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平成15年第二審第28号
件名

プレジャーボート喜福丸プレジャーボート祥陽丸衝突事件[原審・門司]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月28日

審判庁区分
高等海難審判庁(上野延之,平田照彦,雲林院信行,井上 卓,保田 稔)

理事官
東 晴二

受審人
A 職名:喜福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:祥陽丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

第二審請求者
理事官 半間俊士

損害
喜福丸・・・右舷船首外板に擦過傷
祥陽丸・・・右舷中央部船縁,操舵室及び船尾甲板のオーニングに損傷

原因
喜福丸・・・船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は,防波堤北端を左舷に見て航行する喜福丸が,できるだけこれに遠ざかって航行せず,祥陽丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月25日19時15分
 宮崎県目井津漁港
 (北緯31度32.6分 東経131度23.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 プレジャーボート喜福丸 プレジャーボート祥陽丸
総トン数 1.80トン 1.30トン
全長 8.10メートル 8.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 77キロワット 26キロワット
(2)設備及び性能等
ア 喜福丸
 喜福丸は,昭和63年10月に進水した,一本釣り漁船として登録されたFRP製プレジャーボートで,船首甲板上にたつ及びかんざし,かんざしの右端付近に四つ目錨,その右側に巻揚げローラ,船首甲板下に船倉1倉,船体前部甲板下に魚倉4倉,船体中央部に二層の構造物,その上段に操舵室,操舵室内左舷前面に魚群探知機及びGPSプロッター,同室中央前面に機関の計器盤,その後方に操舵輪,同輪右舷側に機関遠隔操縦装置,同構造物下段に機関室,同計器盤下方に同室への出入口,同室前面外側にマスト,操舵室後方に十字型マスト,その横棒右舷端に無線用アンテナ,同棒左舷端にGPS用アンテナ,マスト頂点に黄色回転灯,その下方に白灯,舷灯及び船尾灯,操舵室屋根から船尾上部にオーニング,船尾甲板下に魚倉,船倉及び操舵機室並びに船尾甲板上の舵柱に舵柄をそれぞれ設けていた。
イ 祥陽丸
 祥陽丸は,昭和59年10月に進水したFRP製プレジャーボートで,船首甲板上両縁にそれぞれ手すり及び錨,船体前部甲板下に魚倉3倉,いけす1倉及び氷倉1倉,船体中央部甲板上に操舵室,船体後部甲板下にいけす2倉,氷倉2倉及び倉庫2倉,操舵室内に航海計器等,同室下方に機関室,操舵室出入口右舷側壁に機関遠隔操縦装置,操舵室屋根に風除け,風除け後方にGPS設置箱,操舵室内台上に右舷側から機関回転計,魚群探知機及び漁船無線並びに操舵室右舷側壁に航海灯及び白灯等の各スイッチを備えた電源盤をそれぞれ設けていた。

3 宮崎県目井津漁港
 目井津漁港は,宮崎県南那珂郡南郷町目井津の東岸に位置し,同港北方の虚空蔵島東方約110メートルから北沖防波堤が東南東方にくの字形に約650メートル延び,同防波堤東端に目井津港北沖防波堤灯台(以下「北沖防波堤灯台」という。)が,また,同灯台東方約100メートル沖合から南沖防波堤が南西方約570メートルへ,更に同防波堤南端から西方約210メートルに西沖防波堤が延びていた。
 なお,南沖防波堤北端に目井津港南沖防波堤灯台(以下「南沖防波堤灯台」という。)が設置され,北沖防波堤東端及び南沖防波堤北端間は目井津漁港の出入口であった。
 目井津漁港の出入口から港奥に向かう途中,狼ケ鼻から北東方約360メートルに新南防波堤が,更に進むと両岸から防波堤がそれぞれ延び,それら防波堤から港奥にかけて岸壁が設置されていた。
 ところで,南沖防波堤は,略最低低潮面から7.0メートルの高さがあり,小型船は,同防波堤を挟むと港内から港外を,また,港外から港内を,見通すことができない状況であった。

