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 先程、お釈迦さんの話をしましたけれども、お釈迦さんがストレス実験をやった。ストレスをいろんなところで与えると、この神経は全然変わらない。ですから、この神経はストレスには影響が出ない。びくともしない。ところが、大きく書いてありますが、ここで何をやっているのかというと、体を動かしているのです。ただ、体を動かすだけです。動物が自分で、この場合は歩いているのですが、歩行するだけでこの神経の活動が変わってしまうのです。
 それから、歩行だけじゃなくて、咀嚼です。かむ。一生懸命かむ。かむというリズムの運動が、この神経を活性化させる。それから、呼吸のリズム。この三つ、そのほかいろんな組み合わせがありますけども、体を動かすとこの神経の活動が増える。そういうふうにできあがっている。そういう特性を持っている。これが非常に重要な特性になります。
 
 
 
 そういう意味では、セロトニン神経を鍛える方法として、リズムの運動をするといいだろうと。そうしますと、先程のお釈迦さんの話ですが、座禅の呼吸法、これも実はある様式化されたリズムの運動を活性化する。それによってセロトニン神経を活性化させることができる。今、呼吸法だけじゃなくて、この読経の研究もやってますけども、セロトニン神経が活性化されるというデータが出ています。
 それから、健康法で、今はウォーキング、ジョギングがありますけれども、それもその効能といいますか、神経に与える影響はセロトニン神経を介してるだろうというデータが出てきています。それから、チューインガムをかむ。大リーガーの選手たちがガムを噛んでますけれども、あれはわざわざメンタルトレーナーが指導しているのです。このガムをかむということも、実は咀嚼のリズム。リズム運動の中には、実は完全なリズム運動、座禅の呼吸法もリズム運動ですし、自転車こぎもリズム運動ですけども、ちょっと変わったところでは、このフラダンス、それから歌を歌うというのも実はリズムの運動になるのです。それは全部セロトニン神経を活性化するということになります。
 こちら側がセロトニン神経の活性化です。こちら側がむしろ弱った状態になります。セロトニン神経というものを考えますと、ウォーキング、ジョギング、座禅の呼吸法、チューインガムをかむ、そういうリズム運動をやるとセロトニン神経が活性化されて、覚醒のレベル、心の問題、痛みの問題、そして自制の問題、そういうものにいい影響を与える。
 ところが、それが逆に今度は弱りますと、どういうかたちで弱るのかというと、今言ったように、引きこもりで体を動かさない。ゲーム漬けの生活をするとか、体を動かさない。基本的な生活をある一定期間続ける、ただそれだけですけども、それが実はセロトニン神経がどんどん弱っていく。その結果、寝起きも悪いですし、心のバランスを取れない、姿勢も悪くなる、痛みの調節ができない。こういうキレる状態というものも出てくるであろうということが、セロトニン神経のほうから考えられます。
 これから具体的な私たちのデータをお示しします。まず最初に私たちは座禅をやらせたのです。座禅をやらせると、本当に覚醒レベルが変わるだろうという点を検討したのです。ただ、座禅の呼吸法ですが、座禅をやられた人はある程度分かると思うのですけども、上手に呼吸する。お坊さんは呼吸法を教えてくれるのですが、今までいろんな座禅の研究されているのは、比較的専門家といいますか、お坊さん、そういう方が多いのですが、私の研究は学生です。医学部の学生です。いわゆる普段からやっている人ではない。それに座禅の呼吸法を教える。何が違うのかを理解してもらわないと。
 私たち、生まれてから死ぬまで呼吸するわけですね。今、皆さんも呼吸しているわけです。寝ているときも呼吸しているのです。この呼吸はセロトニンとは全然関係ないです。セロトニン神経の活性化にならない。何が活性化させるのかというと、意識的に呼吸しないと駄目なのです。こちら側が寝ているときの安静のときの呼吸で、1分間に10回、12、3、これが普通の呼吸です。ところが、お釈迦さんが始めた呼吸法というのは、意識的に何をするかというと、吐くのです。吐き続けるのです。吐く時間をできるだけ長くやる。それをやると自然にふいごが膨らむように吸う。ですから、吐くのが中心です。
 そこをもう少しサイエンスチックに言いますと、肺が吸うわけです。吸うときに動いているかというと、横隔膜が動いている。ところが、吐く呼吸というのはこっちなのです。この状態から、ずっと吐くことから始まるのです。実は、吐くということは、寝ているときは無理なんです。自然に吐くのは行っている。自分から吐いていくということは普通できないです。ですから、吐くということは、上位脳、大脳からの指令をわざわざ出すのです。吐くぞと言って、ふーっと出す。
 私が今しゃべっているのも、実はこれは吐いているのです。ですから、しゃべるということは、そういう意味では吐くというかたちになるのですが、呼吸法の場合ですと、全然、実質的な呼吸ではないということ、大脳からの意識的な指令がなくてできない。そこが分かってもらえると。
 ですから、腹筋がちゃんと出ているということを学生に見せるのです。「ああ、自分がちゃんと吐いてるな」というのを確認させて脳波を測るのです。一番上の三つが脳波です。一番下のこれは腹筋の筋電図です。学生は、筋電図を見ていますから、自分が吐いてるなというのがちゃんと分かっている。それをただ30分やるだけです。これ、時間が2秒ですから、大体8秒から10秒ぐらい吐いているだけです。で、また吸っている。それが座禅の呼吸法です。
 そうすると、大脳の脳波がちゃんと変わるのです。赤い矢印のところからです。きれいな波が出ている。10分過ぎ、それから20分になるともっとそれがたくさん出てきます。ですから、大脳の活動が変わるというのは間違いないです。やっているのは腹筋のリズム。それは大脳の活動を変えるというエビデンスになります。
 これをもう少しコンピューターで解析しますと、1分ごとにコンピューター解析したものです。1分目、2分目、3分目と。そうすると、パターン認識してもらうと分かりますけれども、この辺に山ができています。こちら側に山がずっとつながっているのが分かります。これが10ヘルツです。10ヘルツというのはアルファ波の周波数です。大体4、5分しますと、脳波の中にアルファ波がしっかりと出るようになる。そのアルファ波が15分ぐらいまでだんだん育ってきまして、30分ぐらいずっと、アルファ波の領域でできている。ですから、大脳の活動を変えているということになります。
 ただ、問題は、アルファ波というと、ストレスを解消するのにリラクゼーションとか音楽だとかよく言われます。このとき、座禅の呼吸法をやったあとの心理テストをやります。そうしますと、ほとんどの人が「まず不安や緊張が取れる」ということと同時に、どちらかというと、元気になるのです。眠くなるのではないのです。すっきり爽快という表現の仕方をします。要するに、呼吸法をしたあと、アルファ波という脳の状態が出ているから、すっきり爽快に、非常に意欲的になるという意識の状態を書いています。ですから、意識状態からすると、ある特殊の意識の状態を作ってくれるというのが座禅の呼吸法、お釈迦さんが私たちに教えてくれてくれた呼吸法なのです。
 
