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海上安全保障確保を目的とした能力構築について:
アルバニアの事例研究
Stanley B. Weeks
国際応用科学協会 上級研究員
 
要約
背景
 多くの発展途上国と同様にアルバニアが抱えている課題は、軍事防衛目的の従来の任務だけでなく、違法取引(薬物、人、物資)や捜索・救難などに対処するために必要な海軍の再編成と近代化である。アルバニアは非常に独特の歴史を歩んできたため、海軍再編成はあらゆる面で歴史的な影響を受ける。船舶の多くは、1950年代終盤に製造された旧ソビエト連邦の旧式船や1960年代終盤に製造された中国の旧式船である。欧州全土およびバルカン近隣諸国に対する数十年にわたる鎖国政策によって、アルバニアは多くの国と安全保障関係を確立する必要があった。また軍事的に見ても、同国は歴史的に孤立主義国で陸上部隊が中心的存在であり続けている(今日でさえ、陸軍予備隊だけの予算が海軍全体の予算を上回る)。アルバニアは、バルカン地方の中でも地理的に多くの問題を抱え頻繁に危険にさらされてきた国であるため、アルバニア人口の大部分はアルバニア国境外(コソボやギリシャなど)に居住している。最後に、海洋に関する法的および制度的な枠組みは、歴史的に見ても混沌としている(例:2002年沿岸警備隊法では、沿岸警備隊が海軍の一部として位置づけられている)。
 
アルバニア海軍への提言
 アルバニア海軍を完全に再編成することが急務である。何よりもまず、海軍が抱える様々な課題に対処できるようにするには、特別任務、作戦構想および大規模な任務の訓練演習を含む海洋戦略が必要である。アルバニア海軍を再編成するには多くの制約がある。政治的に見ると、アルバニアは脆弱な新興民主主義国であり、切迫した経済問題や社会問題の解決および社会秩序の維持が優先事項になっている。財政的に見ると、アルバニアの軍事予算はGDPのわずか1.4%にすぎない。言い換えるならば、全軍事予算1億700万USドル(このうち600万ドルが海軍予算)は米国防総省が2時間で使用する予算額と同一である。
 
アルバニア海軍の再編成方法の構想
 アルバニア海軍の再編成方法は、アルバニアの国防大臣および国防長官によって構想され、最近承認された。海軍再編成の方法は、次の4つの主要要素で構成される。(1)アルバニア海洋戦略(特別任務、作戦構想および大規模な任務の訓練演習を含む)、(2)軍備体制計画、(3)インフラ計画、(4)組織的な編成計画(人材、実務業務、管理、訓練)。海軍再編成の構想中に浮上した主要問題のいくつかは、アルバニアに限らず多くのアジア太平洋諸国の海軍が直面しているものである。これらの主要問題は、(1)海軍/沿岸警備隊の統合(再編成方法では「1つの海軍」という概念として表現される)(2)連動性(捜索・救難および監視を行う空軍が必要)および政府機関の間での協力体制(国境警備隊や交通省など)、(3)国際協力(二国間、多国間、地域間、NATOの平和のためのパートナーシップ)、(4)現在交通省が抱える港湾保安に関する問題、(5)過剰なインフラ、(6)危険な兵器(過剰兵器および兵器倉庫)、(7)人材(給与および生活水準の保障、脆弱で人員不足の下士官、専門職としての確立および訓練の必要性、年金制度の必要性)、(8)不確かな物流管理および予備部品の調達、(9)海上安全保障の確保に必要な法制基盤および立法機関、(10)財政支援−予算関連の問題。
 
