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平成16年広審第51号
件名

貨物船えんしゅう丸爆発事件

事件区分
爆発事件
言渡年月日
平成17年3月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(吉川 進,道前洋志,佐野映一)

理事官
平井 透

指定海難関係人
A社 業種名:造船業
B 職名:A社安全衛生管理指導監督
C 職名:A社機関部担当技師
D 職名:A社管装係チームリーダー
E 職名:F社塗装係チームリーダー

損害
機関室下段前部の機器類に汚損,同室上段から居住区への扉及び居住区から船外通路への扉各1箇所,居住区通路天井及び機関室通風筒頭部に破損
J研修生が火傷のため死亡,L係員が熱傷2度,気道熱傷,左大腿部裂創,下口唇裂創,両側頚部皮下気腫を負って6箇月の入院加療,H係員が右肘頭部骨折,全身熱傷を負って6箇月の入院加療,K係員が顔面・両手・両膝・右肩の熱傷で2箇月の入院加療,及びI研修生が顔面・両手熱傷を負って3週間の入院加療の負傷

原因
造船所の安全管理不十分

主文

 本件爆発は,造船所構内で建造中の貨物船において,造船所の安全管理が不十分で,隔壁貫通の溶断作業で滴下した溶鉄が,塗装後ガスフリーを確認されずにマンホールを開放したまま放置された機関室のボイドスペースに落下し,同スペース内の可燃性ガスに引火したことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月4日08時40分
 広島県江田島湾
 (北緯34度14.2分 東経132度26.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船えんしゅう丸
総トン数 499トン
全長 65.014メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
(2)船体及び装備
 えんしゅう丸は,G社が発注し,A社が第597番船として建造中であった鋼製の液体化学薬品ばら積貨物船で,平成15年6月に起工され,同年10月10日に進水したのち艤装岸壁に係留されて,艤装作業が行われていた。
ア 船体
 船体は,船首尾に船楼を配置した凹甲板型で,上甲板下の船首部に船首タンク,バウスラスター室及び1番バラストタンクが,船体中央部に1番から4番までの貨物タンクと二重底にバラストタンクが,そして船尾部にポンプ室,機関室,船尾タンク及び操舵機室がそれぞれ配置され,機関室上部に居住区及び船橋を含む船尾楼が配置されていた。
イ ポンプ室及び機関室
 ポンプ室は,同室全幅にわたる二重底をボイドスペースとし,二重底上の左右舷側に燃料タンクが配置され,二重底上に貨物ポンプ2基とバラストポンプが据え付けられ,また,二重底内の中央付近の一角がバラスト海水のためのシーチェストになっていた。
 機関室は,船尾側付近を除く範囲を二重底構造として,その最も船首側をボイドスペース,中央部を主機潤滑油サンプタンク,その両舷をシーチェストとしており,同サンプタンク上部に主機が,その両舷に発電機原動機が据え付けられていた。
ウ 機関室ボイドスペース
 機関室ボイドスペース(以下「ボイドスペース」という。)は,同室船首端の隔壁から船尾側に向かって6フレーム分を占めていたが,船首端の中央にエコーサウンダースペースがあり,また3番目のフレームから船尾側の中央部を主機潤滑油サンプタンク区画で分断され,2ないし3番目のフレーム間で横につながる以外は左右舷が隔離された構造であった。また,機関室から出入りするための長径510ミリメートル(以下「ミリ」という。)短径410ミリのマンホールが船首端の両舷に各1箇所,更に両マンホールの外舷側に呼び径50ミリの空気抜きが各1箇所設けられ,内面が機関室のタンクトップとともに,灰色のエポキシ樹脂塗料で塗装されることになっていた。
エ 機関室隔壁と敷板
 機関室とポンプ室の隔壁は,ポンプ室側の貨物ポンプ及びバラストポンプを機関室側から駆動する軸,ポンプ計装管,電線,配管などが貫通し,アングル鋼が上下方向の補強材(以下「スチフナー」という。)として横間隔590ミリで溶接されていた。
 機関室下段は,タンクトップ上に主機及び補機,ポンプ等が据え付けられ,それぞれの配管を覆うようタンクトップから550ミリの高さに,人が歩く通路として敷板が敷かれていた。
 敷板は,タンクトップから構築されたアングル材の枠に,縞鋼板が敷かれたもので,船首端の隔壁部分では,1号及び2号貨物ポンプ増速機の上方には更に550ミリ高い敷板が取り付けられ,隔壁付近では,高さ125ミリのスチフナーの分だけ敷板の枠と隔壁との間に隙間が空いていた。

