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平成16年函審第60号
件名

貨物船第十五榮吉丸陸上職員等負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年1月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一,黒岩 貢,野村昌志)

理事官
山田豊三郎

受審人
A 職名:第十五榮吉丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第十五榮吉丸機関長
C 職名:第十五榮吉丸甲板員

損害
機関長が左前腕圧挫傷等,陸上職員が入院加療,自宅療養各1箇月を要する顔面多発骨折等の負傷

原因
ジブクレーン運転時の安全措置不十分

主文

 本件陸上職員等負傷は,ジブクレーン運転時の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月14日16時10分
 北海道稚内港
 (北緯45度24.3分 東経141度41.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十五榮吉丸
総トン数 199トン
全長 54.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 第十五榮吉丸(以下「榮吉丸」という。)は,平成11年7月に進水した,主として砂や採石を輸送する船尾船橋型鋼製貨物船兼砂利運搬船で,まれに火薬類輸送にも従事しており,船首部に旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)1機,船体中央に長さ18.7メートル幅7.7メートルの船倉が配置されていた。また,クレーン台座の左舷側にフェンダー吊り下げ用ダビッド(以下「ダビッド」という。)1機が装備されていた。

3 事実の経過
 榮吉丸は,A受審人,B指定海難関係人,C指定海難関係人ほか1人が乗り組み,硝安油剤爆薬1,575キログラム及び含水爆薬1,250キログラムを収納した木箱,電気雷管(以下「雷管」という。)40キログラムを収納した木箱を積み,船首1.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって,平成16年4月14日09時10分北海道稚内港を発し,12時40分利尻島沓形港に入港して前示木箱内の火薬類を揚げたのち木箱のみを積み,16時00分稚内港北洋ふ頭第2南岸壁に左舷付けで着岸した。
 ところで,クレーン機械室は,長さ6.6メートル幅4.0メートル高さ2.0メートルで,船倉前端の前方2.0メートルのところを中心としてクレーン台座上に船尾方を向いて備え付けられ,同室後部下方にカウンターウェイトが取り付けられていて同ウェイト下面が甲板上1.0メートルに位置し,その旋回域は半径4.5メートルで,クレーン機械室が左旋回したときの同室後部とダビットとの間隔は最小部で約60センチメートル(以下「センチ」という。)であった。そして運転席は,同室前部右側に配置されており,前方及び右側の全面がガラス窓,左側は小窓になっていて同席からの見通しは良好であった。
 また,クレーン運転中に乗組員が旋回域内に入るとクレーン機械室に当たったり挟まれたりするおそれがあるため,同室後方には,旋回域外周に沿い,クレーン台座の中心位置から船首方左右各舷45度にわたる弧状のハンドレール式防護柵が同室後部を囲むように設けられていたが,同防護柵が設けられていない甲板上には旋回域を表す標識は示されていなかった。
 しかしながら,作業の安全について統括管理に当たるA受審人は,乗組員が作業を行う前に安全を確認しているものと思い,乗組員に対し,クレーン運転中はクレーン運転者に連絡することなくクレーン機械室の旋回域に立ち入らないこと,同運転者はクレーンを旋回する前に周囲を確認することなどの安全指導を十分に行っていなかった。
 爆薬用木箱は,船倉後部ハッチカバー上に固定され,雷管用木箱は,長さ100センチ幅70センチ高さ70センチで,左舷船首部ダビッドの前にクレーン機械室の旋回域に隣接して積み付けられており,稚内港で陸揚げすることになっていたが,A受審人は,乗組員が各自の仕事分担を承知していることから,木箱陸揚げ作業について打ち合わせを行っていなかった。
 C指定海難関係人は,着岸後クレーンを使用して爆薬用木箱を陸揚げしたのち,バケットを右舷側の海中に投入して乱巻きになっていたドラムの巻き上げワイヤを整えるなど翌日の砂積みの準備を行うこととし,16時07分船倉左舷側前部のハッチカバー開閉装置付近にいたB指定海難関係人に合図をしてハッチカバーを開けさせた。
 そのときB指定海難関係人は,雷管用木箱を陸揚げすることを思い立ち,クレーン運転席にいるC指定海難関係人にそのことを連絡することなく左舷船首部に赴いてクレーン機械室の旋回域に立ち入り,準備をしていたところ,この様子を岸壁で見ていたD社の陸上職員が手伝いに乗船してきたので同木箱を同職員と2人で持ち上げることにし,B指定海難関係人が船首側に,陸上職員がダビッドを背にして船尾側につき,同木箱を持ち上げて陸揚げ作業を開始した。
 一方,C指定海難関係人は,倉底に横倒しにしたバケットを少し吊り上げたとき,ワイヤがバケット頂部で絡まっているのを認め,絡みを解きながら吊り上げることにしたが,周囲の確認を行わなかったので,陸上職員が乗船したことにも,B指定海難関係人が同職員とともにクレーン旋回域に立ち入り,雷管用木箱を持ち上げていることにも気付かないままバケットを船倉上方に吊り上げ,クレーンの左旋回を開始したところ,16時10分稚内港北防波堤灯台から真方位224度1,480メートルの地点において,B指定海難関係人と陸上職員がクレーン機械室後部とダビッドとの間に挟まれた。
 当時,天候は晴で風力3の南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 C指定海難関係人は,岸壁で作業中の甲板員の合図により旋回を止め,A受審人は,船橋で航海日誌の整理中,甲板上で人が集まっているのを認めて本件発生を知り,事後の措置に当たった。
 その結果,B指定海難関係人が左前腕圧挫傷等を,陸上職員が入院加療,自宅療養各1箇月を要する顔面多発骨折等をそれぞれ負った。

