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わかりやすい自閉症基礎講座
2005/11/20 公開セミナー
わかりやすい自閉症基礎講座
よこはま発達クリニック・京都市児童福祉センター
村松陽子
 
今日の内容
I. 自閉症についての基本的理解
・診断概念や用語の説明
・基礎的な知識
・自閉症の特性
II. 自閉症のアプローチの基本
・支援の考え方
・特性に合わせた支援の方法
III. 自閉症の家族への支援
・相談されることの多い質問に関連して
 
I. 自閉症についての基本的理解
自閉症の基礎知識
・発達障害のひとつである
・脳の生物学的な基盤による
・親の育て方や環境によって後天的に起こるものではない
・脳における情報処理の仕方に違いがあり、物事の感じ方や理解の仕方が違う
・行動の特徴によって診断する
 
自閉症の原因について
・双生児やきょうだいの研究などから、遺伝的要因が関与すると考えられている
・遺伝様式や遺伝様式についてはわかっていない(おそらく複数の遺伝子が関与する複雑な遺伝様式であると考えられる)
・遺伝だけではなく、他の要因も存在すると思われる
 
障害が理解されないという問題
・障害がわかりにくい
・認知、行動、感覚といった外見からはわからない障害
・障害が複合的(認知、感覚、行動など)
・個人差が大きい、バラエティが大きい
・障害が一般に認知されていない、誤解されていることも少なくない
・「自閉症」という名称からくる誤解
 
頻度
・比較的典型的な自閉症の頻度は、500〜1000人に1人
・典型的ではない軽症の人まで含めると、100人に1人くらいと考えるのが妥当
・男性のほうが多い
・自閉症は増えている?
・自閉症の認知度の高まり、診断概念の拡大、診断技術の向上が、診断される自閉症の人の増加に影響していることは確実。
・実際に増えているのかどうかは、基準を統一した過去のデータが得られないためわかっていない
 
自閉症の歴史
―発達障害としての自閉症―
・レオ・カナーが11人の子どもの症例を報告し、“早期幼児自閉症”と命名(1943、1944)
・ハンス・アスペルガーによる症例報告(“自閉的精神病質”)(1944)・・・あまり注目されなかった
・その後20年余りは、白閉症は心因性の情緒障害や、統合失調症の早期発症型だと考えられていた。
・1960年代以後、自閉症は先天的または早期に起こった脳の障害による「発達障害」であるということが、実証的研究から明らかになっていった。
 
―自閉症概念の拡がり―
・1970年代、ローナ・ウィングらが疫学調査を行い、自閉症と同じ“三つ組”(社会性、コミュニケーション、想像力の障害)の行動特徴を持つ子どもが典型例だけではなく、連続して多くいることを見いだした。
・ウィングは、アスペルガーの症例を英語で紹介し、“アスペルガー症候群”と名づける(1981)。
・ウィングにより、“自閉症スペクトラム(連続体)”の概念が提唱される。
・国際的診断基準(ICD、DSM)でも1980〜1990年代に、自閉症を含む“広汎性発達障害”という概念が採用される。
 
診断について(1):DSMIV
・米国精神医学会の作成した診断基準
・操作的診断法を採用
・3領域の特徴と、3歳以前から発達の異常が存在することによって診断する
・対人的相互交流の質的障害
・コミュニケーションの質的異常
・幅が狭く反複的・常同的な興味・行動・活動
・上位概念として「広汎性発達障害」を採用
 
DSMIVにおける広汎性発達障害の考え方
広汎性発達障害
※広い診断概念である広汎性発達障害を下位分類に分ける考え方
 
診断(2):自閉症スペクトラム
−英国のローナ・ウィングによって提唱された概念
−連続体としてとらえる考え方
−社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害の三つ組の特徴を持つ人は、重度で典型的な人から、障害が一見わかりにくい人まで連続して存在している。
−考え方は違うが、広汎性発達障害と自閉症スペクトラムはほぼ同じ範囲のものをさしていると考えてよい
 