個人的に得た教訓
 アルバニア海軍の上級顧問として、すでに今年、筆者は多くの教訓を学んだ。このうちの多くは、一部のアジア太平洋諸国の海軍に該当する可能性がある。第一に、アルバニアの歴史的背景が政策、戦略、および財政/予算に与えた影響は極めて大きいため、そのことを念頭に置くべきである。第二に、近代化を進める国家は、海上保安の分野で直面する多くの難題に圧倒される可能性がある。そのため、取り組む問題の優先順位を決めてから再編成計画を忠実に実行することが非常に重要になる。第三に、海軍が優先すべき事項は、運営可能な体制を整えることである。第四に、現実に即した軍備体制(再武装)プログラムを構築し、「寄贈された」船舶の利用の妥当性、およびその利用によって発生する目に見えない経費に注意する必要がある。第五に、過剰武器および武器倉庫がはらむ安全上の問題に取り組む必要がある。第六に、人事管理にあたっての組織文化を変革する必要があり、特に現代的なプロフェッショナル・オフィサーおよび下士官の育成に関する改革に取り組まなければならない。第七に、財政および予算が不足する場合が多く、需要に応じて予算配分されないため、政府は予算不足の部隊に任務遂行を命じていることになる。最後に、私は謙虚な態度を維持する重要性を学んだ。海軍で業務遂行する人々は、予算・設備が非常に制約されているにもかかわらず、アルバニアの海上保安維持のために日々最善を尽くしているのである。
 
海上安全保障確保を目的とした能力構築について:
アルバニアの事例研究
Stanley B. Weeks
国際応用科学協会 上級研究員
 
概要
 アルバニアにおける海上防衛・警備の再編と近代化の取り組みは、アジア太平洋地域から地理的に離れてはいるが、ケーススタディとして興味深く教訓に富んでおり、アジア太平洋の途上国にも大いに当てはまる。筆者はティラナにあるアルバニア国防省で、「防衛近代化再編チーム」の上級海軍顧問として過去半年間にわたって再編問題に携わってきた。アルバニアや多くのアジア太平洋諸国において、今日の海上安全保障問題に対処するには海上防衛・戦略の再編が不可欠である。今日の海上安全保障問題には従来の軍事的な海上防衛任務のほかに、違法取引(薬物、人、物資)、海洋環境保護、海洋沿岸の監視、漁業保護、航行の安全など、これまでにない民間海事/海事法執行の問題も含まれる。これらの問題を背景に、アルバニアでは同国海軍の一大変革が求められており、筆者が考案した「アルバニア海軍改革ロードマップ」を指針として作業を進めている。このロードマップはアルバニア海洋戦略(任務、作戦構想、優先課題を含む)、兵力組成計画、インフラ計画、そして組織・編成計画の4つを骨子とする。アルバニア海軍改革計画の中で取り組みがなされている重要問題の多くは、アジア太平洋の海上戦力にも大いに関係がある。事実、アジア太平洋地域の海上戦力のほとんどは、その地理的責任範囲がアルバニアの海岸線362キロメートルを遥かに上回っている。アルバニア海軍改革ロードマップを作成し実施する過程で得た教訓や個人的見解もまた、アジア太平洋の海洋にも役立てることができるであろう。
 
