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平成16年広審第112号
件名

旅客船サンオリーブシー機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年3月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(吉川 進,米原健一,佐野映一)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:サンオリーブシー機関長 海技免許:三級海技士(機関)(履歴限定)
指定海難関係人
B社 業種名:海運業

損害
シリンダライナ裾,シリンダブロック及びオイルパンが割損,連接棒が破断

原因
主機の開放点検の措置不十分,船舶所有者が,高出力運転を継続することの可否を確認しなかったこと

主文

 本件機関損傷は,主機の開放点検の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 船舶所有者が,高出力運転を継続することの可否を確認しなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月5日19時25分
 香川県内海港西方沖合
 (北緯34度27.9分 東経134度16.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船サンオリーブシー
総トン数 52トン
全長 30.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 890キロワット
回転数 毎分2,300
(2)設備及び性能等
ア 船体及び設備
 サンオリーブシーは,平成3年9月に進水した,軽合金製旅客船で,香川県内海港と同県高松港とを結ぶ定期航路に就航していた。
 船体は,超細長双胴形で,一層甲板の船楼に,船首側から揚錨機を置く船首区画,操舵室,客室,後部甲板を配置し,双胴のそれぞれに機関室を配置していた。
 機関室は,各舷とも中央部付近に主機,後半部に減速機をそれぞれ設置した2機2軸配置で,主機の燃料タンクが各舷に置かれていた。
イ 主機
 主機は,C社が製造した8V183TE92型と呼称する,90度V型シリンダ配置のディーゼル機関で,一体鋳造したシリンダブロックにシリンダ径128ミリメートル(以下「ミリ」という。)ストローク142ミリのシリンダライナを装着し,ピストンを鍛鋼製連接棒でクランク軸に組み付け,シリンダヘッドを載せ,シリンダブロック下部に油だめを取り付けた構造で,左舷シリンダ列の船尾側から船首側に順に1ないし4番の,右舷シリンダ列の船尾側から同様に5ないし8番のシリンダ番号が付されていた。
 ピストンは,アルミニウム合金製で,3本のピストンリングを装着し,シリンダブロックのノズルから噴出する潤滑油を内面に受けて冷却されるようになっていた。
 回転数を制御するガバナは,オールスピードガバナで,船橋の操縦ハンドルから送られる電気信号によって回転数を設定され,その回転数を維持するよう燃料ポンプ管制軸を調整するようになっていた。
 燃料ポンプ管制軸は,全シリンダの燃料の噴射量を調整するもので,上限を設定する燃料制限金具が装備されていた。
 主機の出力は,カタログと製造時の陸上試験成績書では,回転数毎分2,230(以下,回転数は毎分のものとする。)で445キロワットを100パーセントとし,2,300回転で490キロワットを110パーセントとして示されていた。
ウ 建造後の運航と出力
 サンオリーブシーは,高速旅客船の実験船として進水後,平成4年8月初年度登録され,兵庫県洲本市と大阪府深日港との間の定期航路に就航し,その後航路,所有者及び船名の変更を経てB社に購入され,同14年7月サンオリーブシーの船名で登録された。なお,主機が,前示初年度登録されたときに計画出力445キロワット2,300回転として承認され,その際の試運転時最高速力が,2,210回転で27.28ノットであった。