(本件発生に至る事由)
1 クレーン機械室の旋回域を表す標識が甲板上に示されていなかったこと
2 A受審人が,B指定海難関係人に対し,クレーン運転中はクレーン運転者に連絡することなくクレーン機械室の旋回域に立ち入らないよう安全指導を行っていなかったこと
3 A受審人が,C指定海難関係人に対し,クレーンを旋回する前に周囲を確認することなどの安全指導を十分に行っていなかったこと
4 A受審人が,木箱陸揚げ作業について打ち合わせを行わなかったこと
5 B指定海難関係人が,C指定海難関係人に連絡することなく陸上職員とともにクレーン機械室の旋回域に立ち入ったこと
6 C指定海難関係人が,クレーンを旋回する前に周囲の確認を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,船長が,乗組員に対し,クレーン運転中はクレーン運転者に連絡することなくクレーン機械室の旋回域に立ち入らないこと,クレーン運転者は,クレーンを旋回する前に周囲を確認することなどの安全指導を十分に行っていたなら,乗組員が安全措置を十分に講じて発生しなかったものと認められる。
 また,乗組員が,クレーン運転中にはクレーン運転者に連絡することなくクレーン機械室の旋回域に立ち入らないことや,クレーン運転者が,クレーンを旋回する前に周囲の確認を行うなどの安全措置を十分にとっていたなら,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,B指定海難関係人に対し,クレーン運転中はC指定海難関係人に連絡することなくクレーン機械室の旋回域に立ち入らないことや,同指定海難関係人に対し,クレーンを旋回する前に周囲を確認することなどの安全指導を十分に行わなかったこと,B指定海難関係人がC指定海難関係人に連絡することなく陸上職員とともにクレーン機械室の旋回域に立ち入ったこと及びC指定海難関係人がクレーンを旋回する前に周囲の確認を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 クレーン機械室の旋回域を表す標識が甲板上に示されていなかったこと及びA受審人が木箱陸揚げ作業について打ち合わせを行わなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件陸上職員等負傷は,北海道稚内港において,停泊中,クレーンを使用する際,クレーン運転時の安全措置が不十分で,クレーン機械室の旋回域に立ち入った乗組員と陸上職員が同室後部とダビットとの間に挟まれたことによって発生したものである。
 安全措置が十分でなかったのは,安全担当者を兼任する船長が,乗組員に対し,クレーン運転中はクレーン運転者に連絡することなくクレーン機械室の旋回域に立ち入らないこと,同運転者はクレーンを旋回する前に周囲を確認することなどの安全指導を十分に行わなかったことと,乗組員が,クレーン運転者に連絡することなくクレーン機械室の旋回域に立ち入り,同運転者が,クレーンを旋回する前に周囲の確認を行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
1 受審人
 A受審人は,船長兼安全担当者として作業の安全管理に当たる場合,乗組員に対し,クレーン運転中はクレーン機械室の旋回域にクレーン運転者に連絡することなく立ち入らないこと,同運転者はクレーンを旋回する前に周囲を確認することなどの安全指導を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,乗組員が作業を行う前に安全を確認しているものと思い,安全指導を十分に行わなかった職務上の過失により,乗組員がクレーン運転者に連絡することなく陸上職員とともにクレーン機械室の旋回域に立ち入り,同運転者が,乗組員等が同旋回域に立ち入っていることに気付かないままクレーンを旋回し,乗組員等がクレーン機械室後部とダビットとの間に挟まれ,乗組員に左前腕圧挫傷等を,陸上職員に入院加療及び自宅療養各1箇月を要する顔面多発骨折等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 指定海難関係人
 B指定海難関係人が,クレーン運転中,雷管用木箱の陸揚げ作業を行う際,クレーン運転者に連絡することなく陸上職員とともにクレーン機械室の旋回域に立ち入ったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しない。
 C指定海難関係人が,バケットを吊り上げてクレーンを旋回する際,クレーン機械室の周囲の確認を行わなかったことは本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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