日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  転覆事件一覧 >  事件





平成16年神審第65号
件名

漁船日進丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年2月3日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,平野浩三,中井 勤)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:日進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
各機器に濡損,のち廃船

原因
明らかにすることができない。

主文

 本件転覆は,岸壁に右舷付け係留中,左舷に大傾斜して発生したものであるが,その原因を明らかにすることはできない。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月26日06時35分
 兵庫県浜坂港
 (北緯35度37.7分 東経134度26.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船日進丸
総トン数 19.93トン
全長 19.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 360キロワット
(2)設備及び性能等
ア 船体設備
 日進丸は,昭和56年6月に進水した一層甲板型FRP製の漁船で,いか一本釣り漁業に使用され,昭和56年6月30日付第1回定期検査において横揺れ周期3.4秒(標準値4.5秒)であったが,平成13年6月に主機関,レーダー,魚群探知機等の設備を換装して,日本小型船舶検査機構による第1種中間検査を受けた際,横揺れ周期5.5秒となって復原性の問題が生じたので,運航するに当たっては復原性を保持するため,毎年の漁期前に横揺れ周期を計測し,以前の復原性より悪くなっていないことを確かめること,燃料油,漁具及び漁獲物の積み過ぎに注意し,重量の大きなものを甲板下の低い位置に積むことなどの復原性に関する注意が船舶検査手帳に記載された。
 日進丸は,上甲板下に,船首から順次船尾に,船首倉庫,魚倉4区画,燃料油タンク,機関室,船員室,舵機室,清水タンク及び船尾倉庫に区画され,上甲板上には,船首から船首楼甲板,船首マスト,船首甲板,船体中央には船橋,機関室囲壁,船員室,船尾甲板及び船尾マストが,両舷側には高さ1メートルのブルワークが設備され,船首甲板にはオーニングを展張でき,船尾マストにはスパンカーを展帆できるようになっていた。
 上甲板両舷舷側には各舷9個の放水口があり,それぞれ縦25センチメートル(以下「センチ」という。)横15センチで1センチの格子目がついた放水管を通して船尾方向に排水され,船上の平面積は65平方メートルであった。
 上甲板上の開口部のコーミング高さは,船首甲板上の各魚倉口が30センチ,船橋両舷の入口扉が20センチ,船員室前部左舷側にある機関室入口扉が10センチ,船尾側にある船員室入口扉が20センチであった。
 船外への排水管は,右舷側外板に主機冷却海水用1本,船尾外板に船員室厨房からの1本があり,いずれも逆流・浸水することはなかった。
 また,漁労設備は,船首部両舷にローラーが各1基,上甲板両舷ブルワークに沿って重さ約50キログラムのいか釣り機が各5基,船首マストから船橋上部を経て船尾マストに至る索に集魚灯が60個吊り下げられていた。
イ 2号芦屋岸壁
 日進丸が係留する2号芦屋岸壁は,兵庫県浜坂港の外海に面した防波堤から4区画の船だまりの一番奥にあり,東西に延びた水路幅40メートルの東奥に,東西に120メートル南北に110メートルの方形区画の南側岸壁で,水深2.5メートルの19トン型の船舶を係留することができる波の立たない場所にあった。

3 事実の経過
 日進丸は,A受審人が甲板員と2人で乗り組み,平成16年1月15日浜坂港を発し,同港沖合で操業を行ったのち,時化の中,漁獲がないまま帰途に就き,翌16日05時00分浜坂港東防波堤灯台から181度(真方位,以下同じ。)490メートル地点の2号芦屋岸壁に,船首0.4メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,乾舷50センチで船体傾斜のない状態で,船首方向110度の入船右舷付けとし,太さ18ミリメートルの合成繊維製係船索を船首から長さ6メートルの流し1本,長さ5メートルの船首ブレスト1本,船尾から長さ5メートルの流し1本,長さ3メートルの船尾ブレスト1本を取り,各機器を停止し,漁が思わしくないので無人のまま長期間係留することとした。
 その後,A受審人は,毎日10時頃日進丸の見回りを行っていたところ,同月23日雪が降りだしたので翌24日に雪の重みでオーニングが破れないよう畳んで積雪に備え,翌々25日06時45分テレビにより浜坂地方に大雪注意報が発表されていることを知り,日進丸の見回りを行った際,甲板上のすべての開口部を閉鎖し,自宅に帰って23時00分就寝した。
 こうして,日進丸は,右舷係留されたまま,25日夕方から雪が降り続く中,翌26日06時過ぎ,折しも他の漁船の見送りに出ていたA受審人の妻の目の前で,何らかの原因で左舷側へ傾斜が始まり,どうすることもできず06時35分前示係留地点において,左舷側に大傾斜して転覆した。
 当時,天候は雪で風力1の北西風が吹き,船上の積雪量は30センチで,潮候は下げ潮の初期にあたり,当日の最大潮高差は24センチであった。
 転覆の結果,各機器に濡損を生じ,さぶた数枚が流失し,船体は引き上げられたのち解体され廃船となった。

(本件発生に至る事由)
1 日進丸の復原性に問題があったこと
2 無人状態で係留していたこと
3 船上に30センチ積雪したこと

(原因の考察)
 本件転覆は,日進丸が,船上に30センチ積雪した状態で岸壁に無人状態で係留中,船体が左舷側に傾き,転覆したものと考えられるので,その要素について検討する。
(1)積雪重量については,当時の外気温度が気象資料によると摂氏3度以下であり,このとき,雪の密度は0.08グラム毎立方センチであるから,船上の積雪重量は1.6トンであった。
(2)積雪による船体の沈下量については,毎センチ沈下トン数をTとして,船の全長をL,幅をB,水線面積係数をCw及び海水比重をSGとすると,T=(L×B×Cw)÷100×SGで表すことができ,本船型の水線面積係数は0.9で,毎センチ沈下トン数Tは0.618トンである。
 よって,積雪重量と毎センチ沈下トン数から日進丸が平行沈下したとするとその沈下量は2.6センチとなる。
(3)船体が傾斜した場合の海水流入角については,積雪により日進丸が3センチ平行沈下すると,乾舷は47センチであり,作図により海水流入角度を求めると,機関室入口扉への海水流入角度は30度である。
(4)積雪移動による船体傾斜については,排水量を算定する確かな証拠がないが,仮に全長,幅,喫水及び横揺れ周期から復原モーメントを求めて,船上に積雪した1.6トンが左舷側に移動したとするとその傾斜角は5.3度である。
 日進丸が,航行中時化の中で船体が20度ほど横揺れし,青波が打ち上げられることも考慮すれば,船上の積雪が左舷側に移動しただけで復原力を喪失したとは考えられない。
(5)係留地点の気象海象については,2号芦屋岸壁は,内港の一番奥で波は立たず,19トンの船舶を係留する場所として係留条件がよく,気象資料により25日10時から翌26日09時まではほとんど無風であったから,船上の積雪を移動させるほどの風浪による傾斜はなかった。また,潮流についても25日から26日の最大潮差が24センチで船体を左舷側に傾斜させる外力が働いたとは考えられない。
 よって(1)から(5)の船体を傾斜させる要素を検討した結果,乾舷が水面下に達するほどであったことを証拠立てるものがないことから,積雪量が30センチあったこと,復原性に問題があったことに原因があったとは考えられず,転覆の原因を明らかにすることはできない。
 無人状態で岸壁に係留していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件転覆は,夜間,兵庫県浜坂港において,岸壁に右舷付け係留中,左舷側に大傾斜したことによって発生したものであるが,その原因を明らかにすることはできない。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION