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平成16年仙審第35号
件名

貨物船すみふく丸養殖施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成16年10月7日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄、勝又三郎、内山欽郎)

理事官
西山烝一

受審人
A 職名:すみふく丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:すみふく丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
すみふく丸・・・損傷ない
養殖施設・・・施設損傷、ほたて貝に被害

原因
主機燃料油流量計入口のこし器の点検整備不十分、主機急停止時の際の投錨方法不適切

主文

 本件養殖施設損傷は、主機燃料油流量計入口のこし器の点検整備が不十分で、主機を停止させたばかりか、流量計のバイパス経路を生かした状態で、速やかに主機を再始動させる応急措置をとらなかったことと、疾強風が連吹する状況下、主機が急停止した際の投錨方法が不適切で、養殖施設に向けて走錨したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月8日15時20分
 岩手県大船渡港
 (北緯39度01.3分 東経141度43.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船すみふく丸
総トン数 498トン
登録長 71.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア すみふく丸は、航海用具としてレーダー2台、磁気コンパス及びジャイロコンパスを有し、主機として、C社製のLH28RG型と称する、連続最大出力735キロワット同回転数毎分355のディーゼル機関を備えていた。
 また、すみふく丸の大錨は、左右舷ともその重量が1,550キログラムあり、錨鎖は、その直径が38ミリメートルで、長さは、両舷とも225メートルで、各々の錨鎖を9節としていた。
イ 主機の燃料油は、機関室船首側の上段に設けられたA重油及びC重油の各燃料油サービスタンクから金網単式こし器(以下「流量計入口こし器」という。)、流量計、燃料油供給ポンプ入口こし器(以下「一次こし器」という。)、及び主機入口のこし器(以下「二次こし器」という。)を経て主機に供給されるようになっていた。

3 事実の経過
 すみふく丸は、航行区域を限定沿海区域とする鋼製貨物船で、A受審人及びB受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.8メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成16年1月8日09時40分岩手県宮古港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
 B受審人は、一次こし器については2箇月毎に、また、二次こし器については1箇月毎に、それぞれを開放して掃除を行っていたが、流量計入口こし器については、そのこし筒金網が他のこし器に比べて80メッシュと目が粗く、今まで目詰まりしたこともなかったので、掃除をしなくても大丈夫と思い、同こし器を開放しての掃除は長期間行っていなかった。
 14時ごろA受審人は、岩手県の綾里埼に達するころから、風が強まってきたので、大船渡港港内で荒天避泊することとして南下し、綾里埼を1.8海里離して同埼を航過したのち、同時41分半大船渡漁港細浦東第1防波堤灯台(以下「第1防波堤灯台」という。)から124度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点に達したとき、針路を大船渡港指向灯に向首する310度に定め、機関を全速力前進にかけて9.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により進行した。
 ところで、A受審人は、これまで大船渡港への入港経験が20回ばかりあり、同港内の外防波堤内側から珊琥島にかけての両岸にほたて貝やかきを養殖するための漁業区域が設定されており、それらの養殖施設が多数設置されているのを承知していた。
 14時54分少し過ぎA受審人は、投錨準備を終えたのち、第1防波堤灯台から115度1.4海里の地点に達したとき、機関を7.0ノットの半速力前進に減じたが、平素、珊琥島を替わってから一等航海士を船首配置に就かせていたものの、同島手前だったので、同人を同配置に就かせないまま、折からの北西の疾強風を受けて5.8ノットの速力となって続航した。
 また、B受審人は、一等機関士と2人で6時間交替の機関当直を行い、自らは6時から12時の機関当直に当たっていたところ、14時50分ごろ入港準備のため起き、食堂で一等機関士と雑談して船橋からの指示を待っていたところ、15時ごろ機関音が変調していたのに気付き、機関室に降りて点検し、主機計器盤の燃料圧力計がゼロを示していることが分かった。
 B受審人は、二次こし器を点検して燃料油が通油されていないことを知り、養殖施設付近を航行中であることなどの船外の状況を考慮しないまま、15時05分第1防波堤灯台から051.5度620メートルの地点で、A受審人の同意を得ないで主機を停止した。更に、一次こし器を点検して燃料油が主機に通油されていないことを確認したのち、流量計のバイパス弁を開けたところ、燃料圧力計の表示が上昇していたので、流量計入口こし器が目詰まりしているのを知った。
 B受審人は、狭い水域を航行していることは十分に予測でき、主機の停止を続けると疾強風に圧流されて乗揚などの事故に繋がるおそれがあったが、流量計入口こし器を復旧することのみに気を奪われ、流量計のバイパス経路を生かした状態とし、速やかに主機を再始動させる応急措置をとることなく、直ちに同こし器の掃除にとりかかった。
 一方、A受審人は、疾強風が連吹する状況下、両岸に沿って設置された養殖施設のため、航行水域に余裕がなく、底質が泥で水深が約30メートルのところにおいて、主機が急停止したので、錨泊して主機の再始動を待つことにし、直ちに休息中の一等航海士に投錨準備を指示した。
 15時07分少し前A受審人は、第1防波堤灯台から038度620メートルの地点に達したとき、前進行きあしが止まったので、左舷錨を投錨することにしたが、平素、錨鎖を3節まで入れて錨泊していたので、3節まで入れれば大丈夫と思い、走錨することのないよう、風速や水深を考慮して錨鎖を十分に繰り出し、必要ならば双錨泊とするなどの適切な投錨方法をとることなく、同時10分投錨して錨鎖を3節まで繰り出し、錨鎖の張り模様を見ていたところ、走錨しているのを認め、更に錨鎖を1節繰り出したが、依然として走錨は止まらなかった。
 そこで、15時18分半A受審人は、右舷錨を投下して錨鎖を3節まで繰り出したところ、漸次走錨は止まったものの、15時20分第1防波堤灯台から085度980メートルの地点において、船首が西北西に向いた状態で、船尾部が養殖施設に乗り入れた。
 当時、天候は晴で風力8の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 15時25分B受審人は、こし器の掃除を終えたので、主機を再始動させたのち、船橋のA受審人に対し、電話で主機が復旧した旨を連絡した。
 その結果、すみふく丸は、損傷はなかったが、養殖施設は、損傷してほたて貝に被害を生じさせた。

(本件発生に至る事由)
1 B受審人が、流量計入口こし器の掃除を定期的にしていなかったこと
2 B受審人が、流量計のバイパス経路を生かした状態で、速やかに主機を再始動しなかったこと
3 A受審人が、投錨する際、風速に対する配慮を欠いていたこと
4 A受審人が、投錨する際の水深に対する配慮を欠いていたこと
5 A受審人が、左舷錨を投下した時点での錨鎖の繰り出し量が十分でなかったこと
6 A受審人が、迅速に両舷錨を投下しなかったこと

(原因の考察)
 本件養殖施設損傷は、B受審人が、主機燃料油こし器を点検整備する際、流量計入口こし器の点検整備を長期間行わなかったばかりか、主機計器盤の燃料圧力計がゼロを示しているのに気付き、主機燃料油こし器を順次点検して流量計入口こし器が目詰まりしているのを知った際、狭い水域を航行していることは十分に予測でき、主機の停止を続けると疾強風に圧流されて乗揚などの事故に繋がるおそれがあったから、流量計のバイパス経路を生かした状態で、速やかに主機を再始動する応急措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 一方、A受審人が、疾強風が連吹する状況下、左右両岸に養殖施設が存在する狭い水域を航行中、突然、主機が急停止したため、投錨して主機が復旧するのを待つ際、水深が約30メートルある水域であったから、最初に左舷錨を入れるにあたり、同人が、荒天時の目安としていた5節まで錨を入れ、更に続けて右舷錨を入れるなどの適切な投錨方法をとっていれば、走錨は防げたものと思料される。
 したがって、A受審人が、適切な投錨方法をとっていなかったことは、本件発生の原因となる。

(主張に対する判断)
 理事官は、投錨準備が不十分であったことから投錨が遅れ、走錨した旨を主張するが、以下の点からその主張を認めることができない。
1 当廷におけるA受審人の供述からも明らかなように、入港前に錨鎖にかけた鋼索などを外して事前に入港準備を行っていたこと
2 主機停止時一等航海士が船首配置に就いていなかったことは、投錨するのに数分間の遅れを生じたかもしれないが、本件発生に至る直接的な原因とはならないこと
3 本件は、B受審人が速やかに主機を再始動しなかったことによって発生したものであること
4 本件は、A受審人の投錨方法が適切でなかったことによって発生したものであること

(海難の原因)
 本件養殖施設損傷は、岩手県大船渡港港内において、流量計入口こし器の点検整備が不十分で、主機を急停止させたばかりか、流量計のバイパス経路を生かした状態で、速やかに主機を再始動する応急措置をとらなかったことと、疾強風が連吹する状況下、荒天避泊のため同港内を予定錨地に向けて航行中、主機が急停止したため、投錨して主機の復旧を待つ際、投錨方法が不適切で、養殖施設に向けて走錨したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、岩手県大船渡港港内において、疾強風が連吹する状況下、荒天避泊のため同港内を予定錨地に向けて航行中、主機が急停止したため、投錨して主機の復旧を待つ場合、風速や水深を考慮したうえ、走錨することのないよう、錨鎖を十分に繰り出し、必要ならば双錨泊とするなどの適切な投錨方法をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から錨鎖を3節まで入れて錨泊していたので、3節まで入れれば大丈夫と思い、適切な投錨方法をとらなかった職務上の過失により、左舷錨鎖を3節まで入れ、錨鎖の張り模様を見ていたところ、走錨しているのを認め、更に右舷錨を入れて錨鎖を3節まで繰り出し、走錨は止まったものの、同時に船尾部が養殖施設に乗り入れ、同施設を損傷させ、ほたて貝に被害を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、主機燃料油のこし器の管理にあたる場合、こし器の目詰まりから主機を急停止させることのないよう、主機燃料油こし器の流量計入口こし器の点検整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、流量計入口こし器の金網の目が粗いので目詰まりすることはあるまいと思い、点検整備を十分に行っていなかった職務上の過失により、疾強風が連吹する状況下、両岸に沿って設置された養殖施設のため、航行水域に余裕がない岩手県大船渡港港内を航行中、燃料油が通油されなくなって主機が急停止し、圧流されて養殖施設への乗り入れを招き、前示損傷と被害を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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