4 事実の経過
 喜福丸は,A受審人が単独で乗り組み,釣りの目的で,船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成13年11月25日15時00分目井津漁港を発し,同港南東方約3海里沖にある水島付近の釣り場へ向かった。
 15時15分A受審人は,前示釣り場に至って釣りを始め,釣果を獲たのち,19時00分ごろ発航地へ向けて帰途に就いた。
 そのころ,周囲が暗くなっていたことから,目井津漁港南方に浅瀬が存在し,灯台等の航路標識が設置されていないので,西沖防波堤切り通しからの帰航を避け,同港出入口へ向けて北上した。
 19時05分半A受審人は,鞍埼灯台から290度(真方位,以下同じ。)1,760メートルの地点で,針路を358度に定め,機関を回転数毎分2,200の半速力前進にかけ,11.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,法定灯火を表示し,操舵室後部中央右寄りに立って舵柄で操船しながら前方の見張りに当たって進行した。
 19時12分半A受審人は,目井津漁港出入口に近づいたことから,南沖防波堤灯台から149度450メートルの地点で,機関を回転数毎分1,980の微速力前進に落とし,速力を8.6ノットとして続航した。
 19時14分わずか前A受審人は,南沖防波堤灯台から090度200メートルの地点に達したとき,これまでこの時刻に出航する漁船と出会ったことがなかったことから,他船はいないものと思い,南沖防波堤北端に近寄るように左転を開始し,その後,祥陽丸が同防波堤に沿って出航していて同船と衝突の危険のある状況となったが,同端を左舷に見て,できるだけこれに遠ざかって航行することなく進行した。
 19時15分わずか前A受審人は,南沖防波堤北端を替わったとき,祥陽丸の前路に進出する態勢となり,船首至近のところに祥陽丸の船首と灯火を認めたが,どうすることもできず,19時15分南沖防波堤灯台から239度35メートルの地点において,喜福丸は,船首が225度を向き,原速力のまま,その右舷船首が,祥陽丸の右舷船首部に前方から15度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期及び潮高は99センチメートルで,視界は良好であった。
 また,祥陽丸は,B受審人が単独で乗り組み,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日19時07分目井津漁港の港奥にある船溜まりを発し,宮崎県鵜戸埼東方沖合の釣り場へ向かった。
 19時11分わずか過ぎB受審人は,南沖防波堤灯台から268度530メートルの地点で,針路を118度に定め,機関を回転数毎分1,500の半速力前進にかけ,5.0ノットの速力で,法定灯火を表示し,操舵室後方で風除けから顔を出して船首方を向き,右手で舵棒を握って操船しながら見張りに当たって進行した。
 19時13分B受審人は,南沖防波堤灯台から241度310メートルの地点に達したとき,南沖防波堤に港外の見通しを妨げられていたものの,同防波堤北端を左舷に見て航行する船は同端に遠ざかって航行するので,同端に近寄って航行すれば,左舷対左舷で替わるものと思い,同端に近寄って航行するよう左転を始めた。
 19時14分わずか前B受審人は,南沖防波堤灯台から217度210メートルの地点を航過したとき,喜福丸が港外から南沖防波堤北端に近寄って航行するため左転を開始し,その後同船と衝突の危険のある状況下,南沖防波堤を約20メートル離して針路を030度とし,これに沿って続航した。
 19時15分わずか前B受審人は,南沖防波堤灯台から227度60メートルの地点に達したとき,南沖防波堤北端に近寄って航行する喜福丸の灯火を船首至近に認め,衝突の危険を感じて機関を中立運転としたが効なく,祥陽丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,喜福丸は,右舷船首外板に擦過傷を,祥陽丸は右舷中央部船縁,操舵室及び船尾甲板のオーニングに損傷をそれぞれ生じた。

(航法の適用)
 本件は,夜間,目井津漁港において,南沖防波堤北端付近で,同端を左舷に見て航行する喜福丸と同端を右舷に見て航行する祥陽丸とが出会い頭に衝突したものである。
 目井津漁港は,港則法が適用されず,海上衝突予防法によることとなるが,適用する航法の規定がないので,同法第38条及び第39条を適用するのが相当である。
 ところで,港則法が適用されない港であっても,出会い頭の衝突を避けて安全に航行するため,防波堤などの工作物や大きな停泊船があった際,それらを右舷に見て航行するときは,できるだけこれに近寄り,左舷に見て航行するときは,できるだけこれに遠ざかって航行することは船員の常務として求められることである。

