日本財団 図書館


 これは、23チャンネルを使って脳の活動を調べたものです(図18)。これが安静状態。前頭部は働いていますけれども、テトリスをやると一気に低下します。アクションゲームも下がります。カーレースでも下がります。視覚領域は働きますが、前頭前野は低下します。
 
 
 これはお手玉です。3個以上じゃないと駄目ですけれども、このようによく働きます。これは、お手玉のイメージです。これは右手を曲げて、伸ばして、反対側の運動野、運動連合野が働きます。ゲームというのは前頭前野の低下を引き起こします。これはドクター・ファイマンと言う人で、アメリカ人で、ノーベル物理学賞を取っています。これは左手に、もう1個持っているんです。3個以上じゃないと駄目なんです。趣味は、お手玉と音楽なんです。ですから、前頭前野に非常にいいことを、自然にやっていたということです。
 日本にいるドクター、大道芸人で大数学者のピーター・フランクルも、お手玉が大好きという人です。そういう意味では、お手玉は非常に前頭前野を活性化させます。脳は右脳、左脳がありますけれども、右脳はアナログ脳といって、絵画とか音楽などの抽象的なものの処理を行います。別名、芸術脳という表現もしますけれども、右脳というのは非言語的概念もこの脳がやっているのです。ゲームをやると、まず右脳の前頭前野の働きが悪くなります。ですから、テレビ漬けになっている子ども、ゲーム好きの子どもというのは「三角の形を書いてください」と言っても書けないんです。これが丸になったりします。要するに、右脳の働きが、非常に悪くなるということが言われています。
 感情を読み取るのも右脳です。ですから、ゲーム漬けになってきますと右脳の働きが駄目になって、相手の表情から感情を読み取ったり、相手を思いやる気持ちが欠落していきます。そういう状態が半ゲーム脳です。そして、左脳が駄目になります。要するにデジタル脳とよばれている左脳で、論理性とか言語とか計算などを得意とする左脳が駄目になるのです。そうすると、本を読んでも理解ができない。何が書いてあるか分からない。そういうことが起こってきます。これがゲーム脳状態です。そのように、右脳、左脳がどんどん駄目になってしまう。
 これは8歳の男子の例で、毎日3、4時間ゲームをやっています(図19)。お母さんが僕の講演を聞いて、もしかしたらと思って子どもを連れてきたのです。ゲームを3、4時間させると、よくキレるということです。来たら、目はドライアイなのです。そしてせきこみ、喘息(ぜんそく)ぎみで、姿勢は非常に悪く、前かがみで、じっとしていられないのです。調べてみると左脳は半ゲーム脳、右脳はもっと低下してゲーム脳状態です。
 
