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平成16年広審第95号
件名

旅客船フェリーくるしま乗組員死亡事件
第二審請求者〔受審人 A,B,補佐人 F〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年2月9日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,佐野映一)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:フェリーくるしま船長 海技免許:二級海技士(航海)
B 職名:フェリーくるしま一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:フェリーくるしま甲板手
D 職名:E社運航管理者
補佐人
F

損害
甲板員が,脳挫傷により死亡

原因
車両誘導時の安全措置不十分,運航管理者が車両誘導時の安全措置について運航管理不十分

主文

 本件乗組員死亡は,車両誘導中の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 運航管理者が,車両誘導中の安全措置について運航管理が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Aの二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月26日20時40分
 愛媛県松山港
 (北緯33度53.4分 東経132度42.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船フェリーくるしま
総トン数 4,277トン
全長 119.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 8,237キロワット
(2)設備及び性能等
 フェリーくるしま(以下「くるしま」という。)は,昭和62年1月に進水した沿海区域を航行区域とする鋼製旅客フェリーで,上方から順に船橋楼甲板,客室甲板及び2層の車両甲板を有し,船橋楼甲板の船首側に操舵室が配置され,最大搭載人員は782人並びに車両甲板積載能力はトラック73台及び乗用車41台で,瀬戸内海におけるE社の関門港小倉区及び松山港間の定期航路に就航しており,いずれも出港21時55分及び入港05時00分で,僚船のフェリーはやとも2と交互に運航に当たっていた。
 車両甲板は,上側をC甲板,下側をD甲板と呼称しており,D甲板の船首部に乗船用及び船尾部に下船用ランプウェイを有し,C,D両甲板間の昇降は船内ランプウェイを使用するようになっており,また,C甲板は,6車線を有して右舷側から順に1番線,2番線と呼称され,4番線船首寄りに昇車用及び3番線船尾寄りに降車用の船内ランプウェイが設置され,主にシャーシ,無人のトラック及び乗用車を積み込むようになっていた。

3 車両積込み
(1)シャーシ
 シャーシは,運転席のない荷台だけのもので,概略の大きさは,長さ12メートル幅2.8メートル底床部までの高さ1.15メートルで,牽引自動車(以下「ヘッド」という。)に連結されて移動するようになっていた。また,ヘッドを切り離すときには前部固定脚2本を約50センチメートル(以下「センチ」という。)下ろす必要があり,同脚を下ろすためのハンドルが前部左側に設けられ,約50センチ下ろすためにはハンドルを50回転ほど回さなければならず,その作業には1分ないし1分半を要した。
(2)シャーシなどの積込み計画
 シャーシなどの積込み計画は,まず,D甲板船首部の乗船用ランプウェイにおいて船内作業指揮者であるB受審人が,ヘッドの運転手に乗船を指示し,運転手は,乗船して船内ランプウェイを昇ってC甲板に上り,同甲板で待機している船内作業員の誘導に従って所定の場所にシャーシを止めるようになっていた。また,B受審人は,船尾側4番線にはシャーシ1台しか積めなかったことから先にそこに積み込み,その後船尾側から1,6,2,5番線の順に積み込み,各シャーシの間隔は,左右約40センチ,前後約50センチとることとし,その間に適宜無人乗用車を1,2,3番線船首側にも積み込む予定にしていた。また,車止めは,船内ランプウェイ側に置いてあり,1,2,3番線に積み込むときには,シャーシ左側タイヤの前後2箇所に取り付けるようになっており,その担当は後方でシャーシの誘導に当たる者となっていた。
(3)運転手
 シャーシを移動させるヘッド及び無人のトラックや乗用車の運転には,松山港での陸上作業委託業者であるG社の運転手が当たっており,当時は4人派遣されていた。
(4)C甲板での乗組員の配置及び服装
 C甲板での乗組員の配置は,昇車口に配置された二等航海士Hが運転手に積込み場所を指示し,甲板長I,操機手J,甲板手K,同L,C指定海難関係人及びM甲板員の6人が適宜2人1組となってシャーシの前方及び後方において誘導する(以下「前方誘導者」及び「後方誘導者」という。)ようになっていた。また,乗組員はヘルメットをかぶり,反射型チョッキを着用し,誘導灯及び笛を所持していた。
(5)車両誘導時の合図
 車両誘導時の合図は,後方誘導者が笛による誘導を行い,ピピーピピーピピーが「そのままバック。」,ピピピが「停止まであとわずか。」,ピーが「停止。」となっており,シャーシが長大であるだけでなく,ヘッドのエンジン音や他所での笛誘導などに妨げられて運転手が笛の音を聞き漏らすおそれがあるので,前方誘導者が口頭による誘導を行い,「そのまま。」,「あとわずか。」,「停止。」と運転手に直接伝えるようになっていた。