3 建造工事の分担
 建造工事は,船殻製作と組立,そして貨物タンクや居住区など船体各部設備を造船課が,機関室区画の機器の据付け及び調整を造機課がそれぞれ分担し,ポンプ室については,ポンプの据付けを除いて造船課が担当していた。また,塗装については,船体ないし機関の区分に限らず,E指定海難関係人の率いるチームが担当していた。

4 安全管理等
 A社は,労働安全衛生法に基づく総括安全衛生管理者としての社長の下で,現業部課長を安全衛生管理者に指名していたが,作業現場での作業マニュアルとしての安全作業基準を作成していなかったことから,作業現場ではタンクなど狭隘な区画で塗装後の立入制限や火気厳禁の表示,可燃性ガス検知器でのガスフリー確認,作業予定の報告などが十分に行われていなかった。
 B指定海難関係人は,火気作業を行うときに,周囲と裏側に可燃物がないか確認させたり,塗装作業を行うときには火気厳禁区域を設定して作業期間や立入制限の表示をさせるなど,作業の安全について作業員の指導を十分に行っていなかった。

5 事実の経過
ア 海上公試運転前後の経過
 えんしゅう丸は,主要な艤装工事が終わり,平成15年11月3日に海上公試運転(以下「海上公試」という。)が行われ,同日夕刻,浮ドック外側に係留された。
 ところで,海上公試前,D指定海難関係人は,海洋生物付着防止装置のポンプ室への配管貫通工事を,機関室の配管工事を担当した協力会社の社長から直接依頼され,隔壁貫通管を内作工場に造らせるとともに,海上公試に立ち会う間に型取り等準備を行った。
イ ボイドスペースの塗装
 ボイドスペースは,船殻製作から組立に至る期間は造船課の所掌で,進水に際してマンホールが閉鎖されたが,その後艤装工程では機関室内に位置することから造機課が管理するという暗黙の了解がなされていたところ,その内部塗装が未了のまま,いつしかマンホールの蓋がナットを軽く掛けただけの状態となっていた。
 E指定海難関係人は,ボイドスペースの内部塗装を,海上公試を終えた日の夜に行うことを自ら決め,作業員に用具,材料等を準備させ,同3日18時ごろ機関室に入った。
 C指定海難関係人は,海上公試から戻って機関室を出る際,E指定海難関係人と顔を合わせ,同人からボイドスペースとタンクトップの塗装を行うことを告げられたが,ボイドスペースの大きさや構造を確かめていなかったので,2フレーム程度のものと認識しており,その程度なら塗装を行っても機関室での翌日の作業には影響ないものと考え,「ああ,そうか。」と返事して事務所に戻った。
 E指定海難関係人は,作業員に,主機,発電機原動機を始め増速機,ポンプ類などに塗料が掛からないようビニールシートで養生を行わせたうえで,タンクトップ面,機器の据付台及びボイドスペースの錆取り作業を行ったのち,20時ごろからタンクトップ表面に,続いてボイドスペース内部にエポキシ樹脂塗料の吹き付け塗装を行った。23時ごろ塗装を終えて船橋甲板の煙突後部に置いたポータブルファン2台に厚さ0.2ミリ直径450ミリのポリエチレン製ダクトを取り付け,機関室に導いた各ダクトの先端を両舷ボイドスペースのマンホールフランジ面に鋼製アングルを重しとして固定し,外気をボイドスペースに吹き込ませて乾燥を開始し,その後塗装器具を片づけて退社した。
ウ 爆発に至る経緯
 E指定海難関係人は,翌4日早朝に出社し,06時ごろ船橋甲板のポータブルファンを停止してダクトを全て取り外し,それまで塗装後6ないし8時間を乾燥時間としていたうえ,マンホールの閉鎖は他の人がすると思い,ボイドスペースのマンホールに,火気厳禁の表示をせず,マンホール蓋を開放したままマンホール上の敷板を戻し,機関室を出て同ファンを工場の保管場所に戻し,始業時刻までドック横の岸壁で魚釣りをした。
 ボイドスペースは,E指定海難関係人が外気吹き込みを止めたのち,船尾側の奥で揮発して換気されずに溜まっていた可燃性ガスが徐々に拡散してマンホール直下にも溜まり始めた。
