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ペアレント・メンター養成講座の効果について
ペアレント・メンター養成講座の効果について
井上雅彦
兵庫教育大学
 
1 目的
 ペアレント・メンター養成講座の効果を検討することを目的とした。
 
2 方法
1)参加者
 名古屋会場、東京会場のプログラム参加者39名を対象とした。
2)質問紙
 Table 1に示す質問紙についてプログラムの事前・事後に各個人に記入を依頼した。
 各質問項目はとてもそう思う、そう思う、わからない、あまり思わない、そう思わないの5段階のリッカーとスケールであった。
 
Table 1 質問項目
1 来談者の人権を尊重することができる。
2 来談者の話を冷静に聴くことができる。
3 来談者に自分の体験を話すことができる。
4 相談を受けることはストレスだと感じる。
5 相談を受けることに不安がある。
6 来談者の話を傾聴することができる。
7 来談者の秘密を遵守することができる。
8 来談者に対して特殊な感情を持ったり、心理的に巻き込まれたりする。
9 来談者に地域の情報を提供することができる。
10 相談時間を守り、適切に終えることができる。
11 相手の話を聴くより、自分の話が多くなる。
12 自分の能力の限界をわきまえて活動することができる。
13 相談を聴いていると、腹が立ったり悲しくなったりする。
14 メンターの活動を自分だけで抱え込まずに活動できる。
15 自分の子育ての経験や価値観を主張し過ぎず、客観的なアドバイスができる。
16 来談者の話を共感的に聴くことができる。
17 相談を終えた後、そのことが気になったり悩んだりする。
18 自分が体験したことがないことや、答えられないことの相談は不安である。
19 来談者に他の人や他機関を紹介することができる。
20 自分の相談の技術や能力を高める努力をする。
 
3)プログラムの流れ
(1)質問紙事前評価
(2)講義 ペアレント・メンターのガイドラインについて
(3)講義 リソースブックの作り方
(4)講義 相談の技術と基礎知識
(5)メンター・ロールプレイ演習
(1)自己紹介
(2)相談の始め方についての説明
着席位置や距離の確認(ペアに分かれて確認)
自己紹介
来談者の確認
時間の確認
非言語的な行動(しぐさや表情、姿勢や声のトーンなど)に注意すること
(3)傾聴的態度の説明と練習
デモンストレーション(傾聴的な聞き方とそうでない聞き方)
 5人のうち1組が、クライアント役、カウンセラー役になってそれぞれ5分ずつ行う。5分経過した後、観察者とクライアント役は評価表に記入しカウンセラー役に渡す。
 5分×5組で終了したら10人で感想を一人ずつのべあう。
(4)全体で感想を述べあう
(6)質疑応答
(7)質問紙事後評価
 
3 結果と考察
 事前、事後の質問紙の結果について、4の「相談を受けることはストレスだと感じる」、5の「相談を受けることに不安がある」、17の「相談を終えた後、そのことが気になったり悩んだりする」、18の「自分が体験したことがないことや、答えられないことの相談は不安である」は得点の個人差が大きい傾向にあった。
 10の「相談時間を守り、適切に終えることができる」が1%水準(t=-3.561, df=38, P<0.01)で有意に改善した。また13の「相談を聴いていると、腹が立ったり悲しくなったりする」、17の「相談を終えた後、そのことが気になったり悩んだりする」(t=-2.317, df=38, P<0.05)、18の「自分が体験したことがないことや、答えられないことの相談は不安である」(t=-2.110, df=38, P<0.05)に関して5%水準での有意な改善が見られた。今回の分析ではプログラムとして講義やロールプレイ演習など複数の変数が介在するため、あくまで全体の効果であり、講義のみまたはロールプレイのみの単独の効果は証明できない。しかしながら、これらの項目は特にロールプレイの中で扱った内容に直接関連しており、本養成講座のプログラムが日々の相談に従事する参加者の意識に肯定的な変容をもたらしたことを示している。今後、今回変化が見られにくかった項目についてプログラムの内容の精錬が課題となる。


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