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平成17年横審第20号
件名

漁船第一満丸モーターボートこうゆう丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年5月26日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史)

理事官
河野 守

受審人
A 職名:第一満丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:こうゆう丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第一満丸・・・船首左右両舷のブルワークを圧壊
こうゆう丸・・・船首防舷材及びプロペラ軸等を損傷

原因
こうゆう丸・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第一満丸・・・警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,こうゆう丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している第一満丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第一満丸が,汽笛不装備で警告信号を行うことができず,かつ,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月12日09時10分
 愛知県三河湾南西方海域

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一満丸 モーターボートこうゆう丸
総トン数 9.93トン 4.8トン
登録長 13.80メートル 12.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   364キロワット
漁船法馬力数 35  

3 事実の経過
 第一満丸(以下「満丸」という。)は,小型機船底びき網漁業に従事する全長12メートル以上14メートル未満のFRP製漁船で,A受審人(昭和50年1月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年9月12日05時00分愛知県大浜漁港を発し,同港南方沖合の三河湾南西方海域の漁場に向かった。
 A受審人は,05時40分知多半島鳶ケ埼(とびがさき)北東方の漁場に至り,幅5.5メートルの鉄製の桁を網口に備えた底びき網を水深12メートルばかりの海底に投入し,同網に取り付けたワイヤ製の曳網索(えいもうさく)1本を船尾甲板上から約63メートル延出し,漁ろうに従事していることを示す黒色の鼓形の形象物を掲げずに底びき網漁業を始めた。
 08時55分A受審人は,大井港口灯標から014度(真方位,以下同じ。)2.1海里の地点で,揚網を終えて再び曳網することとし,針路を148度に定め,機関を曳網時の回転数毎分900にかけ,4.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 A受審人は,操舵室の舵輪後方に立ち,時折振り返って曳網状態を確認しながら操舵にあたり,09時09分少し過ぎ大井港口灯標から039度1.6海里の地点に達したとき,右舷船首41度600メートルのところに,北方に向首したこうゆう丸を初めて視認し,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたものの,汽笛不装備で警告信号を行うことができず,自船の進路を避けないまま間近に接近したが,いずれこうゆう丸が曳網中の自船を避航するものと思い,機関を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 09時10分少し前A受審人は,こうゆう丸が至近に迫ってようやく衝突の危険を感じ,急ぎ左舵一杯をとったが及ばず,09時10分大井港口灯標から041度1.6海里の地点において,満丸は,左転中の船首が090度に向いたとき,原速力のまま,その右舷船首部にこうゆう丸の船首が後方から74度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 また,こうゆう丸は,FRP製モーターボートで,B受審人(昭和52年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,釣りの目的で,喫水不詳のまま,同日07時30分愛知県一色漁港を発し,伊良湖水道南方沖合の釣り場に向かった。
 発航後B受審人は,南下を続け師崎水道を経て伊良湖岬に差し掛かったとき,南方沖合海域にかなり大きな波浪が発生しているのを見て釣り場を変えることとし,反転して間もなく伊勢湾沖ノ瀬付近の釣り場に至ったところ,遊漁中の他船から釣果が思わしくないことを聞き,釣りを断念して帰途に就いた。
 B受審人は,操舵室右舷側の操縦席に座って操舵にあたり,09時05分半大井港口灯標から128度1,350メートルの地点で,針路を一色漁港に向かう016度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分1,500にかけ,23.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 定針時B受審人は,左舷船首7度2.0海里のところに,南東方に向首した満丸を初めて視認したが,一見しただけでその船首方を替わるものと思い,引き続き満丸に対する動静監視を十分に行うことなく,そのころ右舷船首方遠距離にほぼ停止状態の2隻の漁船を認め,それらの動きを見守りながら続航した。
 09時09分少し過ぎB受審人は,大井港口灯標から046度1.35海里の地点に達したとき,満丸が同方位のまま600メートルとなり,漁ろうに従事していることを示す所定の形象物が掲げられていなかったものの,その船型や速力模様,更に,船尾甲板上から延出された曳網索から底びき網を曳網し漁ろうに従事していることが分かり,その後衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然として同船に対する動静監視が不十分で,このことに気付かず,満丸の進路を避けることなく進行した。
 09時10分わずか前B受審人は,船首至近に迫った満丸に気付いたがどうすることもできず,こうゆう丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突し,満丸の船首部に乗り上がった。
 衝突の結果,満丸は船首左右両舷のブルワークを圧壊し,こうゆう丸は,船首防舷材及びプロペラ軸等を損傷したが,両船とも付近の僚船により一色漁港に曳航救助され,のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は,愛知県三河湾南西方海域において,北上中のこうゆう丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している南東進中の満丸の進路を避けなかったことによって発生したが,満丸が,汽笛不装備で警告信号を行うことができず,かつ,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は,愛知県三河湾南西方海域において,帰港地に向かって北上中,左舷船首方に南東方に向首した満丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一見しただけでその船首方を替わるものと思い,引き続き満丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,底びき網を曳網し漁ろうに従事中の同船と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,満丸の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,満丸の船首左右両舷のブルワークを圧壊させ,こうゆう丸の船首防舷材及びプロペラ軸等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,愛知県三河湾南西方海域において,底びき網を曳網し低速力で南東進中,こうゆう丸が衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避けないまま間近に接近した場合,機関を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,いずれこうゆう丸が曳網中の自船を避航するものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,こうゆう丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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