自閉症スペクトラム
 
自閉症スペクトラムの症状
・三つ組の症状(診断のための条件)
・対人関係・社会性の質的異常
・コミュニケーションの質的異常
・イマジネーションの質的異常
・三つ組以外の特徴
・感覚の偏り
・注意の向け方 など
 
どの特徴も幅が大きいことを知っておくことが必要
 
対人関係・社会性の質的異常
・他の人の見方や気持ちがわかりにくい
・人と興味、喜び、悲しみ、怒りなどを共有することが少ない
・人とのやりとりがむずかしい
・人に無関心、ひとりで遊ぶ、かかわりが少ない
・人からの働きかけには応じるが、自分から働きかけない
・自分から働きかけるが一方的
・視線や表情を人とのやりとりにうまく使えない
・同年代の友人関係が作りにくい
・常識や暗黙の了解がわかりにくい、雰囲気が感じ取れない
 
コミュニケーションの質的障害
・言葉や言葉以外の方法を使って、人とコミュニケーションすることが難しい。
・メッセージの発信、受信、やりとりの側面すべてに難しさがある。
・言葉の発達の遅れ、言葉をコミュニケーションにうまく使えない、独特の言葉の使い方
・言葉を理解することがむずかしい
・身ぶりや視線、体の向き、姿勢など非言語的コミュニケーションをうまく使えない
 
想像力(イマジネーション)の障害とこだわり(1)
・目の前にないこと、経験していないことを頭の中で、思い浮かべたり関係付けて想像することがむずかしい
・人の気持ち、時間の流れ、初めてのこと、予期せぬ事態、因果関係などが理解しにくい
・「臨機応変」「融通」「応用」「切り替え」が苦手
 
想像力(イマジネーション)の障害とこだわり(2)
・ふり遊び・ごっこ遊びの乏しさ
・決まった行動や儀式、一定の行動パターン、予測可能なことを好む
・興味がかたよる、1つのことに没頭する
・反復的な物の扱い、常同運動
・物や情報を収集する
 
その他の特徴
・感覚の偏り
・感覚刺激への過敏さ・鈍感さ
・特定の感覚刺激に苦痛を感じる
・注意の向け方
・シングルフォーカス(一度に2つ以上のことに注意を向けられない)
・細部に注目する、全体を見ない
・関係のないことに注意を向ける
 
自閉症スペクトラムに並存する障害
・精神遅滞(知的障害)
・IQ70(〜75)以下で、適応の問題がある
・程度による分類とおよその目安:
軽度(IQ50〜70)、中度(IQ35〜50)、
重度(IQ20〜35)、最重度(IQ20以下)
・AD/HD(注意欠陥多動性障害)
・不注意症状、多動・衝動性を特徴とする
・LD(学習障害)
・全体の知的レベルに比べて特定の学習能力に落ち込みがある
・書字障害、読字障害、計算障害、など
 
なぜ診断するのか
・行動を理解するために
・なぜそのような行動をするのか(またはせざるを得ないのか)、理解できる
・支援は行動の意味を理解することから始まる
・支援の方向性を知るために
・特性に合わせてどう支援したらいいかがわかる
・情報にアクセスするために
・書籍、インターネット、親の会などの情報を探すキーワードがわかる
 
II. 自閉症の支援
自閉症は治るのか
・基本的には一生涯続くもの
・子どもは発達し、変化していく
・生物学的な成長
・経験や教育による学習
・発達が止まったり戻ったりするものではないが、一見そのように見える時期もある(1〜2歳ころ、思春期に多い)
・もとの発達障害の上に、二次的な問題が加わってしまうこともある(周囲が障害を理解できず適切な対応がとれなかったことによることが多い)
 
自閉症は「治す」べきなのか??
・自閉症は、多数派の人と考え方や感じ方が違うかもしれないが、劣っているわけではないし、間違っているわけではない
・自閉症でOKと言え、自分の存在を肯定できる人に
・そのためには、本人が学習したりスキルを身につけることだけでなく、周りの人が自閉症スペクトラムの人を理解することがもっと大切


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