 
 ゲームをさせてもほとんど変化がない状態で、ゲーム脳状態が推移しています。それで子どもさんに「僕、このままずっとゲームをやると、これからお父さん、お母さんの顔を見て『あんただれ?』ってなるよ。いいの?」と言ったら「嫌だ」と言って、それで本人に「じゃあ、15分まで」と、「毎日やるなら15分。そして、3倍、本を読むんだよ」と言ったのですが、お母さんが勘違いをして、30分やらせて1カ月後に来ました。でも、お母さんがその時に言ったのは、「キレなくなった」と。要するに、3、4時間やっていたのを30分にしただけでキレなくなったのです。そして、見たらベータ波が完全にアルファ波の上に位置していました。こっちも上がったのです。ですから、ゲームをやる時間を減らすだけで改善できるということです。
 日曜は30分と言ったのですけれども、平日、30分やらせたみたいで、それでも改善はできました。次、また1カ月ということで待っていたのですけれども、そのうち転校してしまいまして、あと、追跡できない状態になったのですが、ゲーム時間を減らすだけで変わるということがわかりました。
 これはゲーム脳の例ですが、ゲームセンターで機械を2台壊したという大学生です。この人に、6カ月間お手玉をさせた結果、完全に回復し安定しました。なぜお手玉かといいますと、僕は小さいときに、お手玉をやっていた経験があったので、前頭前野は、手順、意思決定をやりますから、3個だと落ちてくる位置がいろいろ変わります。そうすると、前頭前野が働くだろうと思いまして、銀座7丁目のおもちゃ屋に行き、お手玉を買って、「君、お手玉をこれでやりなさい」と言って正月にやらせ、2週間後に来たのです。
 そうしたらベータ波が活性化してきたのです。ベータ波の上昇がみられたのですけれども、2週間だと、ストーン、ストーンと落ちて安定しないです。しかし、6カ月目には、150−160回できるようになり、ベータ波が完全に安定しました。
 しかし、ゲームをやると前頭前野が働かなくなります。それは、ゲームに適応した神経回路が働くために一気にベータ波の活動低下が生じます。終わるとまたスッと戻ります。この時点で、彼の表情も完全に変わっていました。無表情でしゃべらなかったのですけれども、よくしゃべるようになり、かつ、笑うようになって顔の表情が非常に豊かになりました。そして、「週末はサイクリングをし、自然を求めています」と、人間が変わりました。現在、社会人として活躍をしています。そのまま、僕と出会わなかったら、多分フリーターか何かで、ゲームをずっとやっていたと思います。
 それから、ケータイメールをよくしている人たちの脳をケータイ脳と呼んでいますが、これはゲーム脳と同じように、前頭前野の働きの低下を引き起こします。メールをやると一気に、ベータ波は低下します。止めると戻ります。こちらは、安静状態で認知症と同じような状態になっていますけれども、指は機関銃のように動きます。メールをやると一気に下がって、やめると認知症レベルに戻ります。この女子大生は忘れ物が頻繁にあります。漢字は出てこない。ですから、指の動きが速い人は要注意です。大体こういう状態です。(笑い)漢字は出てこない。「あの」「その」が多いという人は、ボケが目前に来ているというふうに考えていただければいいと思います。
 この例はゲームはやっていませんが、テレビを、2時間から4時間見ている子です。これは、やはりベータ波が左右の前頭前野で低下してしまっている状態です。ケータイメールを1時間に40通。これを10時間やっています。これは17歳の女の子ですけれども、「前の日、朝食に何を食べたか覚えてる?」と言ったら「覚えていません」。「前の日の夕飯は?」「全く覚えていません」。これで高校生をやっているのかなと思うのですけれども、現実なのです。
 さらに、「学校の本は見ることがありますか?」と言ったら、「全く見ません」と、そういう女子高生でした。将来、どうなってしまうのだろうと思うのですけれども、完全にベータ波の低下がみられます。今の子はケータイがないと生きていけない依存症が多いのです。ですから脳にケータイがインプットされないと動かない。
 ある日、電車に乗ったときに、女子高生を見てショックを受けました。あまり普段電車に乗らないのですけれども、髪は金髪で顔が焼けた女の子が2人入ってきて、まずお化粧を始め、そのあとケータイと漫画の本を出して、ケータイを閉じないんです。何をしているのかなと思ったら、眠っているんです。眠りながらケータイを持っています。うちの大学院の学生に聞いたら、そのような女子を「ガングロ姉ちゃんって言うんですよ」と。それで、ショックを受けました。
 そうかと思ったら、これがまだ20、30代でも結構いるというのが分かりまして、要するに電車の中が化粧室なんです。お化粧室というのは、普通トイレのことを、「お化粧室」と言いますけれども、普通は電車の中では化粧はしないんですけれども、これもやはり前頭前野が駄目な人たちなのです。ですからこれも、やはり相当前頭前野がやられているという状態です。
 これはチャットのデータです。これも非常に大きい問題です。チャット開始とともに、左脳のベータ波がものすごく低下しています。時間と共にどんどん低下して、1時間近くやらせました。最初、チャットはいいのかなと思ったんですけれども、やはり駄目です。チャットにはまると、子どもは完全に駄目になっていくと思ったほうが間違いないです。
 僕の所にも全国から相談に来ます。今、大きい問題は離婚問題です。奥さんがチャットにはまってしまうと大変なんです。相手がプータローですから、朝の4時、5時まで奥さんがやっています。それで、それから寝ますから、旦那さんが、8時近くになって出勤するといってもご飯はない、本人は寝ている。奥さんは夕方5時ごろ起きて、またチャットを始め、旦那さんは帰ってきても夕飯はない。
 それで旦那さんとその奥さんの母親が、僕の所に相談に来まして、「どうしたらいいでしょう」と。「もう離婚しなさい」と言って、離婚といって奥さんが改心しなければ、本当に離婚したほうがいい。本人と旦那さんは30歳です。子が欲しいのですれども、ちょっと自信がない。奥さんがそういう状態ですから。このような状態の夫婦が、今増えてきているんです。ですから、子どもだけではなくて、大人までその影響を受けています。そういったことで、長い時間チャットをやると、依存症的になってしまう可能性が高くなり、なかなか元に戻るのは大変だということです。
 普通は目から入った情報というのは、視床を介して視覚野、そして頭頂連合野で空間位置関係を認知したら、その情報は前頭前野に送られます。それから、形、色の情報は側頭連合野で処理されて、前頭前野に送られます。そして、ここで物事の手順、意思決定が下されて、運動連合野、運動野、脊髄を通って手が動きます(図20)。これがノーマルな状態です。しかし、脳というのは反復すると、その刺激に対して適応する能力がありますから、新しいネットワークを形成するということが起こるんです。
 ですから、神経終末の終わりは膨らんだ構造を成して、ここから科学伝達物質が放出されて次の神経細胞の突起に情報を伝えます。そうすると、反復しますと、ここが肥大してきて1個のものが2個になります。要するに、シナプスの数が増えます。そうすると、情報が更に強化されていきます。ですから、反復するというのは学習の基本なわけです。1+1が、考えて、皆さんが2と答える人はいないわけです。ですから自動化されます。それで、1+1は2と答えが出るわけです。それは反復するおかげで、脳の中でネットワークが強化されます。
 