 C指定海難関係人は,予めボイドスペースのマンホール内外でガスフリーの確認を十分に行うことなく,08時から機装係,管装係等の責任者らと打ち合わせ,当日行う予定のバラストポンプ及び貨物ポンプの運転に向けて圧力計配管を完成させることなどを指示したが,塗装後の同スペース周辺で火気作業の予定がないか確認を十分に行わなかったので,その後隔壁を貫通させる配管の火気工事が準備されていることに気付かなかった。
 一方,D指定海難関係人は,07時55分朝礼終了後,機関室担当の打ち合わせには参加しなかったので,機関室隔壁を貫通する配管工事を行う予定であることを機関部担当技師であるC指定海難関係人に報告せず,直ちに管装係員Hにガス切断器,ガスホースなど作業工具を隔壁のポンプ室側及び機関室側に準備させた。
 C指定海難関係人は,打ち合わせに続いて機関室に入り,船首側隔壁付近を見回った際,ボイドスペースのマンホール蓋が立てかけてあるのを敷板の間から認めたが,マンホールの様子を気にも止めなかった。
 えんしゅう丸は,その後,チーム毎ないしは協力会社毎に作業が開始され,機関室の船首側隔壁付近では,E指定海難関係人に指示された研修生I及び同Jがタンクトップの塗装前に機器に施された養生のビニールシートを取り外し,同隔壁中央付近では,機装係員Kがバラストポンプの圧力計配管を取り付ける準備を,また,機装係員Lが敷板の採寸を行い,蓋が開放されたままのマンホール直下のボイドスペースには,ガスフリーの確認が行われずに可燃性ガスが滞留していた。
 08時25分D指定海難関係人は,隔壁の機関室側で,2号貨物ポンプ増速機の上の敷板から450ミリ上方に貫通の予定位置を決めて,H係員に,貫通箇所の直下に当たる敷板の上に耐火布を敷かせる間,ポンプ室に移動して同位置を隔壁に卦書(けが)いていったん機関室に戻った。そして,別の耐火布で溶断時に飛散する火の粉を受け止めて敷板の耐火布に落とすよう指示したが,敷板の1.1メートル下から290ミリ右舷側の下方に,ボイドスペースのマンホールが開口していることを確認することなく,再びポンプ室側に戻り,ガス切断器に点火した。
 こうして,えんしゅう丸は,08時40分少し前機関室の前部隔壁で,同隔壁のポンプ室側からガス切断器による溶断が始まり,貫通した孔から吹き飛ばされた火の粉がH係員の受ける耐火布で受け止められたものの,隔壁に伝わって赤熱した溶鉄が滴下し,直下のタンクトップで跳ね,間近の左舷側マンホールからボイドスペースに落下し,08時40分安芸中田港小方北防波堤灯台から真方位135度320メートルの地点において,同スペース内の可燃性ガスに引火し,爆発した。
 当時,天候は晴で風力1の南東風が吹いていた。
 爆発の結果,えんしゅう丸は,機関室が下段前部の機器類に汚損を,同室上段から居住区への扉及び居住区から船外通路への扉各1箇所,居住区通路天井及び機関室通風筒頭部に破損をそれぞれ生じたが,のち修理された。
 また,爆発の際に機関室にいた作業員,メーカー技師,艤装の乗組員などのうち,J研修生が右舷ボイドスペース入り口で倒れ,その後機関室に入った消防隊に発見され,病院に運ばれたが,火傷のため死亡と検案され,L係員が熱傷2度,気道熱傷,左大腿部裂創,下口唇裂創,両側頚部皮下気腫を負って6箇月の入院加療を,H係員が右肘頭部骨折,全身熱傷を負って6箇月の入院加療を,K係員が顔面・両手・両膝・右肩の熱傷で2箇月の入院加療を,及びI研修生が顔面・両手熱傷を負って3週間の入院加療をそれぞれ要した。
エ 事後の措置
 A社は,本件後,労働基準監督署などによる改善指導及び造船業界団体の安全衛生委員会による改善指導とパトロールを受け入れ,組織の構成では
(ア)空席であった工務部長を専任者とする
(イ)造船課長が兼任していた品質保証課長及び安全衛生室長を切り離して専任者を充てる
(ウ)検査組織に新たな専従員を充てることとしたうえで,安全作業基準を作成し,
(エ)異種作業に携わる責任者に事前の連絡と作業調整とを徹底させ,区画責任者を明確にすること
(オ)塗装作業区域での火気使用禁止,立入制限,ボイドスペースのような狭隘区画でのガス検知を確実に行うこと
  などを徹底させ,同種事故の再発防止に取り組んだ。