背景
 今日の海洋安全保障問題に対処するためには、多くのアジア太平洋諸国がそうであるように、アルバニアもまた海上防衛・警備力1の再編・近代化を進めなければならない。なかでも、違法取引(薬物、人、物資)や海洋環境保護、海洋と沿岸の監視、漁業保護、航行安全など民間海事/海上法執行に係る新たな脅威が拡大している。海賊行為や海上テロ行為の高まる脅威はもちろんのこと、諸々の難題や冷戦後の新しい地球的規模の安全保障情勢が、従来の軍事的海上防衛任務に加えて新たな対応を求めている。海上戦力の再編・近代化を通じて今日の課題に対処することはいかなる国にとっても容易なことでなく、限られた資源に対して切迫した需要を抱えるアルバニアをはじめとする多くの途上国にとっては至難の業である。2このような困難を経て改革を成し遂げた海上戦力は新たな使命に効果的に取り組むことができるだろうが、それには、改革の優先課題と詳細について計画を練り、実施することが前提となる。
 アルバニアにおける出発点、すなわち現在のアルバニア海上戦力は、同国独自の歴史の名残をとどめている。3アルバニア海軍改革の最終目標は、2010年までにNATOの正式加盟国となる同国の新しい役割にマッチした海上任務部隊となることであった。どの国でも、海上戦力改革の試みは国の歴史的遺物によって大きく左右されることがある。1945年から1960年代初頭にかけてソビエト連邦のワルシャワ条約機構加盟国だったアルバニアは、1970年代半ばを通じて毛沢東主義中国の唯一の欧州同盟国となり、その後中国と分かれてから1991年までは完全に孤立していた。このような独特の関係に置かれてきたアルバニアは、政治的にも経済的にも軍事的にも他の欧州諸国から孤立し、旧ユーゴスラビアやギリシア、イタリアといった近隣のアドリア海・バルカン半島諸国からすら孤立してきた。アルバニアの軍隊も、特に1970年代半ばに中国から離れてからは、孤立主義で自力に依存する形で歴史の名残をとどめていたし、その軍事費は陸上戦力に集中し、大衆動員による人民軍のトーチカは75万程度にのぼった。
 1960年式旧ソビエ製掃海艇2隻、旧ソビエト製クロンシュタット級大型警備艇1隻、旧中国製高速攻撃艇数隻(シャンハイII級小型砲艦)、旧中国湖川級水中翼魚雷艇数隻(当初提供された数十隻の残り)などは、混迷した同国の同盟関係の名残として今日なお存在する。さらに大きなアルバニア海軍軍艦6隻にも旧ソビエトや中国の船舶が含まれており、これらは2つの「戦闘群」に編成され、ドゥラスとヴロラにある同国海軍の主要母港基地のそれぞれに1群ずつ配備されている。こうした時代遅れの旧ソビエトや中国艦艇は2008年までに除籍となるし、特にアルバニア海軍にとっての短期的課題として、新式の大型海洋巡視船に移行することになっている。
 さらに最近では、1991年に始まった国の開放化・民主化を中心に歴史の名残を見ることができる。1997年には選出された政府に対する大規模な民衆暴動が起きた(アルバニア国民の大半が貯蓄のほとんどまたはすべてを失ったピラミッド型金融体制の崩壊の後に起きた暴動)。国連が指令したイタリア主導の平和維持軍によって最終的には治安は回復した。暴動の最中には軍事基地・兵器庫で略奪が行われ、海軍施設は破壊され、桟橋では数隻の船舶が沈没した。さらにアルバニアの外、バルカン地域は1991年以降、ユーゴスラビアからの独立戦争や旧ユーゴスラビアでの民族紛争など、非常に危険で不安定な状態にあった。特にアルバニアにとって最大の関心事となったのは、セルビアのコソボ州の大半を占めるアルバニア系住民に対するセルビアからの弾圧と、その結果生じたアルバニア系住民による暴動である。最終的には1999年のNATO主導による対セルビア戦争にまで発展し、以来コソボは国連の管理下に置かれている。この衝突によって、アルバニアには大規模なNATO後方地域支援本部(今日なお残る)が置かれ、さらに同国を通じてコソボに至るNATOの中継・輸送路として飛行場と道路が整備された。違法薬物・物資の密輸のほかに、1997年には不安定な国内事情から、アルバニアからアドリア海をわたる不法入国者の流れがとりわけ拡大したため、イタリアは軍事専門家とアルバニアの港へのイタリア沿岸警備隊・財務警察巡視船展開を通じてアルバニアを支援することとなった(現在に続く)。海洋方面では米国(その他NATO諸国)が1990年代初頭より基礎インフラのいくつかを再建し、1997年の暴動で破壊された船舶を交換するための訓練を提供している。1999年には米国から65フィート巡視船3隻と42フィート巡視船2隻、そして2002年からはイタリアから巡視船6隻とそれよりも小さい沿岸巡視船6隻がそれぞれアルバニアに提供されている。米国とイタリアからの新しい艦船17隻と、旧ソビエトと中国の旧式大型海軍艦艇(いずれも2008年までに除籍予定)が今日のアルバニア海上戦力を構成しているのである。
 さらに最近になって、アルバニアの海上戦力にその名残をとどめる出来事がもうひとつあった。2002年アルバニア軍事戦略法に記載された「海軍」の任務と、2002年アルバニア沿岸警備隊法に記載された「沿岸警備隊」の任務がそれである。この2002年アルバニア沿岸警備隊法では「沿岸警備隊を海軍一部とし、・・・海軍組織として指定された兵種を装備する」とされている。42種類の法律が登場した結果、法と制度の構造は混乱し、海上任務をまぎらわしく、そしてかなりの部分が重複する2つのリストができあがってしまったのである。
 