4 運航管理規程及び作業基準
 運航管理規程は,旅客船の運航業務を適正かつ円滑に処理するための責任体制及び業務実施の基準を明確にし,もって輸送の安全を確保することを目的として作成され,運航管理者は船長の職務権限に属する事項を除き,船舶の運航その他輸送の安全確保に関する業務全般を統括し,規程を遵守してその実施の確保を図ることとし,船長は乗組員の中から船内作業員を指名し,その中から船内作業指揮者を指名するようになっており,作業員の具体的配置及び船内作業指揮者の所掌その他の作業体制については,作業基準によると定められていた。そして,同基準には,トラック誘導時などの船内作業員配置と船内作業指揮者が車両の乗下船時の誘導及び積付けを行うことなどが定められていた。

5 D指定海難関係人の運航管理模様
 D指定海難関係人は,車両の積込みにおいては,各種車両が混載されて各船においてその方法が相違していること,及び各船の船内作業指揮者である一等航海士によって経験的方法が伝承されていることにより,平成12年5月に参考となる項目だけを活用するよう付記したうえで,僚船N号が自主的に作成した船内荷役マニュアルを各船に配布し,また,同14年12月に船舶部長名で,年末年始の多客期にあたって,「船内車両誘導の具体的方法」を各船に配布したが,船内車両誘導の基本的マニュアルを作成し,また,同誘導の実地指導を行うなどして車両誘導中の安全措置について運航管理を十分に行わなかった。

6 くるしま船内荷役マニュアル
 くるしま船内荷役マニュアルは,くるしまにおいて独自に作成されたもので,車両誘導については,前方1名及び後方1名の2人体制とすること,車両真後ろでの誘導は行ってはならないこと,ヘッドが切り離されるまではシャーシの後方を通行しないこと及び車止め取付け作業を行わないことなどが定められていた。

7 A受審人の指示模様
 A受審人は,B受審人を船内作業指揮者に指名して車両積込み作業に当たらせる際,いつも行っている作業であることから,B受審人に任せておけばよいものと思い,くるしま船内荷役マニュアルを参考にするなどして車両誘導中の安全措置をとるよう指示を十分に行わなかった。