(本件発生に至る事由)
1 ボイドスペースが,隔壁から2ないし3番目のフレーム間で全通になる以外は左右が隔離された構造で,マンホール及び空気抜き管の位置が最船首側フレーム間に設けられていたこと
2 機関室の敷板が,隔壁付近では,隔壁スチフナーの高さだけ枠と隔壁との間に隙間が空いていたこと
3 A社が,安全作業基準を作成していなかったこと
4 B指定海難関係人が,作業の安全についての指導を十分に行っていなかったこと
5 D指定海難関係人が,ポンプ室への海洋生物付着防止装置の配管の貫通工事を,機関室の配管工事を担当した協力会社の社長から直接依頼されていたこと
6 ボイドスペースのマンホールの蓋が,ナットを軽く掛けただけの状態になっていたこと
7 E指定海難関係人が,ボイドスペースの内部塗装を,海上公試終了後の夜に行うことを自ら決めたこと
8 C指定海難関係人が,ボイドスペースの大きさや構造を確かめていなかったこと
9 E指定海難関係人が,早朝に出社し,06時ごろポータブルファンを停止してダクトを取り外したこと
10 E指定海難関係人が,ボイドスペースマンホールに,火気厳禁の表示をせず,マンホール蓋を開放したままとしたこと
11 C指定海難関係人が,予めボイドスペースのマンホール内外でガスフリー確認を十分行わずに責任者らと打ち合わせ,また,塗装後の同スペース周辺で火気作業の予定がないか確認しなかったこと
12 C指定海難関係人が,機関室に入って見回りをした際,マンホールの様子を気にも止めなかったこと
13 D指定海難関係人が,機関室隔壁を貫通する配管工事を行う予定であることを機関部担当技師であるC指定海難関係人に報告しなかったこと
14 D指定海難関係人が,火気作業箇所の下方に,ボイドスペースのマンホールが開口していることを確認しなかったこと

(原因の考察)
 本件爆発は,塗装後9時間余りで可燃性ガスが滞留していたボイドスペースに,ガス切断器による溶断作業の溶鉄が落下したことによって発生したもので,以下に造船所全体の安全管理面について検討する。

1 塗装作業の状況
 ボイドスペースは,本件発生の前夜に塗装され,直後から2箇所のマンホールのフランジ面においてポータブルファンによる外気吹き込みが行われ,E指定海難関係人が約7時間で同ファンを停止した。その後2時間以上経過したころには,ボイドスペースのマンホール直下には可燃性ガスが滞留していたものである。
 E指定海難関係人が,自らの経験から6ないし8時間の乾燥で大丈夫と判断して早朝に外気吹き込みを停止し,ポータブルファンとダクトを全て取り外したのち,火気厳禁の表示をせず,マンホールを開放したままとしたことは,本件発生の原因となる。
 なお,ボイドスペースが,隔壁から2ないし3番目のフレーム間で全通になる以外は左右が隔離された構造で,マンホール及び空気抜き管の位置が最船首側フレーム間に設けられていたことは,特に船尾側の換気に工夫を要し,その日の作業の安全のためにはいったん閉鎖するなど,措置がとられるべきであった背景である。

2 火気作業の状況
 本件発生の火気作業現場は,ボイドスペースマンホールの上方に被さるように敷板が取り付けられていたが,敷板とバラストポンプモーターの間などからタンクトップの様子が垣間見え,同マンホールが開放のままであったことがすぐに確認できる状況であった。また,同現場の敷板の枠には,隔壁との間に隔壁スチフナーの高さだけ隙間が空いていた。
 D指定海難関係人は,そのような現場でH係員に火の粉と溶鉄を耐火布で受けるよう準備させたが,溶断中,同布でカバーできない火の粉が飛び散り,溶鉄が敷板の枠と隔壁との隙間を落下することは明白であったのだから,間近の敷板の下がどのようになっているかを確認すべきであった。すなわち,同指定海難関係人が,火気作業箇所の下方に,ボイドスペースのマンホールが開口していることを確認しなかったことは,本件発生の原因となる。

3 作業の安全指導
 B指定海難関係人は,安全衛生管理指導監督者として,火気作業を行うときに周囲と裏側に可燃物がないか確認させたり,塗装作業のときに火気厳禁区域を設定して作業期間や立入制限の表示をさせるなど,指導を行うべき立場にあった。すなわち,同人が,作業の安全について指導を十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。