3 事実の経過
(1)サンオリーブシーの購入と整備
 自動車フェリー便は,1隻のみで片道所要時間が1時間の運航で,昼間の便については,ガソリン等危険物のための貨物輸送に限定されていたので,高松港への通勤,通学等の時間短縮と,昼間の便の利便性について地元から要望が寄せられていた。
 B社は,高速船の導入を検討し,地元住民から得られたアンケート結果等から,内海港から高松港に至る所要時間を40分以内とする条件を設定して仲介業者に船舶選定の条件を示したところ,サンオリーブシーを薦められ,初年度登録時の最高速力が出せるなら所要時間40分以内の条件を満足できると考え,平成14年に同船を購入した。
 サンオリーブシーは,造船所で船底の掃除が行われるとともに,主機が陸揚げされ,整備業者によって開放整備が行われた。
 主機は,ピストン,シリンダライナ,軸受,過給機など重要部の計測と点検が行われ,主軸受メタル,クランクピンメタル,連接棒ボルト及びピストンリングの全数と,摩耗によって寸法基準を満たさない吸排気弁,1番シリンダのピストン,海水ポンプなどが取り替えられたのち組み立てられ,同年12月末に水動力計で負荷試験が行われ,予備検査を受けて燃料制限金具が設定のうえ封印され,再びサンオリーブシーに搭載された。
(2)本件発生に至る経緯
 サンオリーブシーは,平成15年5月15日,海上試運転が行われて定期検査に合格し,その際に,主機回転数2,300回転で平均速力27.05ノットが記録された。
 A受審人は,同月22日サンオリーブシーに乗船し,乗組員による海上運転において,燃料消費量や主機の排気温度,吸気圧力等のデータを確認した。
 B社は,海上運転の結果と航路の距離から考えて所要時間40分を保持するには主機の出力に余裕がないことに気付き,また,建造後の記録からプロペラ直径が小さく改造されていたことを知り,建造の造船所とプロペラメーカーに速力を増すことができないか,検討を依頼したが,主機の出力と運転年数等を考慮して現状が適切との回答を得た。
 サンオリーブシーは,同年6月1日に片道40分の時刻表を掲げて午前2便,午後3便の合計5便の往復運航を開始し,就航当初は港外全速力の区間では主機を2,150回転にかけて運転されていたが,逆潮や風の影響を受けて定時に到着できないことが度々あり,その後主機が常時2,230回転にかけられ,出力がほぼ100パーセントで運転されるようになった。
 A受審人は,主機の試運転結果に示された出力と排気温度,吸気圧力などのデータとを比較しながら,運航中の出力が100パーセントに近いと考え,運航管理者に対して,現状の運転を続けると主機が損傷すると進言した。
 B社は,A受審人の進言を受けたのち,主機製造会社の代理店に照会するなどして,高出力運転を継続することの可否を確認することなく,購入前に整備業者から100パーセントでも大丈夫と言われたことから,損傷を生じないものと考え,その後も定時運航を優先させ,逆潮など条件が悪いときは回転を上げるよう船長に指示した。
 主機は,燃料制限一杯に上げて運転され,主機のピストンに加わる熱負荷が過大になっていたところ,同年12月5日13時40分高松港発の便で航行中,右舷機の6番シリンダのピストンのボス部に亀裂を生じ,カンカンキンキンという異音を生じ始めた。
 A受審人は,右舷機を点検して6番シリンダ付近からの異音と認めたが,入港後速やかに運航を中止して主機の開放点検の措置をとることなく,会社を通して最終便後整備業者に点検してもらうよう連絡をし,アイドリング運転中も含め異音のするまま運転を続けた。
 こうして,サンオリーブシーは,船長及びA受審人が2人で乗り組み,旅客7人を乗せ最終便として18時50分高松港を発し,主機を2,230回転にかけて内海港に向けて航行中,19時25分地ノハナゲ西灯浮標から真方位011度1,430メートルの地点において,右舷機6番シリンダのピストンが上下に割れ,ピストン上部がシリンダヘッドに当たり,同下半部が連接棒とともに振れ回って異音が大きくなり,船橋の操作で回転が下げられたところ右舷機が自停した。
 当時,天候は曇で風力1の東風が吹き,海上は穏やかであった。
 サンオリーブシーは,A受審人が白煙の立ちこめた右舷機関室内に入り,右舷機のオイルパンから潤滑油が漏れ出しているのを認めて船長に運転不能と報告したので,左舷機のみで内海港に入港し,精査の結果,シリンダライナ裾,シリンダブロック及びオイルパンが割損し,更にバランスウェイトに衝突して連接棒が破断していることが分かり,のち主機が同型機と換装された。
(3)事後の措置
 B社は,主機を最大2,100回転として運転するよう船長に指示し,到着が遅延するときは船内と到着港に予め知らせる等の対応を講じるとともに,機関の管理と整備については,近在の鉄工所と造船所に相談するよう改めた。

