことなく進行した。
 寿光丸は,同じ針路,速力で続航中,09時00分少し前高起したいそ波を受け,09時00分阿賀野川口灯台から315.5度800メートルの地点において,船首が090度を向いたとき,大きく右舷側に傾斜し,復原力を喪失して転覆した。
 当時,天候は曇で風力4の西風が吹き,高さ1メートルの北寄りのうねりがあり,潮候は下げ潮の末期であった。
 転覆の結果,寿光丸は,圧流されて防波堤に打ち上げられ,全壊して廃船処分とされ,A受審人は,自力で船内から脱出して船底に這い上がり,のち海上保安庁の巡視船に救助されたが,低体温症などで8日間の入院を要した。

(原因)
 本件転覆は,波浪の高い状況下,新潟県松浜漁港に入航する際,いそ波の危険性に対する配慮が不十分で,阿賀野川河口に向けて航行中,高起したいそ波を受けて大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,波浪の高い状況下,新潟県松浜漁港に入航する場合,阿賀野川河口付近ではいそ波が高起し,小型船にとって危険であることを知っているのであるから,同河口付近に近づかないよう,新潟港西区に避難するなどのいそ波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,この程度のうねりなら同河口付近においても特に危険なことはないと思い,いそ波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,新潟港西区に避難するなどして同河口への進入を取りやめることなく進行し,高起したいそ波を受けて転覆する事態を招き,船体は圧流されて防波堤に打ち上げられ,全壊して廃船処分とされ,自身は船底に這い上がり,のち救助されたが,低体温症などで8日間の入院を要するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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