現状と歴史的背景がアルバニア海軍に投げかける意味合い
 このようにアルバニアの戦略地政学的事情や地域・国内事情の変化から、同国海軍は徹底的に改革する必要があった。それには、海軍の果たすべき任務を明らかにし、その任務を遂行する「作戦構想」を確立しながら、海軍が今日抱える難題に対処する海洋戦略に着手しなければならならなかった。すでに述べたように、その最終目標はNATOの「平和のためのパートナーシップ」(PfP)プログラム加盟国としての現在の責任を果たす事であり、2010年までにNATO正式加盟国としての義務を引き受ける準備を整えることであった。また、大型(旧ソビエトと中国式)海軍船を廃止し、米国製の中型巡視船5隻とイタリア製の小型沿岸巡視船12隻を補うため、大型沖合巡視船を追加して軍備体制を刷新しなければならなかった。さらにその戦力を支援するためのインフラ(基地と補給所)を整備し、近代化しなければならなかった。最後に、この新しい海上戦力を支える機能的エリア(人材、トレーニング、兵站、保守など)を徹底するための組織編成計画が求められた。
 アルバニア海軍改革にともなう4つの要求はどれも、厳しい政治的・財政的制約の中で実施しなければならなかった。政治的な面で見ると、アルバニアは、その軍事改革ニーズとは別に経済・社会・治安上の切迫した優先課題を抱える新しくて脆い民主国家である。財政面から見た場合、同国の現在の軍事予算はGDPの1.4%を占め、1年あたり合計1億700万米ドルにのぼる(海軍予算はその内のわずか700万米ドル)。これと比べて米国のペンタゴンではほぼ2時間毎に、アルバニアの全軍事予算に相当する額が使われているのである。
 
アルバニア海軍改革ロードマップ
 以上の所見と制約を踏まえ、さらにアルバニアの全船舶と施設を視察し、指導者と協議を重ねたうえで、筆者は2004年8月に「アルバニア海軍改革ロードマップ」という文書を作成した。同文書はアルバニアの国防長官・副長官、海軍長官、国防大臣に伝えられ、今後のアルバニア海軍整備の基本指針として全員の承認を得た。
 アルバニア海軍改革ロードマップではまず、3つのシンプルな優先課題を設定した。すなわち、行動体制を整えること(今すぐ)、再装備すること(できるだけ速やかに)、そして再編成すること(必要に応じ適宜)である。ロードマップは主に4つの要素からなる。
(1)アルバニア海洋戦略:この戦略では、資産、関心、責任に対するアルバニア国民の理解を深める必要性を明らかにしている。7つの任務を明確化し、それらの任務の遂行にあたって海軍がどう行動すべきかを示す「作戦構想」を用意することにしている。7つの任務とは、防衛準備、違法取引の阻止(漁業法執行の任務も含む)、捜索救難、海洋・沿岸監視、海洋環境保護(石油汚染対応を含む)、航行の安全、そして平時安全保障協力(共同、二国間、多国間、NATO/平和のためのパートナーシップ)である。この「作戦構想」によって、組織面と運営面から沿岸警備隊の任務をひとつの軍事力として海軍に組み入れる「1つの海軍」のコンセプトができあがった(7つの任務のうち沿岸警備隊の性質を持つ5つの任務を遂行する際の法執行機関を含む)。次に、沿岸レーダーとそのデータを表示する指揮統制通信リンクからなる近代的システムを通じて「海洋空間を把握」することを重視した。その中心にあるのは、アルバニアの2つの母港となる主作戦基地からアルバニアの海岸線にそって散在するそれよりも小さな3つの前方作戦基地への規則的かつ合理的な前方展開を通じて、海における行動の基本レベル/パターンを確立することであった。規則的・合理的前方展開のコンセプトは、アルバニアの海洋空間で駐留パトロールを規則的に行い、さらに違法取引の阻止、捜索救難、その他不測事態にあたっては要請に応じて迅速対応船を確実に用意するために考案された。「作戦構想」はまた、7大任務のそれぞれで毎年の訓練演習を計画する際の具体的な基準ともなる。つまりこの海洋戦略から、アルバニア海軍改革を構成する残り3つの要素の枠組みが提供されるのである。
(2)軍備体制計画:海洋戦略の任務を遂行するため現在、移行/中期的、および目標/長期的(2010以降)に必要とされる艦船とシステムを明らかにする初期概略計画を準備した。特に、除籍になる艦船の替わりとして、より持続性のある航行能力を確保するため、大型外洋巡視船(45〜60メートル)4隻に対する短期的ニーズを重視した。これらの艦船を(財政上の制約の観点から)中古、あるいは寄贈によって入手することにも触れた。さらに初期評価を行い、海事戦略のもと、この軍備体制で重大な対応ニーズに対処できるかどうかを検討した。
(3)インフラ計画:海洋戦略の「作戦構想」と軍備体制計画を支援するため、インフラ計画要綱を策定した。余分な土地や施設を整理するため、特に危険な余剰兵器(魚雷と機雷)をできるだけ速やかに処分するため、2つの母港主作戦基地と3つの前方作戦基地を整備、改装する必要性を重視した。
(4)組織的編成計画:この概略的計画では、新しい海洋戦略に軍備体制とインフラ計画を合致させるべき機能的エリア(人材、トレーニング、兵站、保守)に注目した。
 
