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平成16年門審第123号
件名

モーターボート慎吾丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年2月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

理事官
園田 薫

受審人
A 職名:真悟丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関にぬれ損等

原因
気象,海象(波浪注意報発表中)に対する情報収集不十分

裁決主文

 本件転覆は,波高が増大しやすい海域についての情報収集が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月23日12時30分
 宮崎県内海港南方沿岸海域

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート真悟丸
登録長 8.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 110キロワット

3 事実の経過
 真悟丸は,船尾部に操舵室が配置されたFRP製釣船で,昭和55年1月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成15年3月23日11時58分宮崎県内海港港奥の内海川右岸の係船地を発し,救命胴衣を着用して同港南方約1海里で水深約5メートルの釣場に向かった。
 なお,宮崎県南部平野部には,前日22日波浪注意報が発表され,翌23日04時45分に同注意報が継続発表され,沿岸海域の波高が3メートルと予想されていた。
 ところで,内海港南方約1海里の沿岸海域は,陸岸から東方沖合約500メートルまで日南海岸の鬼の洗濯岩と称される干出の波状岩礁が拡延しており,5メートル,20メートル及び200メートルの各等深線が同沖合約500メートル,約1,000メートル及び約14海里にそれぞれ陸岸にほぼ平行に存在し,水深が陸岸から東方沖合に向かって急に深くなっていた。このため,同海域は,日向灘から打ち寄せる波浪が,浅水変形などの性質により,急激に波長が短くなって波高が増大しやすい場所になっていた。そして,内海港南方の巾着島にある野島漁港など付近の漁港を基地とする漁船は,同海域が,沖合に波高の高い波浪がなくても,急に波高の高い波浪が立って危険なところであることを知っており,平素,同岩礁から離れて水深の深いところを通航していた。
 A受審人は,自ら所有する長さ約7メートルのプレジャーボートが故障していたために,これまでに5回ほど真悟丸をボート販売業者から借り受けて釣りに出かけており,同船の操船には慣れていた。
 A受審人は,発航に先立ってテレビの天気予報により宮崎県南部平野部に波浪注意報が発表されていることを知り,内海港の港口まで出てから港外の波浪の状況を見て出航するか出航を中止するかを判断し,出航できれば同港の近くで釣りを行って14時までには帰港するつもりで,真悟丸に搭載されているGPSプロッターに入力されていた内海港南方約1海里の沿岸海域にあるポイントを初めての釣場として選定したものの,同釣場が波高の増大しやすい沿岸海域にあり,波浪注意報が発表されている気象状況下では,急激に高起した波浪に遭遇するおそれのある状況であったが,自船が発航する前にプレジャーボートが出航したことでもあるから,高起した波浪に遭遇せずに安全に釣りを行うことができるものと思い,最寄りの漁業協同組合等に問い合わせるなどして波高が増大しやすい海域についての情報収集を十分に行うことなく,このことに気付かないまま,これまで行ったことのある他の安全な海域の釣場を選定せずに,初めての釣場に向かうこととして発航に至った。
 こうして,A受審人は,発航後,内海川を1.9ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で下航し,12時21分巾着島灯台から001度(真方位,以下同じ。)1,540メートルの地点で,内海港外防波堤先端を左舷側に並航して内海港の港口に至ったとき,沖合を見たところ,波浪が航行できないほど高くないことを認め,引き続き前示初めての釣場に向けて出航することとし,同防波堤の南東方にある館碆や傘碆などの険礁を左方に避けて迂回するために,港外に向けてゆっくり左回頭しながら,機関を半速力前進にかけ,13.0ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
 12時25分半A受審人は,巾着島灯台から081度1,140メートルの地点に達したとき,針路を219度に定め,折からの東北東風と同方向からの波高約2メートルの波浪とを左舷船尾に受けながら,同じ速力で続航中,突然高起した波浪が左舷後方から操舵室の前に打ち込み,同時に船体が持ち上げられ,右舷側に大傾斜して復原力を喪失し,12時30分巾着島灯台から180度1,200メートルの地点において,原針路,原速力のまま,右舷側に転覆した。
 当時,天候は曇で風力2の東北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,宮崎県南部平野部に波浪注意報が発表されていた。
 転覆の結果,真悟丸は,機関にぬれ損等を生じたが,野島漁港から駆けつけた漁船によって同漁港に引きつけられた。また,A受審人は,転覆と同時に海中に投げ出されたが,真悟丸の船底につかまっていたところを同漁船に救助された。

(原因)
 本件転覆は,宮崎県内海港南方の沿岸海域において,波浪注意報が発表されている状況下,魚釣りの目的で同港を発航するにあたり,波高が増大しやすい海域についての情報収集が不十分で,日向灘から打ち寄せる波浪が浅水変形などの性質によって波高が増大しやすい海域を釣場とすることにして南下中,高起した波浪に遭遇して大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,波浪注意報が発表されている状況下,魚釣りの目的で宮崎県内海港を発航する場合,同港南方の沿岸海域が,陸岸から東方沖合に向かって水深が急に深くなり,日向灘から打ち寄せる波浪が浅水変形などの性質によって波高が増大しやすい海域であったから,安全な釣場を選定できるよう,最寄りの漁業協同組合等に問い合わせるなどして波高が増大しやすい海域についての情報収集を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,自船が発航する前にプレジャーボートが出航したことでもあるから,高起した波浪に遭遇せずに安全に釣りを行うことができるものと思い,最寄りの漁業協同組合等に問い合わせるなどして波高が増大しやすい海域についての情報収集を十分に行わなかった職務上の過失により,借り受けた真悟丸に搭載されているGPSプロッターに入力されていた同海域にあるポイントを初めての釣場として選定し,同海域が波高が増大しやすい海域であることも,急激に高起した波浪に遭遇するおそれのある状況にも気付かないまま発航し,同釣場に向けて南下中,高起した波浪に遭遇して大傾斜し,復原力を喪失して転覆を招き,機関にぬれ損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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