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 これより少し前のカーター大統領の当時、世界各地でタンカーの事故が続発し、これによる環境汚染を防ぐため、米国では幾多の対策が考えられたが、その中の一つにCollision Avoidance System(MARADの用語)があり、1977年(昭和52年)10月17日に法律95-474“Port & Tanker Safety Act”を定めて、米国の水域に入る10,000GT以上のタンカー及び危険物運搬船に対し、1982年(昭和57年)7月1日までにElectronic Relative Motion Analyzer(ERMA・USCGの用語でIMOのARPA相当)を設置することを義務づけた。米国はこの種の装置の設置を各国に呼びかけたが、時期尚早の声の中にIMOで取り上げられ、1979年(昭和54年)7月1日までに性能基準をまとめることになった。その後、米国はこの問題がIMOで取り上げられたのでこれを激励し、かつ、協力するために従来の提案を取り消してIMOに同調すると公表した。(1978年(昭和53年)7月24日、FR Vol.43 No.142)すなわち、この時点でUSCG固有の性能基準要求は取り消しになったので、以後はIMOの性能基準にのみ注目すればよいことになったわけである。
 IMOでは第9回の総会(1979年(昭和54年)11月)で、自動レーダープロッティング援助装置(ARPA)の性能基準に関する勧告が決議として採択され、それ以後、10,000GT以上の船舶への搭載を義務づけることを目的として熱心な討議が行われ、その性能基準が定められた。
 わが国では、この決議を受けて、運輸省は昭和58年3月8日に船舶設備規程に装置の名称を「自動衝突予防援助装置」としてその性能要件を規定するとともに、船舶等型式承認規則も改正して型式承認の対象とすることになった。一方、郵政省では、この装置はレーダーの付加機能として扱い、昭和58年1月31日に無線設備規則を改正(第48条第1項第7号ハの追加)してその技術的条件の一部のみを規定し、残りの規定は郵政大臣の告示によることにした。
 
 その後IMOは、さきの総会で決議したA.278(VII)の航海用レーダーの性能基準を、2台のレーダーを装備する場合及びレーダービーコンとの関連などを含めて全面的に見直し、新たに1981年(昭和56年)11月の第12回総会で決議して、A.477(XII)航海用レーダーの性能基準の勧告(Recommendation on Performance Standards for Radar Equipment)となった。
 前の決議からの実質的な改正点は次のとおりである。
(1)新勧告は1984年(昭和59年)1月1日以降に装備をするすべての航海用レーダーに適用される。
(2)表示器の大きさ(有効直径)が、船の大きさによって拡大装置なしで次のようになった。
500GT以上1,600GT未満・・・180mm(9インチ)
1,600GT以上10,000GT未満・・・250mm(12インチ)
10,000GT以上 1台は・・・340mm(16インチ)で
もう1台は・・・250mm(12インチ)
(3)距離範囲を、3海里シリーズ(0.5〜0.8、1.5、3、6、12、24海里)と、2海里シリーズ(1、2、4、8、16、24海里)の二者から選ぶことになった。
(4)固定距離環が、3海里シリーズは“6本”に、2海里シリーズは“4本”になった。
(5)可変距離環を装備しなければならなくなった。そして、可変距離環の許容誤差を固定距離環と同じにした。
(6)分解能の規定が詳しくなり、2海里以下のレンジで、その50〜100パーセントの距離で、同じような二つの小*物標で、というようになった。
物標:レーダーなどで探知される目標物のこと。
(7)10度の横揺れ又は縦揺れでも性能を満たすことになった。
(8)走査の方向を時計回りとした。
(9)クラッター除去装置の規定が詳しくなった。
(10)スタンバイから動作までの時間が15秒以内になった。
(11)真運動表示での自船のオフセンターは、表示器の半径の75パーセントまでで中断することと規定された。
(12)レーダービーコンとの動作ができるように水平偏波モードで動作でき、レーダービーコンの表示を妨げる信号処理装置のスイッチが切れること、と規定された。
(13)2台のレーダーの装備が要求されるときには、それらが単独に、かつ、相互に無関係で、しかも2台が同時に動作できるよう装備され、非常電源が備えられているときには、それで両方のレーダーが動作できるようにすること。また、相互の切り換え装置を設けてもよいが、一方のレーダーが故障したときに、もう一方のレーダーに電源断などの不当な影響を与えないような装備とすることが規定された。
 
