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6・5 システムの基本概念
 図6・9にレーダーをセンサーとして衝突を回避するプロセスを図示したが、このプロセスを実際に機能させるARPA、ATAの動作の概念を機能別に大別すると、以下の四段階に分けることができる。
 
6・5・1 第一段階:レーダー情報からの物標の検出
 これは、レーダーのプロッターに物標を人手でプロットすることに相当するものである。いま自船の周囲に船舶が一隻あったとすると、これはレーダーで検知することができる。すると、この物標の信号はデータ処理器で処理をされて、自船に対する方位と距離の信号としてCPUに転送される。すなわち、この第一段階は必要とする他船の位置のデータをCPUへ転送する機能であって、レーダーの情報を量子化する機能のほかに、雑音や船以外の情報を除去する機能等が含まれている。
 
6・5・2 第二段階:物標の追尾
 レーダーのプロッターに人手によってプロットする場合には3分から6分の間隔で行うのが普通であるが、ARPA、ATAでいう追尾とは、自動的に一定の時間間隔でプロットしていくことである。これは、言い換えれば時々刻々変化する物標の位置のデータを、先に検出した物標位置のデータと比較しながら、これが同一の物標であることを判定し、同時に、同一物標の位置データの変化を計算するために、同一の物標ごとにデータをファイルすることである。
 
6・5・3 第三段階:衝突の危険性についての判定
 これは、前段階の時々刻々変化する同一物標の位置データから、物標の速力と針路を算出して衝突する危険性の有無を判定するものである。
 いま、物標の速力と針路が判明すれば、これによって自船に最も近づく点CPAと、そこに到達するまでの時間TCPAを計算することは容易である。
 このCPAとTCPAを、あらかじめ自船の状況に応じて設定してある物標の最小最接近点距離(Min. CPA)及びそこに到達するまでの最小最接近点時間(Min. TCPA)と比較して、衝突する危険があるかどうかを判定するわけである。
 
6・5・4 第四段階:表示
 以上の事柄は、すべて最終的には表示をして操船者に知らせなければならない。この表示には、CRTやLCDを用いる方法や数字表示器による方法等多種多様な方法があり、また、その表示の内容にもいろいろなものがある。主表示であるレーダー画面での表示では、物標の速度をベクトルで表し、また、ガードゾーン(自船に対する物標の接近を警戒するためにあらかじめ設定した範囲)進入、危険性などを図形によって他船の動向を表示するシステムもある。そのほかには、サブCRTやLEDを用いて数値のデータで表示するものがあり、いずれにも各種の警報機能が付属している。
 
6・6 システム構成
 システム構成の面からみると、レーダー表示器と数値データの表示器とを兼用した一体形(Integrated type)と、レーダーシステムとは独立した別体形(Separated Type)とした二つのシステムに分類できる。
 
6・6・1 一体形(Integrated Type)
 前述のように、一体形とは、図6・10のようにレーダー表示器と数値データ表示器とを兼用したものである。つまり、完全な航海用レーダーとしての機能の上にプロッティングの機能が付加されたもので、一つのシステムで両方の機能を持つものである。ARPAが出初めた初期のころは、一体形は一部のメーカーしか生産していなかったが、最近では国の内外を問わずプロッティング表示一体形の機種が主流である。
 この一体形の特長は、第一に設備コストが安く、またスペースも小さくて済むということである。また、取扱いも別体形に比べると、レーダーの操作がそのままプロッティングの操作につながって、操作法でも優れているといえる。
 
図6・10 一体形の基本構成
 
6・6・2 別体系(Separated Type)
 別体形とは、図6・11のようにレーダーから信号をもらい、専用の表示器にプロッティング情報を表示するものである。
 別体形の特長は、在来船ですでにレーダーが装備されている場合でも、スペースさえあれば比較的容易に取付けが可能なことである。
 別体形では、通常二台のレーダーからの信号を切り替えて入力する方式を採っている。
 また、別体形の場合は、接続するレーダーの機種によっては簡単にインターフェイスできないものもある。
 
図6・11 別体形の基本構成
 
6・7 性能の現状
 現在市販されているプロッティング機能付きレーダーは、いずれもIMOの性能基準を満足したもので、どれをとってもほぼ同等のものといえるが、各社では少しずつ異なったところがある。このARPA、ATA及びEPAの主要機能の現状を以下に述べる。
 
6・7・1 物標の捕捉と追尾
(1)現在市販されているすべてのプロッティング機能付きレーダーは手動捕捉機能を持っており、その方法はジョイスティックやトラックボール等を使用するものが大半を占めている。
 手動による捕捉数は、ARPAが20物標以上、ATA及びEPAは10物標以上である。
 ARPAについては、自動捕捉機能を持っている。この自動捕捉機能を細かくみると、全自動捕捉(Fully Automatic Acquisition)とガードリング等による半自動捕捉(Semi Automatic Acquisition)の二つに分けられる。
a)全自動捕捉とは、ガードリング等とは無関係に、捕捉領域内の物標に対して所定の数までの自動捕捉が可能なシステムである。
b)半自動捕捉とは、設定したガードリングをクロスする物標に対してのみ補足が実行されるシステムである。
(2)物標の追尾は、すべて自動追尾方式である。(EPAには、自動追尾機能はない。)
(3)物標の追尾は相対速度100ノットに対応する。


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