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平成16年横審第74号
件名

モーターボートわたつみ乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年1月14日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂,竹内伸二,浜本 宏)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:わたつみ船長 海技免許:一級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名: わたつみ甲板員

損害
全壊

原因
錨泊中に強風となった際,走錨の確認不十分

主文

 本件乗揚は,錨泊中に強風となった際,走錨の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月14日22時50分
 東京都南硫黄島
 (北緯24度14.5分 東経141度28.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートわたつみ
総トン数 87トン
全長 27.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 993キロワット
(2)設備及び性能等
 わたつみは,平成元年9月に進水したFRP製モーターボートで,平素,Cの従業員の福利厚生を目的とする瀬戸内海での日帰りクルージングや釣りに利用されていた。
 平成7年に航行区域を近海区域(国際航海)に資格変更後,2年ないし3年間隔で1箇月ほどの北マリアナ諸島へ向かう航海にも使用され,資格変更の際に属具を調整し,両舷錨として重量95キログラムのダンフォース型錨及び直径12.5センチメートルのスタッドレスアンカーチェーンが,それぞれ右舷及び左舷に200メートル及び100メートル装備されていた。
 船橋にジャイロコンパス,GPS,レーダー等の航海計器のほか魚群探知機,長椅子,海図台及び椅子2脚が設置されていた。

3 事実の経過
 わたつみは,A受審人及びB指定海難関係人ほか6人が乗り組み,乗客4人を乗せ,北マリアナ諸島でクルージングや釣りを楽しむ目的で,船首1.60メートル船尾2.15メートルの喫水をもって,平成16年6月5日22時00分広島県呉港を発し,マリアナ諸島のサイパン島に向かった。
 A受審人は,越えて14日北硫黄島付近海域で早朝よりトローリングを行ったのち南硫黄島付近に移動し,16時40分南硫黄島の916メートル島頂(以下「島頂」という。)から072度(真方位,以下同じ。)1.0海里において,水深約24メートルの底質岩に右舷錨を投下し,錨鎖4節を伸出し,機関を停止して錨泊した。
 A受審人は,投錨後に潜水した甲板員から錨かきが良好であることを聞き,また,海上が穏やかであったことから安心し,突風に備えて伸出錨鎖長の把駐力(はちゅうりょく)を考慮しないまま単錨泊した。
 A受審人は,夕食後しばらく在橋し,20時30分B指定海難関係人を含む3人の甲板員に対し,自身が24時に昇橋するのでそれまで1時間交代の停泊当直をするように伝えたが,各甲板員はこれまで数回前示錨地で停泊した経験があるので大丈夫と思い,具体的な風速値を示すなどして天候が急変したときには報告するよう指示することなく,自室に戻り休息した。
 最初の停泊当直に就いた甲板員は,21時40分より約10分間の驟雨(しゅうう)を伴う突風が吹いたとき,A受審人に報告することなく,錨かきを確認するために在橋していたB指定海難関係人とともに船首に行き,錨鎖が水面に約45度の角度で入っていて異常を認めず,その後船橋に戻りGPSの表示とA受審人が海図上に記入した錨地の緯度経度とを比較して走錨していないことを確認し,22時00分次直の同指定海難関係人と交代して休息した。
 22時10分B指定海難関係人は,入直後天候が急変して強い驟雨を伴う突風及び強風となったが,A受審人にこのことを報告することなく,開口部閉鎖のために船橋を離れた。
 やがて,わたつみは,南東からの強風により走錨し始め,南硫黄島の海岸に向かってゆっくり圧流されたが,B指定海難関係人は,居住区周囲の開口部3箇所を閉鎖して船橋に戻った後,依然A受審人に報告することなく,走錨に気付かないまま,翌日のトローリングポイントを海図で当たるなどした。
 A受審人は,停泊当直者から天候が急変した報告を受けなかったので,自ら走錨を確認しないまま走錨し始めたことに気付かず,沖出しするなどの乗揚防止の措置をとることができなかった。
 B指定海難関係人は,22時30分船体を擦(こす)るような音がしたのでレーダーを見たところ,南硫黄島の海岸線映像を近くに認め,島影が至近に大きく見えたことから走錨していることを知り,甲板員と錨鎖を巻揚中に錨爪が岩礁に引っかかり,うねりにより船体が大きく上昇して錨鎖が切断し,急ぎ左舷錨を投下したが効なく,22時50分わたつみは,島頂から058度1,100メートルの地点において,船首が000度を向いて乗り揚げた。
 当時,天候は晴で,風力3の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,東ないし南東から波高約2メートルのうねりがあった。
 A受審人は,船体の衝撃で目覚めて乗揚を知り,沈没の危険があったので全員を退船させるなどの措置に当たった。
 乗揚の結果,船体は波浪の衝撃による破壊が急速に進み全壊したが,乗組員及び乗客全員が南硫黄島に上陸し,のち救援に駆けつけた海上自衛隊のヘリコプターで救助された。

(本件発生に至る事由)
1 錨地の底質が岩だったこと
2 突風に備えて伸出錨鎖長の把駐力を考慮しないまま単錨泊したこと
3 A受審人が停泊当直者は経験があるので大丈夫と思ったこと
4 A受審人が停泊当直者に対して具体的な風速値を示すなどして天候が急変したときには報告するように指示しなかったこと
5 驟雨を伴う突風及び強風となったこと
6 B指定海難関係人が天候急変時にA受審人に報告しなかったこと
7 A受審人が天候急変時に走錨を確認できなかったこと
8 乗揚直前に錨鎖が切断したこと
9 乗揚防止の措置がとられなかったこと

(原因の考察)
 わたつみは,投錨後驟雨を伴う突風及び強風となってから乗揚まで約40分の時間があり,この間に停泊当直者が天候の急変を船長に報告し,船長が走錨を十分に確認してこれに気付いていたなら,機関を使用して沖合に移動するなどの乗揚防止の措置をとることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が停泊当直者に対して具体的な風速値を示すなどして天候が急変したときには報告するよう指示しなかったこと,走錨を確認できなかったこと,B指定海難関係人が天候急変時にA受審人に報告しなかったこと,及び機関を使用して沖合に移動するなどの乗揚防止の措置がとられなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,突風に備えて伸出錨鎖長の把駐力を考慮しないまま単錨泊したこと及び停泊当直者は経験があるので大丈夫と思ったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 錨鎖が切断したことは乗揚直前と認められることにより,また,錨地の底質が岩だったこと及び驟雨を伴う突風及び強風となったことは,いずれも原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,南硫黄島において,錨泊中に強風となった際,走錨の確認が不十分で,乗揚防止措置がとられなかったことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が停泊当直者に対し,天候が急変したときには報告するよう指示しなかったことと,同当直者が天候が急変したときに船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,南硫黄島において錨泊する場合,停泊当直者に対して具体的な風速値を示すなどして天候が急変した際には報告するよう指示するべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,停泊当直者は経験があるので,特に指示しなくても大丈夫と思い,具体的な風速値を示すなどして天候が急変したときには報告するよう指示しなかった職務上の過失により,驟雨を伴う突風及び強風となった際に同当直者の報告を受けられず,同受審人自ら走錨を確認することができないまま乗揚を招き,全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,南硫黄島において停泊当直中,天候が急変して驟雨を伴う突風及び強風となった際,船長に報告しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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