 
 ゲームもそうです。運動学習ですから、視覚情報によって手が素早く動きます。そうすると、そういうネットワークが形成されて、無駄なところは省略されます。そうすると、いちいち前頭前野で考える必要はありません。目から入った情報は、空間位置関係を認知したら運動野に情報を送って、手が素早く動きます。そういうネットワークが形成されます(図21)。
 
視覚と運動出現の脳内経路
 
 前頭前野は最終的にどうなるかというと、図のように発育不全になります。要するに、前頭前野は古い脳に対してブレーキを掛ける場所です。たとえば、相手を殴ろうとしたときに、母親の顔がふっと浮んで、「あっ、やめよう」と思う。それが、ブレーキなわけですけれども、これがゲームによって、ここが機能しなくなれば、古い脳に対する抑制が効きません。そうすると、視覚的なものによって素早く行動するということが起こります。
 以前起きた、長崎の小学6年生の事件にしてもそうです。仲の良い友達で、クラスメイトの子と仲が良かったんですけれども、ホームページを作ったりするなど、パソコンを長時間やっていたということです。このような状態でも前頭前野は働かなくなります。要するに理性がなくなります。善悪の判断がなくなりますから、行動を言葉にして、「殺すぞ」とか、「死ね」とか、汚い言葉が生まれてきます。そして、ホームページに嫌なことが書かれると、それは視覚から扁桃体に情報が焼き付けられるのです。そうすると、扁桃体には写真に焼き付けられるように記憶としてなかなか消えないんです。
 ですから、サルが生まれて初めてヘビを握ったときにかまれる。そうするとヘビの形を見るとサルはおびえる。近付かない。それが扁桃体に焼き付けられてしまいますから、その映像が入るとおびえるようになるのです。ですから、嫌なことも、やはりこの扁桃体に焼き付けられて、記憶として消えません。
 あと、理性はない、道徳心もない、善悪の判断もないですから、殺すという情報が視覚的に入ると、その方法を使って一気に首を切って殺すと。悪いとは思わない。今の小学生の多くは、死んでも生き返るという感覚を持っていますから、リセットすれば生き返ると、そういう感覚ですから。そういうことで、子どもたちが非常に変になってしまっているということです。それは、やはり親子のコミュニケーション、そういったものが欠落していることが、大きい要因の1つであろうと思います。ですから、やはりそういう意味では、前頭前野を正常にしておかないといけないと思います。







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