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平成17年那審第5号
件名

作業船第三大和丸沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成17年6月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一,杉崎忠志,加藤昌平)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第三大和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関に濡れ損,曳航用アーチを破損,のち廃船

原因
係船方法不適切

主文

 本件沈没は,岸壁に係留する際の係船方法が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月5日08時00分
 沖縄県伊良部島長山港
 (北緯24度48.3分 東経125度12.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 作業船第三大和丸
総トン数 10トン
全長 13.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 389キロワット
(2)設備及び性能等
 第三大和丸(以下「大和丸」という。)は,昭和63年2月に進水した,台船の曳航及び揚錨作業に従事する全通一層甲板型鋼製作業船で,甲板下には,船首側から順に空所,機関室,燃料油槽及び舵機室がそれぞれ配置され,機関室上方の船体ほぼ中央の甲板上に操舵室が,同室後方に機関室囲壁が配置され,船首部に揚錨作業用のクレーンを装備していた。
 大和丸の甲板は,船体中央において,乾舷が20センチメートル(以下「センチ」という。)で,全周が甲板上高さ50センチのブルワークで囲まれ,ブルワーク下部には1.5メートル間隔で左右両舷それぞれ3箇所に長さ1メートル高さ15センチの排水口が設けられ,機関室出入口は,左舷側ブルワークから70センチの通路を隔て,機関室囲壁左舷側に1箇所あり,縦横それぞれ50センチで,高さ20センチのコーミングが設けられ,出入口扉が取り付けられていたものの,水密パッキンが脱落し,同扉の下部には,すき間ができていた。
 また,同船の船首及び船尾ボラードは,それぞれ船首端から3メートルと船尾端から2.2メートルの左右両舷に設置され,鋼製曳航用アーチが,船尾甲板の両舷ブルワーク上に取り付けられていた。

3 事実の経過
 大和丸は,A受審人が1人で乗り組み,沖縄県伊良部島長山港において,南防波堤延長工事に従事する目的で,台船の曳航及び作業員の送迎にあたっていたところ,同防波堤先端で錨泊中のクレーン船から作業員2人を乗せ,船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水で,平成16年3月4日16時25分長山港マイナス3.0メートル物揚場(以下「岸壁」という。)に至り,右舷付けで係留することとした。
 ところで,岸壁は,同県宮古郡伊良部町字池間添の88.8メートル頂所在の伊良部三角点(以下「基点」という。)から224度(真方位,以下同じ。)2,050メートルの地点を南東端としてその岸壁法線が292度,延長が280メートルで南に面し,同頂部高さが最低水面上2.9メートル,測傍水深が2.5メートルで,岸壁上には,10メートル間隔で,ビットが設置され,同岸壁側面には,長さ1.5メートル,厚さ15センチの防舷材が海面に垂直に設けられていた。
 A受審人は,6箇月前から,前示防波堤延長工事に従事し,毎夕刻作業を終えたのち,大和丸を岸壁に係留して他の作業員とともに車で15分ほどのフェリー岸壁から定期船で宮古島の自宅に帰宅し,翌朝出勤するまで,同船を無人として係留していた。
 16時30分A受審人は,基点から227度2,120メートルの岸壁で,作業員2人とともに,船首右舷側ボラードから直径約55ミリメートル(以下「ミリ」という。)のナイロン製係留索を2.4メートル,船尾左舷側ボラードに係止した直径約36ミリのナイロン製係留索を船尾右舷側ボラードを介し,曳航用アーチの下側を通して同ボラードから3.6メートルまでそれぞれ延出し,岸壁のビット2本に各係留索先端のアイを掛け,約50センチの弛みを持たせて係留索の張り具合を均等にすることとしたが,帰宅途中に買い物をする予定であったので,フェリー岸壁に早めに向かうことに気をとられ,翌朝までの潮差を確認して十分な長さの係留索を延出するなど,適切な係船方法をとることなく,船首を292度に向けて係留を終え,16時35分同人は,大和丸を無人とし,他の作業員とともに帰宅の途に就いた。
 大和丸は,無人のまま係留されるうち,17時54分151センチの満潮となったのち,下げ潮となって潮位が下がるにつれ,船体が下降して船首及び船尾の両係留索が,次第に張り始め,20時44分潮位が94センチとなって同係留索が一杯に張り,船体が次第に左舷に傾斜を始めた。
 大和丸は,船体の傾斜が増すとともに,両係留索の緊張が,さらに増し,その後船尾係留索が,下方から上向きに曳航用アーチを押し上げ,同アーチの右舷取付部が右舷ブルワーク上面から脱落して,船体後部が一気に降下して海面下となり,同時に機関室出入口扉の下部から大量の海水が,同室に浸入して左舷甲板が海水に洗われ,同出入口が水没して海水の流入が続く状態となって,やがて浮力を失い,翌5日08時00分前示係留地点において,船首及び船尾係留索で係止したまま,船首部を海面から出して沈没しているところを出勤してきたA受審人に発見された。
 当時,天候は晴で風力2の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,潮差は,140センチであった。
 沈没の結果,大和丸は,機関に濡れ損を生じたほか,曳航用アーチを破損し,のち廃船となった。