(本件発生に至る事由)
1 喜福丸
(1)A受審人が,できるだけ南沖防波堤北端に遠ざかって航行しなかったこと
(2)A受審人が,これまで,この時刻に出航する漁船と出会ったことがなかったから,出航船がいないものと思っていたこと
(3)A受審人が,南沖防波堤により港内の見通しが妨げられたまま同防波堤北端に近寄って航行する際,直ちに停止できるよう減速して航行しなかったこと
(4)祥陽丸の前路に進出したこと
(5)A受審人が,祥陽丸を初めて認めたとき,避航措置をとらなかったこと

2 祥陽丸
 B受審人が,相手船を初認したとき,直ちに避航措置をとらなかったこと

3 共通事項
 南沖防波堤が高く,小型船は,同防波堤を挟むと港内から港外を,また,港外から港内を,見通すことができない状況であったこと

(原因の考察)
 本件は,喜福丸が南沖防波堤北端を左舷に見ながら左転するとき,できるだけ同端に遠ざかって航行し,祥陽丸前路への進出がなかったら,発生していなかったと認められる。
 したがって,A受審人が,南沖防波堤北端にできるだけ遠ざかって航行せず,祥陽丸の前路に進出したことは本件発生の原因となる。
 A受審人が,これまで,この時刻に出航船と出会ったことがなかったから,出航船がいないものと思っていたこと及び高い南沖防波堤により港内の見通しが妨げられたまま同防波堤北端に近寄って航行する際に直ちに停止できるよう減速して航行しなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 また,A及びB両受審人が互いに相手船を初めて認めたとき,避航措置をとらなかったことは,初認から衝突までの時間がほとんどなかったことから避航効果が認められないので本件発生の原因とならない。
 南沖防波堤が高く,小型船は,南沖防波堤を挟むと港内から港外を,また,港外から港内を,見通すことができない状況であったことは,喜福丸が同防波堤北端を左舷に見て航行するとき,できるだけ遠ざかって航行していたなら,本件は発生していなかったものと認められることから本件発生の原因とならない。

(主張に対する判断)
 夜間,目井津漁港において,祥陽丸が南沖防波堤北端を右舷に見て同端に近寄って航行する際,他船が同端に近寄って航行することもあるからあらかじめ,いつでも行きあしを止めることができる安全な速力で航行すべきであり,安全な速力としなかったことによって喜福丸との衝突を招いたとの主張があるので,これについて検討する。
 目井津漁港出入口は,可航幅が約100メートルあり,喜福丸及び祥陽丸両船とも船の長さが9メートル足らずの小型船であり,喜福丸が南沖防波堤北端をできるだけこれに遠ざかって航行し,祥陽丸が同端に近寄って航行していれば,左舷対左舷で互いに安全に航過できたこと,また,祥陽丸は,機関を全速力後進にかけた際にほぼ同船の長さの距離で停止できる5.0ノットに減速していたが,喜福丸は同船の長さの距離で停止できる安全な速力で航行していなかったことから,祥陽丸があらかじめ,安全な速力で航行しなかったので喜福丸との衝突を招いた旨の主張は認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,目井津漁港において,南沖防波堤北端を左舷に見て航行する喜福丸が,できるだけこれに遠ざかって航行せず,祥陽丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,目井津漁港において,南沖防波堤北端を左舷に見て航行する場合,同端を右舷に見てこれに近寄って航行する船と安全に航過できるよう,できるだけ同端に遠ざかって航行すべき注意義務があった。ところが,同受審人は,これまでこの時刻に出航する漁船と出会ったことがなかったことから,他船はいないものと思い,できるだけ南沖防波堤北端に遠ざかって航行しなかった職務上の過失により,同端を右舷に見てこれに近寄って航行する祥陽丸の前路に進出して同船との衝突を招き,喜福丸の右舷船首外板に擦過傷,祥陽丸の右舷中央部船縁,操舵室及び船尾甲板のオーニングに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成15年6月24日門審言渡
 本件衝突は,喜福丸が,防波堤出入り口付近における見通しの悪い状況を解消する措置をとらず,祥陽丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図
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