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平成16年那審第33号
件名

モーターボート張穂号運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年12月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉?ア忠志)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:張穂号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
運航不能

原因
予備燃料油タンクの確認不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、沖縄県中城湾において、貝採取の目的で干出さんご礁帯に向けて発航する際、船外機用予備燃料油タンクの積込みの確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月4日11時45分
 沖縄県中城湾

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート張穂号
登録長 2.04メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 2.2キロワット

3 事実の経過
(1)張穂丸
 張穂丸は、航行区域を限定沿海区域とし、最大とう載人員2人のFRP製モーターボートで、船尾中央部に船外機を備えていた。
 船外機は、B社が製造した6L5型と称する、定格回転数毎分5,000の2サイクル1シリンダの電気点火機関で、トップカウルの船首側に手動始動ハンドルを、同カウルの船尾側に空気抜き弁付給油栓を設けた容量1.4リットルの船外機付燃料油タンクをそれぞれ備えていた。
 そして、船外機は、船尾に腰掛けた操縦者が、船外機付ティラハンドル先端部のスロットルコントロールグリップを操作して増減速を行うようになっており、ガソリンと潤滑油の容積比50対1の割合で混合された混合油が燃料油として使用され、全速力運転時、1時間当たりの燃料油消費量が2.0リットルであった。
(2)本件発生に至る経緯
 A受審人は、平成16年5月4日朝、屋宜海岸でのバーベキューパーティーの準備のためトラックの荷台に張穂号と船外機を積み、自宅を出発し、同海岸に行く途中で給油所に立ち寄り、船外機用予備燃料油タンク2個にガソリンを給油し、08時過ぎ同海岸に到着したのち、給油した同タンク2個に潤滑油を入れて混合油とし、同タンクの1個から船外機付燃料油タンクに給油した。
 しかし、A受審人は、まだ友人が屋宜海岸に集まっていなかったことから、1人ではトラックの荷台から張穂号を下ろすことができずに待機しているうち、09時30分ごろ友人全員が集合し終えたので、今からの予定として、友人が乗用車の屋根に載せてきた釣り船に友人2人が乗り込んで釣りを行い、一方、同受審人及び友人2人が張穂号に乗り込み、干出さんご礁帯に赴いて貝採取を行ったのち、14時ごろから同海岸沖で捕獲した魚や貝でバーベキューパーティーを開始することなどを説明した。
 ところで、貝採取を予定していた干出さんご礁帯は、屋宜海岸の南東方約600メートル沖から中城浜漁港沖にある金武中城港中城浜第2号灯標までの約2,000メートル間に、円弧状に点在する4個の大きな同礁帯で、同海岸と最初に渡る予定としていた同礁帯間、及び各礁帯間が干潮期でもかなりの水深があり、徒歩で渡れないことから張穂号を使用しなければならなかった。
 このため、A受審人は、張穂号の最大とう載人員が2人であったことから、屋宜海岸に友人1人を残し、先ず同受審人が乗り込み、友人1人を乗せて干出さんご礁帯に友人を運び上げたのち、同受審人が同海岸に引き返して残りの友人を乗せ、また、同礁帯間の移動についても同様な方法で行うこととした。
 A受審人は、張穂号をトラックの荷台から下ろして浮上させたのち、船外機を始動し、全員が救命胴衣を着用したうえで同海岸から干出さんご礁帯に向けて発航することとしたが、潮が引き始めていて、ほかのモーターボートも同礁帯に向けて航行していたことから気が焦り、船外機用予備燃料油タンクの積込みを十分に確認していなかった。
 こうして、張穂号は、A受審人が船長として乗り込み、友人1人を乗せ、船首尾ともに0.25メートルの喫水をもって、09時45分屋宜海岸の金武中城港新日石第1号灯台から真方位260度1.1海里にあたる地点を発し、船外機を全速力にかけ、同地点から南東方約600メートル沖にある干出さんご礁帯の南西端に至り、友人1人を同礁帯に運び上げたのち、再び同地点に全速力で戻り、残していた友人1人を乗せて同礁帯に着き、同受審人及び友人2人して貝採取を行いながら徒歩と張穂号とで順に各礁帯の移動を繰り返し、11時ごろ最後に渡る予定としていた金武中城港中城浜第2号灯標の北側にある同礁帯に張穂号で移動して貝採取を続けたものの、余り貝が採取できなかったことから、四級小型船舶操縦士の免許を取得していた友人が、張穂号に単独で乗り込んで船外機を始動し、徒歩では渡ることができない同灯標近くのリーフに向け、航行を開始したそのとき、船外機付燃料油タンクの燃料油が著しく不足し、11時45分金武中城港新日石第1号灯台から真方位207度1.1海里の地点において、船外機が自停して運航不能となった。
 当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は、張穂号に単独で乗り込んだ友人が手動始動ハンドルの操作を繰り返しても船外機が始動しないのを認めたものの、携帯電話を所持していなかったうえ、付近にほかのモーターボート等もいなかったことからどうすることもできずにいるうち、張穂号に乗り込んでいた友人が、北方に流されることから身の危険を感じ、所持していた同電話で警察に救助を要請した。
 張穂号は、警察からの連絡を受けて来援した海上保安庁の巡視艇によって中城浜漁港に引き付けられ、同漁港において検査した結果、船外機付燃料油タンクが空で、船外機用予備燃料油タンクが積み込まれていないことが判明し、A受審人及び友人2人は巡視艇及び貝採取をしていたほかのモーターボートによって救助された。

(原因)
 本件運航阻害は、沖縄県中城湾において、貝採取の目的で干出さんご礁帯に向けて発航する際、船外機用予備燃料油タンクの積込みの確認が不十分で、同礁帯間の移動中、船外機付燃料油タンクの燃料油が著しく不足して船外機が自停したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県中城湾において、貝採取の目的で干出さんご礁帯に向けて発航する場合、船外機付燃料油タンクの容量を理解していたのであるから、同タンクに燃料油を補給することができるよう、発航時に船外機用予備燃料油タンクの積込みを十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、潮が引き始めていて、ほかのモーターボートが同礁帯に向けて航行していたことから気が焦り、発航時に船外機用予備燃料油タンクの積込みを十分に確認しなかった職務上の過失により、同礁帯間の移動中、船外機付燃料油タンクの燃料油が著しく不足して船外機が自停する事態を招き、運航が阻害されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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