8 事実の経過
 くるしまは,A受審人,B受審人及びC指定海難関係人ほか15人が乗り組み,車両及び旅客を乗せ,平成15年8月25日21時55分関門港小倉区を発し,翌26日05時00分松山港に着岸し,車両などを降ろして沖合で錨泊したのち,岸壁が空くのを待って同日19時52分抜錨して20時10分松山港観光港第1フェリー岸壁に船首付けした。
 これより先,17時00分B受審人は,当日の予約車両はトラック43台,乗用車36台,シャーシ17台,無人のトラック3台及び乗用車9台でほぼ満車状態である旨の積リストをファックスで受信して作業前ミーティングを行ったが,いつも行っている作業であることから,事故のないよう気を付けて下さいと指示しただけで,車両誘導は2人で行うこと,シャーシが停止して切り離されるまではその後方を通行しないこと,前方誘導者は後方誘導者の笛の合図を確実に口頭で運転手に伝えることなど車両誘導中の安全措置について船内作業員に具体的な指示を十分に行わなかった。
 このようにして,20時15分B受審人は,D甲板船首部ランプウェイに立って船内作業員及び運転手に指示して積込みを開始し,C甲板船尾側4,1,6,2,5,1,6番線の順にシャーシを積み込み,その間同甲板右舷船首側に無人乗用車3台の積込みも随時行い,同時38分シャーシ8台目に当たる2番線の2台目に積み込むシャーシ(以下「事故車」という。)を乗船させた。
 事故車を牽引した運転手は,B受審人の指示によりD甲板船首部ランプウェイから乗船し,船内昇車用ランプウェイを昇ってC甲板に上がり,H二等航海士の指示により2番線船尾側に向かうため左にUターンして停止したのち,事故車の右側後方で誘導に当たっているM甲板員の吹く笛の合図に従い,運転席右側窓から体を出して後方の同甲板員を見ながら,左手でハンドルを操作してバックを始めた。
 M甲板員は,単独で事故車の右側後方について誘導に当たり,そのままという意味のピピーピピーピピーと笛を吹いてバックさせ,1番線2台目のシャーシ前部に事故車後部が並ぶ前に同車の後方に移動した。
 I甲板長は,1番線2台目のシャーシ積込みが終わって事故車がバックしているのを認め,同車の左側に移動してシャーシ固定脚用ハンドルを回すとともに,笛の合図を聞きながら事故車と一緒に進んだが,M甲板員の姿を見なかった。
 これより先,C指定海難関係人は,右舷船首側で無人乗用車2台を1人で誘導して積み込み,3台目を誘導中にL甲板手が応援に来たとき,前方誘導者がつかないまま笛の合図に従って2番線でバックしている事故車を認めたので,無人乗用車の誘導を同甲板手に任せ,走って事故車の運転席右側についた。そのとき同車後部が1番線2台目のシャーシ前部に並んでおり,M甲板員の姿を見なかったのに事故車を停止させてその所在を確認しないまま,同人が吹いているピピーピピーピピーの笛に従って「そのまま。そのまま。」と口頭で運転手に伝えた。
 M甲板員は,2番線1台目のシャーシ前部に事故車後部が接近したので,1番線1台目と2台目とのシャーシの間に退避して停止まであとわずかのピピピの笛を吹き,続いて停止のピーの笛を吹いた。
 C指定海難関係人は,事故車の運転席右側についてピピピ及びピーの笛を聞いたが,経験豊富な運転手から笛の合図をその都度伝えることに対して,「分かっているからその都度合図を伝えなくてもいい。」としかられたことがあったことから,船内の白線に沿ってまっすぐバックする同車の運転状況から経験豊富で上手な運転手であると思い,あとわずか及び停止を口頭で運転手に伝えることなく,シャーシ固定脚用ハンドルを回そうとして同車の左側に移動した。
 M甲板員は,停止の笛を吹いたのち,事故車が停止してヘッドが切り離されるのを確認しないで,船内ランプウェイ側に置いてある車止めをとるために同車後方を通行してその左側に向かった。
 運転手は,ピピピの笛を聞いて速度を緩めたものの,その後ピーの笛が聞こえず,停止という口頭の誘導もなかったので不審に思って停止したところ,20時40分,松山港高浜5号防波堤灯台から194度(真方位,以下同じ。)580メートルにあたる松山港観光港第1フェリー岸壁に,188度に向首して船首付けしているくるしまのC甲板において,M甲板員が,2番線1台目のシャーシ前部と事故車後部との間の右側で立った姿勢で左側を向いて挟まれた。
 当時,天候は曇で風はなく,海上は平穏であった。
 C指定海難関係人は,事故車の左側に移動したところ,すでにI甲板長がシャーシ固定脚用ハンドルを回していたので,左舷船尾側に移動して他のシャーシの誘導に当たった。
 運転手は,シャーシ後方の間隔を確認するため降車して前方から左側に回ったところ,I甲板長がハンドルを回しているのを見てこの位置でよいものと判断し,事故車のヘッドを切り離して次のシャーシの積込みに向かった。
 20時50分I甲板長は,1番線3台目のシャーシを積み込んでいるとき,挟まれているM甲板員に気付き,同甲板員は救急車によって病院に搬送されたが,脳挫傷により死亡した。

