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平成16年函審第38号
件名

漁船第五成雄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
17年1月21日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸良 彬,黒岩 貢,古川隆一)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第五成雄丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
腐食破口部から冷却水が漏洩,2番シリンダ排気弁の1個に欠損,1個に亀裂,過給機のノズルリング及びタービン翼が曲損

損傷
主機排気弁の整備不十分

主文

 本件機関損傷は,主機排気弁の整備が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月21日16時00分
 北海道奥尻島北西方沖合
 (北緯43度12.0分 東経138度20.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第五成雄丸
総トン数 138トン
全長 36.21メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 514キロワット
回転数 毎分1,000
(2)第五成雄丸
 第五成雄丸(以下「成雄丸」という。)は,昭和52年3月に進水した,いか一本つり漁に従事する鋼製漁船で,6月から12月までを漁期とし,隠岐島沖合から北海道の日本海沖合にかけての漁場において,1航海を2週間から1箇月ばかりとして,主機を年間約2,000時間運転し,毎年の休漁期に機関の整備を行っていた。
(3)主機
 主機は,B社が製造した6MG22X型と称するディーゼル機関で,逆転減速機を介してプロペラ軸と連結していた。
 主機の排気弁は,耐熱鋼製で,弁座との当たり面にステライト盛金が施され,シリンダヘッドに2個組み込まれていた。

3 事実の経過
 成雄丸は,平成13年4月に実施された定期検査工事において,主機排気弁12個全数の当たり面の点検や寸法計測などが行われ,衰耗の進行していた2個が新替えされたほかは整備のうえ継続使用されて復旧し,運転を再開してその年の操業を終えた。
 ところで,排気弁は,長期間にわたって使用を続けると,当たり面の異常摩耗や腐食により密着性が低下し,燃焼ガスが吹き抜けるようになって,同面が過大な熱応力を受けて亀裂を生じることがあるので,機関メーカーでは,一般的守則として,運転時間が3,000時間に達するごとに摺り合わせや新替えなどの整備を行うよう推奨し,これを機関取扱説明書に記載して注意を促していた。
 ところが,成雄丸船内には,いつしか機関取扱説明書が紛失して備えられないままとなっていた。
 A受審人は,主機排気弁の整備については,休漁期に僚船の機関長数人とともにシリンダヘッドを取り外して地元の鉄工所に持ち込み,同鉄工所に整備を任せ,再び船内に持ち帰って復旧することとしていたが,平成14年の休漁期には,運転中にシリンダヘッド関連の異状がなかったことから大丈夫と思い,排気弁の整備を行うことなく,そのまま継続使用した。
 翌15年の休漁期間中,A受審人は,なおも主機排気弁の整備を行わず,6月から操業を始め,燃焼ガスが主機排気弁を吹き抜ける状態で運転を続けていたところ,排気弁当たり面が過大な熱応力を受けて亀裂を生じる状況となった。
 こうして,成雄丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,操業の目的をもって,平成15年8月10日13時00分小木港を発し,北海道奥尻島北西方沖合漁場に達し,連日の操業を続け,同月21日14時ごろ主機を始動し,回転数を毎分700にかけて魚群探索中,亀裂の進展していた2番シリンダ排気弁が弁傘部で欠損し,欠損片が過給機に飛び込み,16時00分奥尻島の稲穂岬灯台から真方位316度79海里の地点において,主機の回転数が低下するとともに煙突から黒煙を発した。
 当時,天候は曇で風力5の北東風が吹き,海上は波立っていた。
 折から食堂で休息していたA受審人は,機関室に急行したところ,2番シリンダの排気温度が異常上昇しているのを認め,直ちに主機を停止し,燃料弁及び燃料ポンプを取り替えたが好転しなかったので,地元の鉄工所に連絡した結果,排気弁欠損の指摘を受け,減筒運転の措置をとり,成雄丸は,低速で北海道瀬棚港に入港し,損傷調査の結果,2番シリンダ排気弁の1個に欠損,1個に亀裂を生じていたほか,過給機のノズルリング及びタービン翼が曲損していることが判明し,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 成雄丸船内に機関取扱説明書が備えられていなかったこと
2 A受審人が,主機排気弁の整備を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,主機排気弁の整備を所定の周期で行っていたなら,当たり面の燃焼ガスの吹き抜けを防止でき,熱疲労による亀裂も生じなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,所定の周期で主機排気弁の整備を行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
 成雄丸に機関取扱説明書が備えられていなかったことは,本件機関損傷に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機排気弁の整備が不十分で,燃焼ガスの吹き抜けにより,当たり面に過大な熱応力を受けて亀裂を生じ,弁傘部が欠損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関の保守運転管理に従事する場合,主機排気弁は長期間にわたって使用を続けると,当たり面の異常摩耗や腐食により密着性が低下し,燃焼ガスが吹き抜けるようになって,同面が過大な熱応力を受けて亀裂を生じることがあるから,所定の周期で摺り合わせや新替えを行うなど,整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまでの運転中に異状がなかったことから大丈夫と思い,排気弁の整備を十分に行わなかった職務上の過失により,燃焼ガスが同弁を吹き抜ける状態で運転を続け,排気弁の1個に欠損,1個に亀裂を生じさせたほか,過給機のノズルリング及びタービン翼に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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