 この決議の国内法規化は、電波法において昭和59年1月30日付けで無線設備規則の改正が(ただし、この条項の施行は同年3月1日)、また、無線機器型式検定規則の改正が昭和59年2月20日付けで行われ、同じく3月1日に施行されている。また、船舶安全法も昭和59年8月末に改正された。
 1974年のSOLA条約はその改正手続の一つとして、IMOの拡大海上安全委員会の決定によって改正ができることになっているが、1981年の秋に開催された拡大海上安全委員会では、第5章12規則の航海用レーダー関係の改正とARPAの導入について次のような改正を決定し、所要の手続き後、1984年の秋に発動することになった。
(1)レーダーを装備する船舶を1,600GTから500GTに拡大した。
(2)10,000GT以上の船舶にARPAを装備することが、在来船への一定の経過措置と例外規定を含めて新しく規定された。
 IMOでは、1979年以降海上遭難安全通信手段を改善するため、最新の技術を導入した全世界的な海上遭難安全システム(GMDSS: Global Maritime Distress and Safety System)の検討が行われていたが、1988年11月GMDSSの導入に関し、SOLAS条約第III章(救命設備)、第IV章(無線通信)、第V章(航行の安全)を中心に大幅な改正が行われ、1992年2月1日以降順次施行されている。
 この改正の中で、遭難船や生存艇(救命艇と救命いかだ)にはレーダー・トランスポンダーを搭載して、それらへのホーミングには、従来の方向探知器や中波のホーミング装置(実質的には、この両者を合わせた方向探知器を使用する。)に代わってレーダーが使用されることになった。
 このレーダー・トランスポンダーは、9GHz(波長3cm)帯のレーダー信号に応答するようになっているので、これに対応してSOLAS条約の第V章も改正され、船舶への搭載を義務づけられているレーダー(2台のレーダーの搭載を義務づけられているときには、そのうちの1台)は、1995年2月1日以後は、9GHz(波長3cm)帯のものでなければならないことになった。
 1974年SOLAS条約の1988年改正により、1995年(平成7年)2月1日以降は、9GHz(波長3cm)帯レーダーを装備すべき船舶が総トン数500トン以上の船舶から、国際航海に従事する旅客船及び総トン数300トン以上の船舶に拡大された。これら周波数帯と装備義務船舶の規定の国内法規化は平成3年10月11日(1991年10月11日)付けの改正によって行われた。
 