4 作業の確認
 D指定海難関係人は,試運転後に機関室で塗装が行われることを知っていたのだから,自らが行う火気作業で安全を阻害することがないか,機関部担当技師が判断できるよう,場所と時間を報告する必要があった。すなわち,D指定海難関係人が,同作業を行うことをC指定海難関係人に報告しなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人は,本件発生の前夜,E指定海難関係人からボイドスペースの塗装を実施することを報告されていたのだから,朝の打ち合わせ前に,予めマンホール内外で可燃性ガスの検知を行うなど,当日の作業に影響がないか確認し,その後に機関室での火気作業の有無を確認する必要があった。すなわち,C指定海難関係人が,予めボイドスペースのマンホール内外でガスフリー確認を十分行わずに責任者らと打ち合わせ,また,塗装後の同スペース周辺で火気作業の予定がないか確認しなかったことは,本件発生の原因となる。
 なお,C指定海難関係人が,ボイドスペースの大きさや構造を確かめていなかったことは,2フレーム程度のものとの認識となり,見回りの際,蓋が立てかけてあったマンホールの様子を気にも止めなかったことにつながったもので,本件発生との相当な因果関係があるとは認めないが,海難防止上の観点から是正されるべき点である。
 また,造船課所属のD指定海難関係人が,機関室の配管工事担当の協力会社の社長から,機関室の隔壁を貫通させる工事を直接依頼されていたことは,C指定海難関係人が,火気作業の有無を確認するべき背景であった。

5 A社の安全管理
 A社が,混在作業による危険を回避できるよう,作業予定の報告,作業前の準備,作業後の措置など,基本的な事項を盛り込んだ安全作業基準を作るなどして,安全管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 なお,ボイドスペースのマンホールの蓋が,いつしかナットを軽く掛けただけになっていたことは,本件発生の原因とはならないが,E指定海難関係人がマンホールは他の人が閉鎖すると考えた背景となったのであり,A社の安全管理が十分でなかったことの態様で,海難防止上の観点から是正されるべき事項である。
 E指定海難関係人が,海上公試終了後の夜にボイドスペースの塗装を行うことを自ら決めたことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件爆発は,造船所構内で建造中の貨物船において,造船所の安全管理が不十分で,隔壁貫通の溶断作業で滴下した溶鉄が,塗装後ガスフリーを確認されずにマンホールを開放したまま放置された機関室のボイドスペースに落下し,同スペース内の可燃性ガスに引火したことによって発生したものである。
 造船業者が,安全管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 安全衛生管理指導監督が,作業の安全について作業員の指導を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 機関部担当技師が,機関室作業開始前の安全確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 管装係チームリーダーが,配管工事で火気作業を行うことを機関部担当技師に報告せず,同作業前の安全確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 塗装係チームリーダーが,塗装後の安全措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 
(指定海難関係人の所為)
 A社が,混在作業による危険を回避できるよう,安全作業基準を作るなどして,安全管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A社に対しては,本件後,安全組織全体を見直し,組織構成上の責任者の空席や兼任をなくして専任者を充て,安全作業基準を作成するなど,同種事故の再発防止に取り組んでいることに徴し,勧告しない。
 B指定海難関係人が,火気作業を行うときに周囲と裏側に可燃物がないか確認させたり,塗装作業を行うときに火気厳禁区域を設定させ,作業期間や立入制限の表示をさせるなど,作業の安全について作業員の指導を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,本件後,作業の安全について作業員の指導に努めていることに徴し,勧告しない。
 C指定海難関係人が,塗装後のボイドスペースのガス検知を行い,同スペース周辺で火気作業の予定がないか確かめるなどして機関室作業開始前の安全確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,本件後,機関室作業開始前の安全確認を徹底するよう努めていることに徴し,勧告しない。
 D指定海難関係人が,配管工事で火気作業を行うことを機関部担当技師に報告し,作業箇所の下方にボイドスペースのマンホールが開口していないか確かめるなどして作業前の安全確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては,本件後,火気作業前の安全確認を行うよう努めていることに徴し,勧告しない。
 E指定海難関係人が,塗装後のボイドスペース周辺に火気厳禁表示を行い,マンホールを閉鎖するなどして安全措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 E指定海難関係人に対しては,本件後,火気厳禁表示など安全措置をとるよう努めていることに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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