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平成16年広審第62号
件名

水上オートバイドルフィンブロウ遊泳者負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年3月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:ドルフィンブロウ船舶借受人 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ドルフィンブロウ船舶所有者
C 職名:ドルフィンブロウ操縦者

損害
遊泳者が頭部打撲及び切創の負傷

原因
無資格者が操縦したこと,船舶借受人が,無資格者に操縦を断念させなかったこと

裁決主文

 本件遊泳者負傷は,愛媛県大島友浦久米キャンプ場の海浜沖合において,無資格者が操縦したことによって発生したものである。
 船舶借受人が,無資格者に操縦を断念させなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月26日14時20分
 愛媛県大島友浦久米キャンプ場海浜沖合

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイドルフィンブロウ
全長 2.20メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 52キロワット
(2)設備及び性能等
 ドルフィンブロウ(以下「ド号」という。)は,1人乗り用のFRP製水上オートバイで,計器類を装備せず,起倒式のハンドルを備えて甲板に正座または立って操縦するもので,ハンドルの右グリップにスロットルレバーを,左グリップに機関始動及び同停止の各スイッチをそれぞれ備え,機関停止スイッチにはスパイラルコードが取り付けられて,航行中に操縦者が落水すると,操縦者の腕に連結された同コードが引かれて同スイッチが作動し,機関が停止するようになっていた。

3 事実の経過
 ド号は,B指定海難関係人(平成14年9月四級小型船舶操縦士免許取得)の自宅に保管されていたところ,同人の軽トラックで搬送され,平成15年7月26日11時30分愛媛県大島友浦久米キャンプ場(以下「キャンプ場」という。)に到着してその海浜に降ろされた。
 これに先立ち,A受審人(平成14年9月四級小型船舶操縦士免許取得)は,B及びC両指定海難関係人などの仲間約30人とキャンプを催すにあたり,自分及びB指定海難関係人のほか操縦免許を受有する者がキャンプ仲間にはいなかったところ,B指定海難関係人にド号をキャンプ場に持ってくるよう要請していた。
 ところで,キャンプ場は,大島照埼北方にある南北約350メートルの海浜に面し,その東方沖合約550メートルのところには愛媛県横島があり,海浜から数メートル沖合に1隻の漁船が船首を海浜に向けて係留されていた。
 B指定海難関係人は,12時00分A受審人と交替しながらド号を操縦してキャンプ場の海浜沖合を遊走したのち,自分だけ遊泳することとし,13時30分係留漁船北側の遊泳者のいないところで遊走するよう注意を与えたうえでA受審人に同船を貸与した。
 A受審人は,B指定海難関係人と交替しながらド号を操縦してキャンプ場の海浜沖合を遊走したのち,13時30分同人から同船を借り受けて1人で遊走を楽しみ,キャンプ場の海浜に戻ったところ,C指定海難関係人からド号を操縦してみたい旨の申入れがあったが,同人が無資格であることを知っていたにもかかわらず,皆で楽しもうと思い,操縦を断念させることなく,機関始動及び同停止の各スイッチ,スロットルレバー並びにスパイラルコードを腕に連結することなどの操縦方法を簡単に説明して,自分は遊泳を始めた。
 C指定海難関係人は,操縦免許を受有しておらず,それまで水上オートバイやモーターボートを一度も操縦したことがなかったところ,A受審人が催したキャンプに参加して,同人やB指定海難関係人がド号を操縦して遊走する様子を見て興味を持ち,海浜に戻ったA受審人に同船を操縦してみたい旨を申し入れ,同人から操縦方法の説明を簡単に受けたのち,14時20分少し前無資格でド号を操縦し,係留漁船北側海浜の波打ち際を沖合の横島に向けて発進した。
 こうして,C指定海難関係人は,救命胴衣を着用してスパイラルコードを左腕に連結し,正座した姿勢でハンドルを持ち,右手人差し指でスロットルレバーを操作して数メートル進んだところ,操縦技術が未熟で,急に毎時20キロメートルの速力に増速し,次いでハンドルを右にとったところ,右舷側の係留漁船から数メートル離して右に急旋回するようになり,14時20分わずか前ほぼUターンしてキャンプ場の海浜に向首したとき,バランスを崩して右舷側に落水した。
 ド号は,スパイラルコードが引かれて機関が停止し,無人となったまま海浜に向かって惰力で進行し,14時20分大島の戸代山234メートル山頂三角点から真方位155度880メートルの地点において,毎時5キロメートルの速力で,遊泳者に接触した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で海面は平穏であった。
 A受審人及びB指定海難関係人は,遊泳中,付近の遊泳者が上げた声を聞いて,ド号が遊泳者と接触したことを知り,事後の措置にあたった。
 その結果,ド号に損傷はなかったが,遊泳者が頭部打撲及び切創を負った。

(原因)
 本件遊泳者負傷は,キャンプ場の海浜沖合において,無資格者が操縦し,操縦技術未熟で落水して,ド号が無人となったまま遊泳者に向かって進行したことによって発生したものである。
 船舶借受人が,無資格者からド号を操縦してみたい旨の申入れがあった際,操縦を断念させなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は,キャンプ場の海浜沖合において,船舶所有者からド号を借り受けて遊走中,無資格のキャンプ仲間から同船を操縦してみたい旨の申入れがあった場合,操縦を断念させるべき注意義務があった。しかし,同人は,皆で楽しもうと思い,操縦を断念させなかった職務上の過失により,無資格の操縦者が操縦技術未熟で発進直後に落水して,ド号が無人となったまま惰力で進行して遊泳者と接触し,遊泳者が頭部打撲及び切創を負う事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が,キャンプ場の海浜沖合において,無資格でド号を操縦したことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,無資格で操縦したことを深く反省している点に徴し,勧告しない。
 B指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。





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