 次いで、1996年12月の第67回海上安全委員会において、レーダーの性能基準を定めているIMO総会決議A.477を改正する決議MSC.64(67)が採択された。同改正は、近年の技術的進歩及びARPAの決議A.823による改正に従い、NAV41において最終化された。改正の要件は、1999年1月1日以降の船舶に搭載されるレーダーに適用されている。前決議からの改正の概要は次のとおりである。
(1)表示器の性能
・表示面直径の変更(大型化)、総トン数の区分変更。
*150GT以上〜*1,000GT未満・・・180mm 
*1,000GT以上〜10,000GT未満・・・250mm
10,000GT以上〜 ・・・340mm(2台とも)
*国際的には未決。(1999.1.現在)(国内500GT以上)
・距離表示範囲(短距離表示の追加)
0.25、0.75、1.5、3、6、12、24海里レンジを含む
・表示内容(航海又は衝突防止にかかる情報のみ表示)
・レンジスケールの起点は自船
・カラー表示の場合の要件、ほか
(2)距離測定
・電子固定距離環の増加(特に短距離)
0.25〜0.75海里レンジ・・・2〜6本、1.5〜12海里レンジ・・・6本
・電子可変距離環マーカーの距離数値表示
・距離環の誤差変化(オフ・センター状態も)、ほか
(3)船首方位指示・・・船首方位線の長さ
(4)方位測定
・表示される物標の方位を5秒以内に得るために、電子方位線に方位表示
・電子方位線太さ、明るさ(可変)、消去、回転、方位表示等機能
・表示画面の方位メモリ要件変更
・相対方位と真方位の測定機能
・平行線の表示
(5)分解能・・・距離分解能、方位分解能の強化
(6)アンテナ・スキャン・・・アンテナ回転速度の増加
*20RPM(回転/分) 
*国内法では500GT未満船は12RPM
(7)操作性能
・完全停止から4分以内での作動機能、15秒以内でのスタンバイ機能
・制御の容易性
(8)レーダー・ビーコン及びSARTに対する作動
・レーダー・ビーコン(9GHzレーダーはSART)の信号の探知、表示機能
・9GHzレーダーの水平偏波モード作動
(9)表示モード
・相対運動表示及び真運動表示
・レーダー起点のオフセット機能
・対水安定及び対地安定
・レーダーと連動する船速距離計の機能
・対地安定、速力等の入力の要件
(10)故障警告・・・検出可能であれば、故障、情報不良の警告を表示
(11)インターフェース
・ジャイロ、船速距離計、電子位置測定装置等からの情報の受信とその表示
・外部センサーからの入力状態の表示
 本決議の国内法規化は、船舶安全法において1998年12月7日及び12月9日付けで改正された。1981年(昭和56年)以降のレーダーに関する改正(船舶安全法関係)は下記のとおり。
○1984年8月30日船舶設備規程の一部を改正する省令(昭和59年運輸省令29号)
○1991年10月11日  〃  (平成3年運輸省令33号)
○1998年12月 7日  〃  (平成10年運輸省令75号)
○1998年12月 9日航海用レーダーの要件を定める告示(平成10年運輸省告示676号)
 
 ARPAに関する改正については、IMOにおいて1995年1月23日、ARPAの決議A.422(11)(1979年11月15日採択)を改正する決議A.823が採択された。この改正の要件は1997年1月1日以降の船舶に搭載されるARPAに適用されている。改正の要旨は、
(1)捕捉・・・ 捕捉条件を相対速力100ノットの場合とする。
(2)追尾・・・ 自動・手動捕捉を問わず20物標の自動追尾、ほか
(3)表示面・・・ 少なくとも3、6及び12海里レンジでのARPA機能表示
  真ベクトルモードにおける安定が対水・対地のどちらか表示、ほか
(4)データ・・・ あらゆる追尾物標の選択表示と識別表示
  ARPAデータの複数読出し表示
(5)他機との接続・・・ 外部センサーからの入力信号停止の旨表示、ほか
(6)対地・対水・・・ 対水及び対地安定が可能なこと
  入力速力表示器は対水速力を与えること
  対地安定入力として、電子位置測定装置又は追尾静止物標を利用できること
(7)シンボル表示・・・ 物標予測、警報発生物標、選択追尾物標等統一シンボルを制定等
である。
 これを受けての国内法規化は、船舶安全法において1996年11月19日付けで改正され、1997年1月1日以降から適用されている。さらに1998年12月7日付けで船舶設備規程の一部改正(1999年1月1日から施行)が行われた。
 1981年(昭和56年)以降のARPAに関する改正(船舶安全法関係)は下記のとおり。
○1983年 3月 8日船舶設備規程の一部を改正する省令(昭和58年運輸省令7号)
○1984年 8月30日  〃  (昭和59年運輸省令29号)
○1996年11月19日  〃  (平成8年運輸省令59号)
○1998年12月 7日  〃  (平成10年運輸省令75号)
 2000年12月5日に採択されたSOLAS2000改正により第V章が全面改正された。これに伴い国内法もレーダー関連も全面的に見直され、
○2002年 6月25日・・・船舶設備規程の一部を改正する省令・・・(平成14年国土交通省令75号)
○  同  ・・・航海用具の基準を定める告示・・・(平成14年国土交通省示512号)
が制定された。これにより、船舶設備規程第146条の12(航海用レーダー)(同条の13は削除)の大幅改正と告示化、第146条の14(電子プロッティング装置)の大幅改正と告示化、第146条の15(自動物標追跡装置)の新設、第146条の16(自動衝突予防援助装置)の告示化と同条の17の削除等、大きく改正され、平成14年7月1日より実施されている。







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