主要問題
 アルバニア海軍改革ロードマップの作成と承認および実施の当初過程で、数々の重要な問題が出現した。今日的海洋の課題に対して改革を模索するアジア太平洋の海上戦力もしばしば同様の問題に直面している。ここではそれらの問題を提示し、手短に論述する。
(1)海軍/沿岸警備隊の組織構造と作戦統合:「沿岸警備」タイプの民間海事/法執行任務において海上戦力の仕事を分化・統一するのは各国の法律である。アルバニアがそうであったように、アジア太平洋諸国の中でも、まぎらわしく重複する海軍と沿岸警備隊の法的枠組みや任務を自国の戦略の中で(そして最終的には可能な限り法律の中で)明確化する必要があるかもしれない。たとえ海軍と沿岸警備隊との間で業務や任務がはっきりと区別されている場合でも、運営面で連携、協力できる部分を明らかにする必要はあるだろう。
(2)統合と省庁間協力:多くのアジア太平洋諸国と同様、捜索・救難にあたって空軍の海上偵察機・ヘリコプターに依存するアルバニア海軍では、それを海洋戦略と「作戦構想」に盛り込まなければならない。また、海軍との協力にあたっては他の政府機関・省庁が中心的役割を果たさなければならない(アルバニアでは具体的に国境警備隊の偵察・海事部門、税関の海事部門、港を担当する交通省)。
(3)国際協力:アルバニアが位置する比較的小さなアドリア海・イオニア海地域では、二国間・地域協力(モンテネグロ/セルビア、ギリシア、イタリア、クロアチア、スロベニアとの協力)や多国間協力(近隣諸国や他の地中海海洋国の中での協力)を確立し、さらにNATO同盟の下で協力を確立しなければならない。すでにアルバニアは「平和のためのパートナーシップ」のパートナー国であり、2010年までのNATO正式加盟に向けて前進している。
(4)港湾安全保障:1990年代に法律が変わって以来、港湾安全保障の責任は海軍から離れ、どちらかというと交通省の責任となっている。2004年7月1日までのISPS認証取得の遅れは、港湾安全保障の優先課題や責任を見直す必要性を示唆している。
(5)過剰インフラ:アルバニアは現在と将来の要求に不釣合いなほど過剰な海軍基地・施設を抱えているが、多くのアジア太平洋諸国にもこれと同じ問題が見られる。限られた資源を乱費しているわけだから、できるだけ速やかに整理・処分する必要がある。
(6)危険兵器:古い保管区域に置かれた余剰兵器が安全と治安(窃盗)の両面で脅威を投げかけており、直ちに整理・処分しなければならない。
(7)人材:アルバニアでは低賃金の改善、生活条件の向上、脆弱で人手不足に陥っている下士官達の改善、近代的な就業機会・トレーニングの必要性などが問題になっており、これらの問題は、多くのアジア太平洋海上戦力にも共通している。
(8)兵站/予備部品支援の不備:アルバニアではかねてより使用年数や製造国(供給国)が様々な艦船を維持しなければならないことが兵站・保守上の問題となっており、これは、それぞれ異なる歴史的経緯を持つアジア太平洋諸国にも当てはまる問題である。
(9)海上安全保障のための法律/制度的基礎:まぎらわしい海軍/沿岸警備隊の法律に見られる問題であり、地域・地球レベルのIMO海事協定の批准/実施が遅れていること、あるいは批准/実施に至らないことの原因にもなっている。これはアジア太平洋地域でも、特に同地域の途上国でも問題になっている。
(10)財政支援と予算の限界:アルバニアや一部のアジア太平洋諸国では軍隊全般に対する財政支援、とりわけ海上戦力の予算に限りがあり、率直に言って、そこから得られる資源は課せられた任務を果たすのに不十分である。
 