(本件発生に至る事由)
1 主機が,初年度登録時に計画出力445キロワット2,300回転数として承認されたこと
2 B社が,初年度登録時の最高速力が出せるなら所要時間40分以内の条件を満足できると考えたこと
3 サンオリーブシーが,逆潮や風の影響を受けて定時に到着できないことが度々あったこと
4 主機が,常時2,230回転にかけられ,出力がほぼ100パーセントで運転されるようになったこと
5 B社が,高出力運転を継続することの可否を確認しなかったこと
6 B社が,定時運航を優先させるよう船長に指示していたこと
7 A受審人が,直ちに右舷機の開放点検の措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件機関損傷は,主機が高出力で継続的に運転されたことによって発生したが,ピストンの熱負荷が過大になったこと及び本件発生に至る事由に分けて検討する。
1 まず,「陸上及び海上運転成績書写中,445キロワット2,300回転のときの排気温度摂氏325ないし345度の記載と,機関日誌抜粋写中,2,230回転における排気温度の同範囲の数値記載」は,出力100パーセントでの排気温度と,運航中の機関日誌抜粋写中の排気温度がほぼ同範囲の数値で,本件発生の2週間前からはそれを上回っていたことを示している。
 次に,「機関使用記録写中の日毎の主機運転時間,アイドリング運転時の燃料消費量に関する資料及び関連車両の出力に関する資料から算出される,運航時間中の1時間当たり燃料消費量の平均値」は,機関使用記録写のデータから,アイドリング運転中の燃料消費量を差し引いて,運航時間中の燃料消費量を計算したもので,計算の前提として,運航時間を片道40分に2分を加えて1日合計で7時間,アイドリング時の燃料消費量を毎時3.3リットル,また,燃料の密度を,陸上運転成績書写中の0.835とした。これらの定数を使って,例えば平成15年11月21日の右舷機の同記録写中の,運転時間8.8時間及び燃料使用量660リットルから計算すると,毎時間の燃料消費量(キログラム毎時)は,{660−(8.8−7)×3.3}÷7÷0.835≒111.9となる。同手法で同年11月1日から30日までの1箇月間を全て求めると,最小106.2最大113.4平均値109.0となる。
 平成14年12月の陸上運転での445キロワット2,300回転のときの数値は103.6で,右舷機の燃料消費量が,性能曲線上の燃料消費の線に当てはめると,出力制限値445キロワットの点を大きく超えていたことを示す。すなわち,燃料の制限金具が設定のうえ封印されていたものの,過大な出力範囲で運転され,ピストンの熱負荷が過大になっていたと認められる。なお,封印された設定点以上の燃料が使われるようになった理由は,検証できない。
2 1から,B社が,機関長の進言にもかかわらず,定時運航を優先させ,逆潮など条件が悪いときは回転を上げるよう船長に指示したことは,過大な熱負荷がピストンに加わる高出力運転につながった。すなわち,主機製造会社の代理店に照会するなどして,高出力運転を継続することの可否を確認しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,本件発生当日の運航中,右舷機に異音を生じ始めたことを認めていたにもかかわらず,入港後速やかに運航を中止し,同機の開放点検の措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 なお,主機が,初年度登録時に計画出力445キロワット2,300回転として承認されたことは,軽負荷での回転数設定であって,設計上の計算からは容認されることであるが,運航者が経年使用による熱負荷の増大を考慮しなければならない点である。
 B社が,初年度登録時の最高速力が出せるなら所要時間40分以内の条件を満足できると考えたこと,サンオリーブシーが,逆潮や風の影響を受けて定時に到着できないことが度々あったことは,過大な出力での運転が継続される背景となった。
 主機が,常時2,230回転にかけられ,出力がほぼ100パーセントで運転されるようになったことは

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の運転管理に当たり,高松港から内海港に向け航行中,右舷機に異音を生じ始めた際,入港後の開放点検の措置が不十分で,異音がするまま運転が続けられ,亀裂を生じていたピストンが割れて連接棒が振れ回ったことによって発生したものである。
 船舶所有者が,高出力運転を継続することの可否を確認せず,逆潮など条件の悪いときに回転を上げるよう指示して運航を続けさせたことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人が,主機の運転管理に当たり,高松港から内海港に向け航行中,右舷機に異音を生じ始めた場合,アイドリング回転でも異音が続き,重大な事態に至るおそれがあったから,速やかに運航を中止して開放点検の措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は,最終便後に点検すればよいと思い,速やかに運航を中止して開放点検の措置をとらなかった職務上の過失により,高出力による運転を続け,過大な熱応力で亀裂を生じていた同機6番シリンダのピストンが割損する事態を招き,連接棒が振れ回ってシリンダライナ,シリンダブロックなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

2 勧告
 B社が,現状の運転を続けると主機が損傷するとの機関長の進言を受けたのち,主機製造会社の代理店に照会するなどして,高出力運転を継続することの可否を確認せず,その後も定時運航を優先させ,逆潮など条件が悪いときは回転を上げるよう船長に指示して運航を続けさせたことは,本件発生の原因となる。
 B社に対しては,本件後,主機を高出力運転にならないよう回転数を下げて運航するよう指示していることに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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