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平成17年仙審第9号
件名

押船天星被押起重機船天竜乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年5月31日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士,原 清澄,大山繁樹)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:天星船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
天星・・・ない
天竜・・・右舷前部船底外板に亀裂を伴う凹損,のち全損処理

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は,水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月21日08時45分
 新潟県佐渡島相川湾西方沖合
 (北緯38度02.7分東経138度13.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船天星 起重機船天竜
総トン数 19.00トン  
全長 13.45メートル 54.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 588キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 天星
 天星は,平成8年3月に進水し,船体中央部に機関室を有し,同室の上に建てた,甲板上高さ約7.7メートルの櫓の頂部に操舵室を配した2機2軸2舵の鋼製押船で,操舵室中央部の前面窓際から後方に,磁気コンパス,操舵輪及び操舵用のいすが順に並び,磁気コンパスの右側に機関操作盤,操舵輪の左側にGPS,操舵室後部左隅にレーダー,右舷側壁後側に天竜のスラスター操作盤と無線機がそれぞれ設置されていた。速力は,機関回転数毎分1,250で,独航で8から8.5ノット,押航で5から5.5ノットであった。
イ 天竜
 天竜は,平成8年5月に建造され,船首中央部に旋回式クレーン,船首部水線下にサイドスラスター,船尾中央部に長さ12メートルの天星との嵌合用凹部,同凹部の両側に2層の居住区がそれぞれ装備された鋼製の起重機船で,専ら天星が甲板上の船首部及び船尾部各両舷に装備した40トンの油圧ジャッキで,船尾部に船体を嵌合し,全長約56メートルの押船列(以下「天星押船列」という。)を構成して港湾土木工事に従事していた。

3 事実の経過
 天星は,A受審人ほか2人が乗り組み,船首1.4メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,作業員3人を乗せ,空倉で船首尾1.5メートルの等喫水とした天竜の船尾凹部に船体を嵌合して天星押船列とし,防波堤補強のための消波ブロック据え付け工事を終了して,接近が予想された台風6号の避難のため,平成16年6月21日08時00分新潟県姫津漁港達者地区を発し,同県二見港に向かった。
 ところで,姫津漁港達者地区から二見港に向かう途中の,佐渡島西岸相川湾沖合には,ガサグリと称する暗岩があり,海図第1180号などにも記載されていた。しかし,A受審人は,これまでに6回ばかり相川湾沖合を航行した経験があったものの,GPSに記憶させてある離岸距離を十分にとった過去の航跡をたどって航行していたことから,海図を見るなどして,水路調査を十分に行わず,ガサグリの存在を知らなかった。
 A受審人は,単独で操船にあたり,抜錨して西行し,姫津漁港達者地区沖合に設定された定置網区域の北西端を示す浮標を左舷側に見て航過した後,同地区西方沖合に出たところで,いつものようにGPSの航跡に乗って南下する予定でいたところ,東風が強かったことからこれを避けることとし,08時18分GPSの航跡より陸岸寄りとなる一里島灯標から008度(真方位,以下同じ。)2.6海里の地点で針路を191度に定め,機関を全速力前進にかけ,5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,操舵室のいすに腰掛けて手動操舵により進行した。
 定針時,A受審人は,ガサグリの存在を知らなかったので,定針地点がGPSの航跡より陸岸寄りであったものの,定めた針路で南下しても航行に支障はないものと思い,同針路がガサグリに向首している状況であることに気付かず,その後,レーダーを休止して目視のみで周囲の見張りにあたり,一里島灯標を正船首やや左に見て続航した。
 08時40分A受審人は,一里島灯標から000度1,600メートルの地点に達したとき,依然,自船に備えていた海図第1180号を精査するなど水路調査を十分に行わず,定めた針路がガサグリに向首している状況であることに気付かず,針路を右転させないまま,ガサグリを避けないで進行中,天星押船列は,突然衝撃を受け,08時45分一里島灯標から349度800メートルの地点において,原針路,原速力のまま,ガサグリに乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力5の東風が吹き,潮候は低潮時で,視程は良好であった。
 乗揚の結果,天星に損傷はなく,天竜は右舷前部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じ,自力で離礁できずに船固めをしたが,その後荒天により圧流されて付近の陸岸に漂着し,のち全損処理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人がGPSに航跡が残っている海域では,船内に備え付けられている海図を参照しなかったこと
2 いつもより陸岸に近い針路をとったこと
3 定針後の針路線上にガサグリが存在することを知らなかったこと

(原因の考察)
 本件は,姫津漁港達者地区を発進し,同地区沖合で針路を191度に定めたとき,相川湾西方沖合に存在するガサグリに向首する状況になり,そのまま進行して乗り揚げたものであり,ガサグリは海図に記載されていることから,A受審人が海図を参照するなどして,事前に水路調査を行っていれば,ガサグリの存在を知って乗揚を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が水路調査を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,いつもより陸岸に近い針路をとったこと及び定針後の針路線上にガサグリが存在することを知らなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,ガサグリの存在を知ることによって解消できる事実であり,原因とならない。

(海難の原因)

 本件乗揚は,新潟県佐渡島相川湾西方沖合において,同県二見港に向けて南下中,ガサグリに向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,新潟県佐渡島相川湾西方沖合において,単独で船橋当直に当たって南下する場合,前路に存在するガサグリに向首することのないよう,船内に備え付けられた海図を参照するなどして,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,定めた針路で南下しても航行に支障はないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,同針路がガサグリに向首している状況であることに気付かないまま進行して乗揚を招き,天星に損傷はなかったものの,天竜の右舷前部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせ,自力で離礁できずに船固めをしたが,その後荒天により圧流されて付近の陸岸に漂着し,のち全損処理されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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