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3)Victim Supportと修復的司法
常磐大学 冨田 信穗
 
1 はじめに
 本章は、Victim Support(以下、VS)の修復的司法との関係について、VSのパンフレット等における説明文を翻訳し、紹介するものである。
 
2 ニュージーランドにおける修復的司法
 ニュージーランドは、周知の通り、修復的司法の発祥の地である。修復的司法(Restorative Justice)とは何かについて論じることは本稿の目的ではないので、ここでは触れない1
 ところで、ニュージーランドにおける、修復的司法の思想に基づくプログラムは次の2種に大別できる2
 第一は、「1989年児童、青少年およびその家族法」(Children, Young Persons and Their Families Act 1989)に基づく「家族集団会議」(Family Group Conference)である。
 第二は、「2002年被害者権利法」(Victims' Rights Act 2002)、「2002年量刑法」(Sentencing Act 2002)および「2002年パロール法」(Parole Act 2002)の施行により開始されたプログラムである。これらの法律により、修復的司法が正式に認知されて修復的司法手続きの利用が促進されることとなり、さらには修復的司法手続きが行われたときにはその結果を量刑や仮釈放(パロール)などの決定に反映させることが可能となった。
 この第二に属する具体的なプログラムとして、次の三種がある。第一は「裁判所関与修復的司法」(Court-Referred Restorative Justice)、第二は「地域運営修復的司法プログラム」(Community-Managed Restorative Justice Programmes)、第三は地域社会のさまざまなグループによって提供されるプログラムである。
 このように、ニュージーランドにおいては、多種多様な修復的司法プログラムが法律に基づいて運営されているのである。
 
3 修復的司法と被害者支援
 修復的司法と被害者支援の関係について論じられることは、今まであまり無かったように思われる。しかし、被害者等が加害者との対話を通じて真実を知り、また被害者等が加害者に対面して自分の感情等をぶつけることは、被害者等が自らが重要であると評価することもあり、被害者等の修復的司法プログラムヘの参加についての関心も高まっている。一方、被害者等が修復的司法プログラムに参加することによって、さらに傷つくことも起こり得る。そこで、修復的司法プログラムそのものを、被害者志向的に運用すると同時に、修復的司法プログラムに参加する被害者等に対する直接的支援活動を行うことの必要性が次第に認識されるようになった3
 ニュージーランドにおいても、以上と同様の認識に基づき、VSも修復的司法プログラムに参加する被害者等に対して直接的な支援活動を行っている。以下、この活動について紹介するのであるが、資料等が十分でないため、最初に述べた通り、VSのパンフレット等における説明文等を翻訳することに止まる。
 
4 VSによる修復的司法プログラムに参加する被害者等への支援活動
(1)VSのパンフレットにおける説明文
 VSの「支援活動−犯罪および心的外傷の被害者とともに活動する−」(Services-Working with victims of crime and trauma)では、「VSはあなたのために何をするか?」とのタイトルのもとに「権利擁護・代弁」(Advocacy)からABC順にVSの11の活動が説明されている。そのうち「修復的司法」(Restorative Justice)の項目では、次のように説明されている。
 「私たちは手続きについて情報を提供し、また被害者を支援するために同行します」
(2)「裁判所運営部」のパンフレットにおける説明文
 「裁判所運営部」(Department for Courts)のパンフレット『被害者のための裁判所関与修復的司法』(Court-referred Restorative Justice for Victims)においては、「裁判所関与修復的司法」に関して次のような一般的な解説がなされており、その中でVSの支援活動にも言及している。
 「修復的司法はあなた、つまり犯罪によって最も大きな影響を被った人を、司法制度の中心に置きます。このことはあなたが犯罪による影響に打ち勝つことの手助けとなります。あなたはどのような影響を受けたのかについて話すことができますし、またどうすれば被った害悪が修復されるのかについて意見を述べることができます。あなたは修復的司法会議と呼ばれるあなたと加害者の会合において以上のことを行うことができます。会議は任意によるものであり、あなた(と加害者)の同意が得られたときにのみ行われます。あなたを援助する人、例えば家族、ファナウ(whanau)(筆者注:マオリ族の社会生活上の拡大家族)、友人などに、会議や事前の打ち合わせなどに参加してもらうことをお勧めします。VSのようなグループは、あなたが修復的司法の準備をすることを手伝ったり、会議であなたを援助したりすることに精通しています(強調は筆者による)。会議は非公開であり、訓練を受けた司会によって運営されます」。
 また同じく「裁判所運営部」による冊子『修復的司法−裁判所関与修復的司法についての情報』では「援助者」(Support people)という項目において次のような説明がなされている。
 「被害者と加害者に援助する人がいることは、非常に重要です。これらの援助者には、修復的司法会議の前、会議中、会議後のいずれにおいても、家族、ファナウ、友人、地域社会の援助者などが含まれることが望まれます。援助者は、例えば、加害者が被害者に行ったことの影響について、加害者に話すことができます。加害者を援助する人は、加害者は孤立して生活してはいないことを被害者に示すことができます。被害者が重大な身体的あるいは精神的影響を被っている場合には、被害者はVSやその他の援助機関の人に付き添ってもらうことを希望することができます(強調部は筆者による)。」
 しかし、ニュージーランド訪問時に得た資料等には、VSによるこの活動についての統計資料、パンフレット、マニュアル等は無かった。今後わが国において、修復的司法プログラムに参加する被害者に対する支援活動が重要な支援活動の一つとして位置づけられることも十分予想される。従って、この種の資料が存在するかどうかを確認し、存在するのであればそれを紹介することが、重要であると思われる。
 

1 ニュージーランドの修復的司法については、藤本哲也編『諸外国の修復的司法』(日本比較法研究所研究叢書67)中央大学出版部2004年)所収の、ニュージーランド関係の論文が詳しい。
2 以下の記述は、ニュージーランド司法省(Ministry of Justice)を訪問した際に配布された次の2種の資料を参照した。
'Overall Context for Restorative Justice in New Zealand'
'Community Managed Restorative Justice Programmes'
3 この点については、冨田信穗「被害者支援と修復的司法」、細井洋子・西村春夫・樫村志郎・辰野文理編著『修復的司法の総合的研究−新たな正義の探求−』(所収)(2005年12月刊行予定)に、アメリカ合衆国における状況の紹介も含めて、詳しく論じられている。


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