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地域生活支援リソースブック 2005
《序章》自閉症について
《第一章》障害の受容〜就学まで
《第二章》学齢期
《第三章》余暇活動
《第四章》地域生活
《第五章》学校卒業後
《第六章》災害時
 
中村文子委員・野尻美夏委員
阿部美喜子委員・横山美香委員
 
《序章》
自閉症について
自閉症の概念
 「自閉症」は、生まれつきの脳の障害に基づいて起こる発達障害の一つです。見る、聞く、感じる等の情報を適切に処理することができず、人との交流、コミュニケーション、行動などに偏りが生じます。「自閉」ということばから連想される「人に無関心で、自分の殻に閉じこもっている」「心を閉ざしている」等、特定の心理状態を指すものではありません。
 
基本症状
1)社会性の障害
 目があわない、親を求めない、どこかに行ってしまうなどの幼児期の特徴的な行動から、他者と気持ちを共有することができない、人の気持ちがよめないといった社会的相互反応の問題に至る幅広い状態像を示します。実際には他者を拒否する場合から、一見人懐っこいとみえる場合までさまざまな状態が認められます。
 
2)コミュニケーションの障害
(1)言語性コミュニケーション
 ことばの遅れから始まり、ことばが出てくるようになっても、おうむ返し、人称関係の誤り、会話が困難など、自閉症独特の言語発達がみられます。言語能力が向上しても、比喩や冗談がわからないことや、会話による感情交流が難しいことが特徴で、話をしているほどには理解ができていないことが多くあります。話し方も不自然で抑揚に乏しく、一本調子になりやすく、また年齢にふさわしくない大人びたしゃべり方をするなどの特徴がみられます。
(2)非言語性コミュニケーション
 表情やジェスチャーといったコミュニケーション手段を適切に使うことができず、また相手の発したそれらの意図を読み取り、理解することも困難なことが多くあります。
 
3)イマジネーション(想像力)の障害
 一般的にこだわりと呼ばれるもので、普通にみられる活発な想像力を駆使した遊びのかわりに、自閉症児は多彩なこだわり行動を示します。反復的な行動から、特定のものにだけ著しい興味を示す、順番や物の位置への固執などへ発展する。ごっこ遊びも独特で再現遊びになりやすいです。これらは、目の前に実在しない物を考えたり、実際にない事柄を考えることが苦手なために起こり、不測の事態に臨機応変に対応することができず、そのため、「いつもどおり」を好み、興味や関心が偏りやすい。逆に「秩序」を守りたいという特性が長所として発揮されると、一定の手順を繰り返す生活習慣が定着しやすくなることがあります。
 
付随することが多い症状
1)覚刺激に対する反応の異常
 それぞれの分野に過敏あるいは鈍感なため、生活のしにくさと関係していることが多く、大人になっても持ち続けると言われています。
 
(1)聴覚
 特定の音に過剰な嫌悪感を示し、時には耳をふさいだりします。逆に、みんなが嫌う音が平気な例や、音への反応が遅れる場合もあります。聴覚の過敏さが、人ごみやレストランを嫌がる理由になったりすることがある一方で、エンジンの音を聞いただけで車の種類が区別できる人もいたりします。
(2)視覚
 光るもの、回るものを見ていることを好んだり、特定の見え方を楽しんだり(横目で見る、手をかざして見る、いろいろな角度から見るなど)、光を極端にまぶしがることがあります。
(3)味覚
 偏食と関係があることがあります。多くの人がおいしいと感じる味を変な味と感じたり、偏食が単に「わがまま」のためだけではないことに注意が必要です。
(4)嗅覚
 家以外のトイレが使えない理由になることがあります。また、はっきりと体臭や口臭などを指摘するためトラブルをおこすこともあります。
(5)触覚
 赤ちゃんの時、抱っこされるとそりかえったというエピソードで報告されることがあるように、乳児期から触れられること、洋服が肌に接する感覚(シャツのタグなども)、耳垢をとる、散髪をするなど数々の場面でみられます。毛布をなでるのが好き等特定の触覚刺激に偏った好みを示す場合もあります
(6)痛覚
 痛みに対しても過剰に敏感な場合と、無頓着な場合があります。例えば、注射に異様なほど恐怖心を持っていたり、逆に、予防注射をうけても泣かないのに採血では大泣きしたりする子もいます。大怪我をしていても泣かないなど、周囲の人が気付かないこともあり、注意が必要です。
 
2)睡眠障害
 睡眠リズムがなかなか確立しなかったり、睡眠時間が極端に短かったり、夜中にたびたび目を覚ますなどいろいろな睡眠障害がみられます。
3)多動・不注意・衝動
 自分の興味にであうとその衝動性が抑えられなかったり、自分の好きなことで頭がいっぱいになると他のことに気付けなかったり等の自閉症の基本症状で説明できる行動と説明できない行動がみられます。
4)不器用
 粗大運動(体を動かす大きな運動や身のこなし)と微細運動(手先を使うことや表情筋を動かすことなど)、両者の不器用さを伴うことが多くあります。
5)てんかんと脳波異常
 脳波異常を高率に認め(65〜85%)、てんかんの発症も10〜20%に認められます。てんかんの発症は10歳を過ぎてからが多いので注意が必要です。脳波異常については、前頭葉、頭頂葉からの出現が多く前頭葉の機能障害と関係するともいわれています。


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