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平成16年那審第26号
件名

漁船裕実丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年1月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平,杉崎忠志,小須田敏)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:裕実丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底に破口,機関を濡れ損,推進器軸と推進翼曲損などの損傷,その後廃船

原因
気象・海象に対する配慮不十分,船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,風波が増勢することが予想される状況下で漂泊中,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月26日04時50分
 沖縄県粟国島北側裾礁
 (北緯26度36.4分 東経127度13.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船裕実丸
総トン数 4.9トン
登録長 10.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90
(2)設備及び性能等
 裕実丸は,平成3年9月に進水したFRP製漁船で,上甲板上には船首側から順に,前部甲板,船室兼操舵室及びオーニングを張った船尾甲板を配し,前部甲板下に4個のいけすを,船室兼操舵室の下に機関室を設け,上甲板の周囲には,高さ約60センチメートルのブルワークが巡らされていた。
 操舵室には,電動油圧式の操舵装置のほか,機関操縦装置,GPSプロッター及び出力1ワットの漁業無線用電話装置を備え,その床にはじゅうたんが敷かれ,横になって休息をとることができるようになっていた。
 航行に当たっては,回転数毎分1,100にかけた8.0ノットを通常航海速力とし,漂泊する際には,シーアンカーを使用すると動揺周期が短くなって休みにくいので,これを備えていなかった。

3 事実の経過
 裕実丸は,A受審人が1人で乗り組み,まぐろ一本釣り漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成15年12月23日21時00分沖縄県糸満漁港を発し,同県粟国島北方約40海里の漁場に向かった。
 A受審人は,翌24日09時30分漁場に到着してすぐ操業を開始し,19時ごろ操業を終えたのち漂泊して休息をとり,25日06時30分操業を再開したところ,昼前のラジオの天気予報で26日には風波が増勢することを知り,まぐろ90キログラムばかりを獲て操業を終え,15時ごろ糸満漁港に向けて帰航することとし,北緯27度15分東経127度06分の地点を発進し,針路を160度(真方位,以下同じ。)に定め,8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 発進後,20時ごろA受審人は,知人との電話連絡で市場での魚価が高いとの情報を聞き,周囲の風が強くなっていなかったことから,翌26日に粟国島北西約5海里のところに設置されている浮魚礁ニライ13号付近で1回操業することとし,22時40分粟国島灯台から077度7.5海里の地点に至り,ニライ13号北方に向けて針路を313度に転じた。
 転針後A受審人は,26日朝操業を開始するときにニライ13号の近くに位置することができるよう,自船の周囲で吹いていた風速毎秒約7メートルの北風による圧流量を考慮し,粟国島灯台から344度12.0海里となる,ニライ13号の北方約6海里の地点で漂泊することとし,26日00時30分同地点に至って機関を停止したのち,操舵室上部のマストに設置した白灯及び黄色回転灯各1個を点灯して漂泊を開始した。
 このときA受審人は,GPSプロッター画面上で,粟国島に向かう南方に1.5ないし2.0ノットの速力で圧流されていることを認め,漂泊中に風が強まると漂流速力が増大して同方向約11海里のところにある同島に著しく接近するおそれがあることを知り得る状況であったが,漂泊中に風が強くなることはないものと思い,船位の確認を行うこととせず,05時に起きて操業の準備を始めるつもりで,目覚まし時計を05時に合わせ,操舵室の床に横になって休息した。
 こうして,A受審人は,その後船位の確認を十分に行っていなかったので,粟国島に向けて圧流されていることも,01時30分ごろから強まった北北西風によって漂流速力が増大して同島に著しく接近するおそれのある状況となっていることにも気付かないまま操舵室で休んでいたところ,04時50分粟国島灯台から035度1.9海里の地点において,裕実丸が船首を270度に向けて粟国島北側に拡延する裾礁外縁に乗り揚げ,そのショックと波浪が打ち上げる音で目覚めた。
 当時,天候は曇で風力7の北北西風が吹き,東シナ海南部に海上強風警報が,沖縄本島中南部沿岸に波浪注意報が発表され,付近には北から寄せる波高3メートルの波浪があり,潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚ののち,A受審人は,機関を始動して離礁を試みたものの,効なく,その後船底全体が乗り揚げているのを認め,船固めのために右舷船首から錨を入れたところ,波浪による動揺のために錨索が切れて陸岸に打ち寄せられ,夜が明けるのを待ち陸に上がって救助されたが,裕実丸は船底に破口を生じ,機関室に浸水して機関を濡れ損し,推進器軸と推進翼の曲損及び舵の脱落を生じ,その後廃船処理された。

(本件発生に至る事由)
1 風波が増勢するとの予報が発表されていることを知っていたこと
2 糸満漁港への帰航を中止したこと
3 ニライ13号の近くで操業を始めることができるように漂泊地点を選定したこと
4 漂泊開始時に1.5ないし2.0ノットの速力で南方に圧流されているのを認めていたこと
5 01時30分ごろから風速が毎秒約15メートルに強まったこと
6 漂泊中,右舷正横方向から風を受け続けたこと
7 漂泊中,船位の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件乗揚は,粟国島北北西方沖合で漂泊中,折からの風潮流により同島に向けて圧流されたことによって発生したもので,その原因について考察する。
 A受審人は,粟国島北北西方沖合において,翌朝の操業に合わせて同島まで約11海里の地点において4時間半ばかり漂泊する際,GPSにより1.5ないし2.0ノットの速力で同島の方向に圧流されているのを確認し,風波が増勢するとの予報が発表されていることを知っていたのであるから,風が強くなると漂流速力が増大し,粟国島に著しく接近するおそれがある状況となるのを予見できる状況にあったもので,漂泊中,GPSにより船位の確認を十分に行っていれば,同島への接近を察知し,機関を使用して移動することにより乗揚を防止することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,漂泊中に船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 漂泊中,右舷正横方向から風を受け続けたこと及び01時30分ごろから風速が毎秒約15メートルに強まったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であり,船体を圧流し,さらにその漂流速力を増大させる要素となったものであるが,船位の確認を十分に行っていれば,漂流速力の増大と粟国島への接近を察知できたものであり,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 糸満漁港への帰航を中止したこと,ニライ13号の近くで操業を始めることができるように漂泊地点を選定したこと,漂泊開始時に1.5ないし2.0ノットの速力で南方に圧流されているのを認めていたこと及び風波が増勢するとの予報が発表されていることを知っていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,船位の確認が十分に行われていれば,粟国島への接近を察知して乗揚を回避することは可能であったことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,風波が増勢することが予想される状況下,沖縄県粟国島北北西方沖合において漂泊する際,船位の確認が不十分で,折からの風潮流により同島に向けて圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,風波が増勢することが予想される状況下,沖縄県粟国島北北西方沖合において漂泊する場合,風が強まると,漂泊開始時に認めた漂流速力が増大して同島に著しく接近するおそれがあったから,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,漂泊中に風が強くなることはないものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,折から生じていた同島に向かう風潮流によって,同島に向けて圧流されて著しく接近するおそれのある状況となっていることに気付かないまま漂泊を続け,同島北側に拡延する裾礁外縁への乗揚を招き,その後波浪による動揺によって陸岸に打ち寄せられ,船底に破口を生じ,機関室に浸水して機関を濡れ損し,推進器軸と推進翼の曲損及び舵の脱落を生じ,廃船処理するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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