9 事後の措置
 D指定海難関係人は,船内における荷役作業の手順及び要領を定め,すべての作業員が共通の認識の下に作業を行うことにより,荷役作業の安全と車両甲板における旅客の安全を確保し,事故防止を図ることを目的として,平成15年12月に船内荷役マニュアルを作成し,同マニュアルには,2人誘導体制がとれたことを確認して車両誘導を開始すること,前方誘導者は後方誘導者の姿が確認できないときには誘導作業をいったん中止して同者の所在を確認すること,前方誘導者は後方誘導者の笛の合図を口頭で運転手に明確に伝えること,後方誘導者はシャーシが停止してヘッドから切り離されるまでその後方を横切ってはならないことなどが定められていた。また,各船において安全講習会を開催し,作成した船内荷役マニュアルに基づいた車両誘導方法についての実地指導及び作業前ミーティングにおいては積込みの説明だけでなく同マニュアルを厳守することなどの指導を行ったうえ,2人誘導体制が維持しやすいよう車両の積込み時間間隔を長くした。

(本件発生に至る事由)
1 D指定海難関係人が,車両誘導中の安全措置について運航管理を十分に行わなかったこと
2 A受審人が,船内作業指揮者に対し,車両誘導中の安全措置をとるよう指示を十分に行わなかったこと
3 ほぼ満車状態であったこと
4 B受審人が,船内作業員に対し,車両誘導中の安全措置について具体的な指示を十分に行わなかったこと
5 同時にC甲板3箇所で積込みを行ったこと
6 シャーシの誘導を2人体制で行っていなかったこと
7 C指定海難関係人が,走って事故車の運転席右側についたこと
8 C指定海難関係人が,事故車の運転席右側についたとき,M甲板員を見かけなかったのに同車を停止させてその所在を確認しなかったこと
9 M甲板員が,2番線1台目のシャーシ前部に事故車後部が接近したので,同車右側に当たる1番線1台目と2台目とのシャーシの間に退避したこと
10 C指定海難関係人が,事故車の運転席右側について,ピピピ及びピーの笛を聞いたのに,あとわずか及び停止を口頭で運転手に伝えなかったこと
11 M甲板員が,停止の笛を吹いたのち,事故車が停止してヘッドが切り離されるのを確認しないで,同車左側に置いてある車止めをとるためにその後方を通行したこと