 
 この点をもうちょっとちゃんと調べてみようと。眠気じゃないということを確認できるだろうかと。そうしますと、私たちは目をつぶるとすぐにアルファ波が出るのです。特に右側がアルファ波だらけです。こちらが目を開けていますと、アルファ波が出てない。目を閉じれば、実はアルファ波が出ているのです。よくテレビなんかでアルファ波が出るというのがありますけども、あのときにもし目をつぶっていたら、目をつぶればアルファ波が出てると一緒ということになります。
 
安静時脳波の基本的特徴
 
 このデータは、前のデータは、目を開けているということを被験者はちゃんと感じています。そこがポイントです。ですから、目を開けているのにその中にアルファ波がだんだん出てくるというのがポイントだったのです。そこで、目をつぶった状態で呼吸法をさせるのです。サイエンスでよくやりますが、目をつぶっていたら何が起こるか。呼吸法を10分、20分続けていると、脳波が変わってきていることが分かると思うのですが、それをコンピューター解析すると、最初からここにアルファ波があります。目を閉じていますから。
 ところが、その4分、5分目ぐらいから別のアルファ波が出てきます。アルファ波の周波数というのは8から13ヘルツですから、こういうふうに、大体4、5分したところから別のアルファ波が出てきて、目を閉じたときのアルファ波というのはもう消えてしまいます。ですから、座禅の呼吸法が引き起こすアルファ波と、その眠くなるというか、目を閉じたときのアルファ波は、脳の中のメカニズムが完全に違うということが言えます。こちら側のアルファ波は、呼吸法が終わるまでずっと続いているということになります。ですから、眠気ではなくて、緊張が取れたり、すっきり爽快という脳の中の状態を作ってくれる。そういうアルファ波は、速いアルファ波。こちら側のアルファ波という結論が出てきます。







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