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4・3 送受切替え回路
 送信と受信を行う場合、送信用と受信用にそれぞれ専用の空中線を用いれば切替え回路の必要はないが、コスト的にもスペース的にも無駄が多いので、一つの空中線で送信と受信を行うことが工夫された。つまり、一つの空中線に送信機と受信機を接続するのであるが、そのままでは、送信時に送信出力が空中線から空中に放出される前に、直接、受信機へ飛び込んでしまうので、受信機を送信回路から切り離す必要がある。次に反射波を受信するときは、もし、受信機に送信機が接続されたままでいると、弱い入力信号が送信機と受信機に分かれてしまい、受信のための入力信号がますます小さくなる。そこで、受信時には送信機を空中線回路から切り離すことが必要である。
 
図4・12 TR管、ATR管を使用した送受切替え回路
 
 この送受の切替えは、TR及びATR管と呼ばれるガス入り放電管を使用することによって実現されており、いずれも送信時の強いマイクロ波エネルギーで放電し、受信波のような弱いエネルギーでは放電しない特性を利用している。ATR管及びTR管を使用した送受信切替え回路の例を図4・12に示す。
 マグネトロンからの強力な電力がATR管に入るとATR管は放電により短絡し、エネルギーをそのまま通す。受信機への導波管の分岐点からλ/4の奇数倍の位置にあるTR管でも放電が起こり短絡する。ここでTR管の位置での短絡は、導波管の分岐点からみたインピーダンスは∞となるので、送信電力はアンテナヘと伝えられる。また、受信部は放電による短絡で保護される。受信時には電力が弱いのでATR管もTR管も放電して短絡することはない。受信時にはATR管は導波管の分岐点からλ/2の偶数倍にあるので分岐点から見たインピーダンスは∞となり、送信部を切り離した効果となる。
 しかし、TR管はガス入放電管のため、使用しているうちに封入ガスの消耗等によってだんだん劣化してくるので、近頃はサーキュレータが使用されるようになった。
 サーキュレータは図4・13に示すように、端子、(1)→(2)、(2)→(3)、(3)→(1)方向に入る信号は反射も減衰もなく通過するが、逆の方向へ非常に大きく減衰する回路である。したがって(1)にマグネトロン(2)に空中線(3)に受信機を接続すると、マグネトロンからの送信出力は空中線から発射され、物標からの反射入力は空中線から受信機に向かうことになる。これは前述のTR管、ATR管を使用した送受切替え回路と同じ動作を行える。
 
図4・13 サーキュレーター
 
 実際にサーキュレータを用いた送受切替え回路は、図4・14に示すように、サーキュレータとダイオードリミッターや、TRリミッターとダイオードリミッターを組み合せている。これは、マグネトロンの出力が大きいときには、サーキュレータのアイソレーション(逆方向損失)では防ぎきれないで送信電力が逆方向に漏れてミキサーダイオードが焼損してしまうのを防ぐためである。
 
図4・14 サーキュレータを用いた送受切替え回路
 
図4・15 ダイオードリミッター
 
 ダイオードリミッターは図4・15に示すような構造で、導波管の1部に同軸回路を設け、リミッターダイオードを装着して短絡させる方式である。
 このリミッターダイオードにパルス電力が入るとダイオードの接合容量が変化し、導波管の主線路との結合特性が大きく変化して、入力電力を反射する特性がある。挿入損失が若干大きいという欠点はあるが、寿命は半永久的といえる。ダイオードリミッターは、現在では尖頭電力で約1kWまでしか使用できない。そのため大電力のレーダーでは、ダイオードリミッターの前段に、従来から用いられていたTR管を改良し、バイアスを掛けないでも使用できるTR管を組み合わせたものを用いる。これが*TRダイオードリミッターで、大きな特長は、バイアス(イグナイタ電極)を掛けないので長寿命であり、また、レーダーの電源が断となっている状態でも他の船舶のレーダーから強い電波が入射したときでも、受信部を完全に保護できることである。
*:図4・14中の「TRリミッター+ダイオードリミッター」のことをいう。


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