過去の教訓についての所見
 アルバニアの上級海軍顧問として、現在と将来の難題に対応しうる海上戦力の発展に努めてきた経験から、いくつかの個人的見解を得た。これらの教訓はアジア太平洋諸国にも大いに当てはまるだろうし、多くのアジア太平洋諸国もまた途上国であり、地理上の海上責任範囲がアルバニアのそれを上回る国も少なくないのである。
(1)歴史的経緯の影響:どの国にもその国独自の歴史的経緯があり、現在の海上戦力もその名残をとどめており、政策、財政/予算、戦略的体質にも影響を与えている。
(2)手に負えないほど多くの難題:まずは改革に向けての優先課題と計画を明らかにし、その上で、設定された優先課題を固守する必要がある。さもないと、あまりにも多くの難題によって改革を始める/続ける試みがつぶされてしまうだろう。
(3)行動体制を整えること:これは、海上戦力が真っ先に取り組むべきニーズである。海での行動・準備に貢献していない船舶、航空機、人材、支援インフラなどは、特に限りある資源の観点から、その存在理由を詳しく検討するべきである。
(4)現実的な軍備体制プログラムの必要性:海上戦力は、装備にかかる費用と人員配置・作戦にかかる費用の両面で、現実的にまかなえる構造をとらなければならない。途上国の場合は期待の水準を下げ、中古の艦船や寄贈される艦船で対応しなければならないかもしれない。ただしその計画立案者は、適切な規模と能力を備える中古/寄贈艦船を入手できるよう配慮し、さらに維持やトレーニングにかかる費用を踏まえなければならない。
(5)危険な余剰兵器・貯蔵庫の問題に取り組むこと
(6)人材に係る組織体質を変えること:近代的な海上作戦には近代的な職業軍人・下士官が不可欠である。
(7)財政/予算の限界:かつてのガレー船の時代より、海軍の指導者たちはこぞって不十分な海上戦力のための資源や予算に不満をつのらせてきた。容易に解決できない問題であり、海事のほかにも差し迫った社会的ニーズを抱え、海事に対する国民の意識が低い途上国ならなおさらである。しかし、海上戦力の再編・近代化に向けてまとまりのある計画とロードマップを用意できれば、少なくとも海上戦力に出資しない場合に被ることになるコストや失うことになる能力を政治指導者にはっきりと説明することはできるだろう。
(8)謙虚さ:途上国で海洋能力の構築に取り組んできた筆者の最後の所見として、限られた予算と設備にもかかわらず日々全力を尽くしている海事の専門家の苦労を見るにつけ、謙虚な心構えを持つことが大切だと考える。先進国にとって、海上法執行や港湾安全保障、法的枠組みをはじめとする能力の不備・欠陥を批判するのは簡単なことである。しかし、ごくわずかな資源で仕事をすることを余儀なくされたら、優先課題に対する視点は180度変化し、途上国に具体的な援助を与え、その海軍能力・機能の構築を支援することが必要であると思えるはずである。
 
 
1 ここで用いる「海上戦力」とは、伝統的な軍事的海上防衛任務を遂行する海軍のみならず、民間海事・海事法執行の任務に取り組む国家沿岸警備タイプの戦力をも包括するものである。
2 海上戦力の再編と近代化は、米国海軍にとっても大きな影響力を持つ複雑なプロセスであった。冷戦終結以来、米国海軍の戦力水準は海軍要員225,000名余り、水上戦闘艦・潜水艦121隻、航空母艦3隻、数十の海軍基地・施設の規模で縮小している。
3 歴史的概説については、米国務省、アルバニアファクトシート、2004年を参照のこと。
4 「アルバニア軍事戦略」2002年7月および「アルバニア沿岸警備法」2002年4月。


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