(原因の考察)
 本件乗組員死亡は,死亡した乗組員が,事故車が停止してヘッドが切り離されたのを確認したのち,その後方を通行していたならば発生しなかったことは容易に推定できるが,発生までには組織的及び個人的事由が介在しており,その中の1つ又は複数の事由が排除されていればその発生を防止できたものと考えられる。
 D指定海難関係人が,車両誘導中の安全措置について運航管理を十分に行わなかったことは,基本的船内車両誘導マニュアルを作成し,同誘導の実地指導を行うなどして全船共通の作業手順を確立させるべきであったので,本件発生の原因となる。
 A受審人が,船内作業指揮者に対し,船内作業員の車両誘導中の安全措置をとるよう指示を十分に行わなかったこと,及びB受審人が,作業前ミーティングの際,船内作業員に対し,車両誘導中の安全措置について具体的な指示を十分に行わなかったことは,現場の各責任者として船内作業員に安全に対する意識を強く認識させて車両誘導中の安全を図るべきであったので,いずれも本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が,事故車の運転席右側について,ピピピ及びピーの笛を聞いたのに,あとわずか及び停止を口頭で運転手に伝えなかったことは,運転手が停止すべき時機を失したことになるので,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が走って事故車の運転席右側についたこと,同人が同車の運転席右側についたとき,M甲板員を見かけなかったのに事故車を停止させてその所在を確認しなかったことは,いずれも2人誘導体制が維持されていなかった結果で,車両誘導中の安全措置が十分でなかった態様である。
 また,ほぼ満車状態であったこと及び同時にC甲板3箇所で積込みを行ったことは,いずれも2人誘導体制が維持されにくかった背景である。
 なお,M甲板員が2番線1台目のシャーシ前部に事故車後部が接近したので,同車の右側に当たる1番線1台目と2台目とのシャーシの間に退避した理由については明らかにできないが,車止めは左側に置いてあったうえ,左側タイヤの前後2箇所に取り付けることになっていた点から,事故車の左側において誘導していれば,同車後方を通行する理由が生じず,本件は発生しなかったものと考えられる。

(海難の原因)
 本件乗組員死亡は,松山港において,船内に車両を積み込む際,車両誘導中の安全措置が不十分で,誘導中の乗組員が,牽引自動車によってバックするシャーシと,すでに積込みを終了していたシャーシとの間に挟まれたことによって発生したものである。
 車両誘導中の安全措置が十分でなかったのは,船長が車両誘導中の安全措置をとるよう一等航海士に指示を十分に行わなかったことと,一等航海士が車両誘導中の安全措置について船内作業員に具体的な指示を十分に行わなかったことと,前方誘導者の甲板手が後方誘導者の甲板員の笛による停止の合図を口頭で運転手に伝えなかったことと,後方誘導者の甲板員がシャーシが停止して牽引自動車が切り離されるのを確認しないでその後方を通行したこととによるものである。
 運航管理者が車両誘導中の安全措置について運航管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,一等航海士を船内作業指揮者に指名して車両積込み作業に当たらせる場合,同作業は狭い間隔で積み込むことから,車同士や人との接触を防止できるよう,くるしま船内荷役マニュアルを参考にするなどして車両誘導中の安全措置をとるよう一等航海士に指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,いつも行っている作業であることから,一等航海士に任せておけばよいものと思い,車両誘導中の安全措置をとるよう一等航海士に指示を十分に行わなかった職務上の過失により,乗組員がシャーシ間に挟まれて死亡する事態が生じるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,松山港において,船内作業指揮者として車両積込み作業に当たる場合,同作業は狭い間隔で積み込むことから,車同士や人との接触を防止できるよう,作業前ミーティングなどで,車両誘導は2人で行うこと,シャーシが停止して切り離されるまではその後方を通行しないこと,前方誘導者は後方誘導者の笛の合図を確実に口頭で運転手に伝えることなど,車両誘導中の安全措置について船内作業員に具体的な指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,いつも行っている作業であることから,事故のないよう気を付けて下さいと指示しただけで,車両誘導中の安全措置について船内作業員に具体的な指示を十分に行わなかった職務上の過失により,前示事態が生じるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

2 勧告
 C指定海難関係人が,松山港において,シャーシの前方で誘導中,後方誘導者の笛による停止の合図を聞いた際,口頭で運転手にこの旨を伝えなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,車両誘導に当たる際,作成された船内荷役マニュアルに従って厳格に誘導することとした点により,勧告しない。
 D指定海難関係人が,船内車両誘導の基本的マニュアルを作成し,また,同誘導の実地指導を行うなどして車両誘導中の安全措置について運航管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては,本件後,前方誘導者は後方誘導者が確認できないときには一旦車両を停止して確認することなどを定めた船内荷役マニュアルを作成し,同マニュアルに基づいて各船において車両誘導についての安全教育を実施するなど,再発防止措置を講じたことにより,勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。





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