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平成17年那審第4号
件名

作業船協和丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年4月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平)

副理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:協和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船外機を濡損し,操舵スタンドの脱落及び船首部に擦過傷

原因
気象・海象(波浪注意報発表中)に対する配慮不十分

裁決主文

 本件転覆は,時折高い磯波の発生している水域への進入を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月10日15時30分
 沖縄県伊平屋島前泊港

2 船舶の要目
船種船名 作業船協和丸
登録長 5.36メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 29キロワット

3 事実の経過
 協和丸は,平成7年4月に第1回定期検査を受け,船外機を装備した最大とう載人員5人の和船型FRP製作業船で,昭和63年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し,平成15年11月に一級小型船舶操縦士及び特殊小型船舶操縦士免許に更新したA受審人ほか1人が乗り組み,作業員2人を乗せ,沖縄県伊平屋島前泊港南西側に拡延する裾礁外縁部に設置したボーリング作業用櫓(やぐら)(以下「櫓」という。)を解体する目的で,船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,平成16年11月10日15時00分同港内の公共岸壁を発し,同櫓に向かった。
 ところで,前泊港は,伊平屋島南東岸の前泊地区から我喜屋地区にかけて北東から南西方向に延びる長さ約1.5キロメートルの海岸線に,その東側を前泊地区の海岸からほぼ南方に延びる長さ約800メートルの前泊地区防波堤により,その南側を我喜屋地区の海岸からほぼ北東方に延びる長さ約500メートルの我喜屋地区防波堤によって囲まれ,両防波堤によって形成された幅約150メートルの防波堤入口から南東方に,可航幅80メートル長さ約500メートルの同港入出港水路(以下「前泊航路」という。)が設けられ,同航路南西側には裾礁が拡延し,同裾礁外縁付近では急激に水深が深くなり,南ないし東方からの高いうねりが寄せるときには,裾礁外縁に沿って高起した磯波が発生しやすい地形となっていた。
 また,協和丸は,沖縄県発注の前泊港航路調査測量設計業務として,同航路南西側に拡延する裾礁外縁部の地質調査のためのボーリング作業に携わる作業船として,機材等の搬送に使用され,船体中央部やや船尾寄りの右舷側に操舵スタンドを設け,係留索係止用として,船首部に梁を設置し,船尾部両舷には,各舷側の排水口を通した合成繊維製ロープを外舷に沿って巻き付けてループ状とし(以下「船尾ループ」という。),係留索を同ループに通して保持することができるようになっていた。
 A受審人は,ボーリング作業を開始するにあたり,同月2日,我喜屋地区防波堤先端に設置された前泊港我喜屋地区防波堤灯台(以下「我喜屋防波堤灯台」という。)から144度(真方位,以下同じ。)340メートルとなる裾礁外縁部に,1日で作業を完了する予定で,一辺の長さ4メートルの方形で頂部の全高約12メートルの鉄パイプ製櫓の設置作業を開始したところ,同地点付近で発生する磯波のために,中断を交えながら6日に櫓設置作業を完了し,7日にボーリング作業を終えた。
 そして,A受審人は,8日午後から櫓の解体作業を開始し,9日には波浪のために同作業ができず,10日午前中に2度防波堤入口付近まで赴いて櫓付近の波浪の状況を確認したところ,時折高い磯波が発生していたので,解体作業を行うことができないと判断して防波堤内の公共岸壁に引き返し待機していたものであった。
 15時03分A受審人は,防波堤入口付近に達したとき,櫓付近の水域では依然として時折高い磯波が発生しているのを認めたが,午前中より波高が小さくなっているように見えたので,作業可能な海面状況となればすぐに解体作業に取り掛かることができるように,櫓付近で錨泊して待機するには問題ないものと思い,同水域への進入を中止せず,15時10分櫓北西側至近の我喜屋防波堤灯台から144度335メートルの地点に至って機関を停止し,左舷船首から重さ約10キログラムの6つめ錨を投じて直径10ミリメートルの合成繊維製錨索を8メートルばかり繰り出し,船首部の梁に係止して錨泊を開始した。
 錨泊後,A受審人は,時折発生する高い磯波に,適宜舵と機関を使用して協和丸の姿勢を維持しながら作業員2人を櫓に移動させ,櫓係止用として投入していた重さ約10キログラムの錨2個の錨索を櫓から外し,1本を船首部の梁に止め,他の1本を右舷側船尾ループにとって協和丸をほぼ北東に向首する態勢とし,15時27分機関を停止して波浪の収まるのを待つこととした。
 こうして協和丸は,波浪によって動揺しながら錨泊を続けていたところ,15時30分前示錨泊地点において,左舷船首に高起した磯波を受け,一瞬のうちに右舷側に大傾斜して転覆した。
 当時,天候は曇で風力4の南南東風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,付近には波高1.5メートルの東方から寄せるうねりがあり,沖縄本島北部に波浪注意報が発表されていた。
 転覆の結果,協和丸は船外機を濡損し,操舵スタンドの脱落及び船首部に擦過傷を生じたが,事故の知らせを聞いて来援した漁船により前泊港内に曳航され,のちいずれも修理された。
 また,A受審人ほか1人が海中に投げ出されたものの,櫓に渡っていた作業員2人とともに前示漁船に救助された。

(原因)
 本件転覆は,沖縄県伊平屋島前泊港において,波浪注意報が発表されている状況下,同港内の裾礁外縁部に設置したボーリング作業用櫓の解体作業を行うにあたり,櫓付近の水域で時折高い磯波が発生しているのを認めた際,同水域への進入を中止せず,櫓付近で錨泊して待機中,高起した磯波を受け,右舷側に大傾斜したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,沖縄県伊平屋島前泊港において,波浪注意報が発表されている状況下,同港内の裾礁外縁部に設置したボーリング作業用櫓の解体作業を行うにあたり,櫓付近の水域で時折高い磯波が発生しているのを認めた場合,高起した磯波を受けて転覆することのないよう,同水域への進入を中止すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,午前中より波高が小さくなっているように見えたので,作業可能な状況となればすぐに解体作業に取り掛かることができるように,櫓付近で錨泊して待機するには問題ないものと思い,同水域への進入を中止しなかった職務上の過失により,櫓付近で錨泊して待機中,左舷船首に高起した磯波を受け,右舷側に大傾斜して転覆を招き,船外機を濡損し,操舵スタンドの脱落及び船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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