(本件発生に至る事由)
1 機関室出入口扉の水密パッキンが脱落し,同扉の下部にすき間ができていたこと
2 翌朝までの潮差を確認して十分な長さの係留索を延出するなど,適切な係船方法をとらなかったこと
3 船尾係留索を曳航用アーチの下側を通して岸壁のビットにとったこと
4 大和丸を無人として帰宅したこと

(原因の考察)

 A受審人が,沖縄県伊良部島長山港岸壁において,機関室出入口扉の水密パッキンが脱落し,同扉の下部にすき間ができていた大和丸を係留する際,船内を無人として帰宅したとしても,翌朝までの潮差を確認して十分な長さの係留索を延出するなど,適切な係船方法をとっていれば,沈没を容易に回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,翌朝までの潮差を確認して十分な長さの係留索を延出するなど,適切な係船方法をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,大和丸の機関室出入口扉の水密パッキンが脱落し,同扉の下部にすき間ができている状態で,船尾係留索を曳航用アーチの下側を通してビットにとり,船内を無人として帰宅したことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)

 本件沈没は,沖縄県伊良部島長山港岸壁において,船内を無人として右舷付けで係留する際,係船方法が不適切で,潮位が下がるにつれ,係留索が,緊張して船体が次第に左舷に傾斜を始める状態となり,その後,同索の緊張がさらに増して船尾係留索が,下方から上向きに曳航用アーチを押し上げ,同アーチの右舷取付部が右舷ブルワーク上面から脱落して,船体後部が一気に降下して海面下となり,同時に機関室出入口扉の下部から大量の海水が,同室に浸入し,左舷甲板が海水に洗われて同出入口が水没して海水の流入が続く状態となって,浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,沖縄県伊良部島長山港岸壁において,船内を無人として右舷付けで係留する場合,船体が潮位の変化に応じて適切に上下できるよう,潮位を確認して十分な長さの係留索を延出するなど,適切な係船方法をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,フェリー岸壁に早めに向かうことに気をとられ,適切な係船方法をとらなかった職務上の過失により,十分な長さの同索を延出しないまま係留するうち,潮位が下がるにつれ,係留索が,緊張して船体が次第に左舷に傾斜を始める状態となり,その後,同索の緊張がさらに増して船尾係留索が,下方から上向きに曳航用アーチを押し上げ,同アーチの右舷取付部が右舷ブルワーク上面から脱落して,船体後部が一気に降下して海面下となり,同時に機関室出入口扉の下部から大量の海水が,同室に浸入し,左舷甲板が海水に洗われて同出入口が水没して海水の流入が続く状態となって,やがて浮力を喪失させて沈没を招き,機関に濡れ損を,曳航用アーチに破損をそれぞれ生じさせ,のち廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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