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(3)使用周波数
 AISは基本的に次の2つの周波数(公海周波数)で運用される。
・CH87B:161.975MHz
・CH88B:162.025MHz
 しかし、この周波数が既に他の業務に割り当てられていてAISに使用できない海域においては、主管庁より国際VHFの周波数帯(156.025〜162.025MHz)の中から別の周波数が「地域周波数」として割り当てられる。この場合、公海周波数使用海域と地域周波数海域間で周波数切替が必要となるが、その方法としてITU-R M.1371では次の4通りが規定されている。
・AIS基地局からのコマンドによる自動切替
・DSC基地局からのコマンドによる自動切替
・手動切替
・ECDIS等の船内装置からの切替
 周波数切替の基本的な考え方は、基地局から15分毎に放送されるチャンネルマネージメント情報(地域周波数海域の北東端と南西端座標情報及び運用周波数情報)を受信して自動的に切替え、常に最新性を維持するということである。しかし、基地局がない場合には、地域周波数海域座標情報と周波数情報を手動で入力し切替える必要があるが、IEC61993-2の規格上、入力した情報は5週間を経過した場合及び本船が地域周波数海域から500海里以上離れた場合には自動的に消去される。このため、再入力が必要となる場合があるので十分な注意が必要である。
 
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<参考>東京湾とその周辺海域における地域周波数の使用
 上述のように、日本における地域周波数は2004年3月で廃止されたが、その後2004年7月1日より、東京湾とその周辺海域において新たな地域周波数での運用が設定された。
 この地域周波数は、CH2079及びCH2085で、エリアとしては北東端座標:N35-50、E140-15、南西端座標:N35-11、E139-35の東京湾内であり、地域周波数管理の方法として陸上局からメッセージ22を使って放送されている。陸上局としては、エリア外向けとして伊豆大島と野島崎、エリア内向けとして観音崎に設置されている。従って、このエリアにおいてはチャンネルの手動切り替えは必要なく、全て自動で切り替えられる。
 
(4)機能
 AISでは、2つのチャンネルを使用してTDMA通信を行うため、受信機能として2つのTDMAチャンネルの同時受信機能が要求される。さらに、基地局からの地域周波数情報受信用に、CH70 DSC受信機能も要求されるため、合計3つの受信回路が必要である。
 また、送信部としては2つのTDMAチャンネルでの交互送信機能が要求される他、米国や英国等の一部地域で運用されているCH70でのDSC方式AIS*との運用両立性確保のために、基地局からの問合せ返信としてCH70 DSCで送信する機能が要求されるが、同時送信の必要性がないことから送信回路としては1つあれば良い。
 さらに、TDMA同期用に必要な1秒パルスをGNSS受信信号から生成する必要があり、そのためにGNSS受信機を内蔵することが要求されている。
 
<参考>DSC方式AIS
 AISは当初2つの方式が検討された。1つはGMDSSで使用されているCH70 DSCを使用した方式で、もう1つは放送方式と呼ばれ、TDMA技術を使用した方式である。DSC方式は2値FSKを使用したデータ伝送速度が1200bpsであるのに対し、放送方式はTDMAを使用しデータ伝送速度は9600bpsである。IMOで方式の一本化が行われた際、MSC74(69)ANNEX3で通報数は毎分2000以上と規定されたことから、実質的に放送方式が世界基準となった。この放送方式はユニバーサルAISと呼ばれるものであるが、現在では実質的にAISといえばこの方式を指す。
 なお、AISの性能基準はITU-R M.1371で規定されているが、その中でDSC方式AISとの通信の両立性が要求されており、陸上局からのDSCの情報受信とそれに対する返信の送信が必要となっている。
 
(5)周波数許容偏差
 TDMAチャンネルでの周波数許容偏差は次のとおりである。
・チャンネル間隔が12.5kHzの場合:±3×10-6
・チャンネル間隔が25kHzの場合:±5×10-6
 また、CH70 DSCチャンネルでの周波数許容偏差は、±lO×10-6である。
 
(6)変調方式及び伝送速度
 TDMAチャンネルでの変調方式と伝送速度は、GMSK*9600bps、DSCチャンネルでは、2値FSK 1200bpsである。
 
<参考>GMSK(Gausian filtered Minimum Shift Keying)
 MSK(Minimum Shift Keying)変調の一種で、占有帯域を最小限に抑えた変調方式である。
 MSK変調のスペクトルは高いレベルのサイドローブ成分を持ち、隣接チャンネルヘの干渉の原因となる。この干渉妨害を防ぐためには帯域制限が必要である。GMSKでは、伝送すべき”0”と”1”のベースバンド信号をガウス・フィルタによって帯域制限してからMSK変調することで、GMSK変調波を得ている。
 
(7)送信出力
 TDMAチャンネルでの送信出力は、通常12.5W±20%で運用されるが、基地局からの制御信号により2W±20%に低下して運用する場合がある。
 CH70 DSCチャンネルでは、12.5W±20%のみである。


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