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平成16年長審第52号
件名

モーターボートさつき運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年11月25日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:さつき船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
運航不能

原因
錨索の走出防止措置不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、錨索の走出防止措置が不十分で、海中に走出したワイヤ錨索がプロペラに絡んだことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月30日23時10分
 長崎県男女群島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 モーターボートさつき
総トン数 10トン
登録長 14.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 426キロワット

3 事実の経過
 さつきは、船体ほぼ中央に操舵室を設けて舷側全周に高さ約80センチメートル(cm)のブルワークを巡らせたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人(昭和63年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、友人5人を乗せ、釣りの目的で、船首0.5メートル(m)船尾1.5メートルの喫水をもって平成15年12月30日10時30分長崎県三重式見港を発し、同県男女群島南方4海里ばかり沖合の海域に向かった。
 ところで、さつきは、 舳先(へさき)部分が槍出し状に付き出した構造で、舳先甲板両舷に揚錨用の船首ローラーが取り付けてあり、前部甲板下が船首側から物入れ及び3個のいけすに区画され、物入れ部分は甲板から約20cm高くなっていて、物入れ及び各いけすには縦横約80cm高さ10cmのさぶたが被せられ、物入れ船尾側両端にビットを、前部甲板左舷側に小型の揚錨機を備えていた。
 また、さつきは、物入れのさぶた両側にそれぞれ四爪錨を備え、左舷錨は、そのアンカーリングに長さがそれぞれ2m、50m及び200mのチェーン、ワイヤ索及び合成繊維索が順に繋がれて常用され、右舷錨を予備としていたほか、揚錨機の船首側に同寸法の予備ワイヤ索がコイルダウンしてあった。
 A受審人は、15時30分ごろ目的の海域に至り、水深約50mの地点で左舷錨を投じて錨索80mばかりを延出し、錨泊して釣りを開始したが釣果が思わしくなく、23時00分少し移動しようとして揚錨に取り掛かり、揚錨機で錨索を巻いたところ、根掛りしたものか、合成繊維索の先端部分で切断したため、次の錨地ですぐに使用できるよう右舷錨を用意しておくこととし、予備のワイヤ索の一端を左舷側の船首ローラーから舳先槍出し部の下を回して右舷錨のアンカーリングに結び、他端を巻き上げた合成繊維索に結びつけた。
 こうして、A受審人は、右舷錨の用意を済ませて発進することとしたが、少し移動するだけなので大丈夫と思い、ワイヤ錨索をビットに係止するなり、槍出し部の下を回さずに直接右舷錨のアンカーリングにとるなど、ワイヤ錨索の走出防止措置を十分にとらなかったので、同索が船首ローラーから垂れ下がり、そのまま発進すると海面下に滑り出て波の抵抗で海中に一気に走出するおそれがあることに気付かなかった。
 さつきは、23時10分少し前A受審人が操舵室において、作業灯を消して航海灯を点灯し、機関を回転数毎分500の微速力前進にかけて発進したところ、ワイヤ錨索が海中に滑り出たのち一気に走出し、これに気付いたA受審人がクラッチを中立としたが、23時10分女島灯台から真方位180度3.8海里の地点において、同錨索が約2.5ノットの前進行き足で回転するプロペラに絡みついた。
 当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、波高1.5mのうねりがあった。
 A受審人は、機関が前後進いずれにも回らないので、錨索がプロペラに絡みついたものと判断し、海上保安庁に救助を依頼した。
 さつきは、来援した海上保安庁の巡視艇によって長崎県福江港に曳航されて点検の結果、プロペラにワイヤ錨索が絡みついていることが判明したが、プロペラ及び船体に損傷はなく、ダイバーによって絡んだワイヤ錨索が除去された。

(原因)
 本件運航阻害は、夜間、長崎県男女群島の南方海域において、釣り場移動の目的で、次の錨地で使用する錨を準備して発進する際、甲板上に束ねたワイヤ錨索の海中への走出防止措置が不十分で、船首ローラーから垂れ下がった状態の同錨索が、発進に伴い、海面下に滑り出て一気に走出し、プロペラに絡みついたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県男女群島南方海域において、釣り場移動の目的で、次の錨地で使用する錨を準備して発進する場合、甲板上に束ねたワイヤ錨索が走出することのないよう、同錨索をビットに係止するなり、槍出し部の下を回さずに直接右舷錨のアンカーリングにとるなど、ワイヤ錨索の走出防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし、同人は、少し移動するだけなので大丈夫と思い、ワイヤ錨索の走出防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、船首ローラーから垂れ下がった状態の同錨索が、発進に伴って一気に海中に走出し、プロペラに絡みついて航行不能に陥る事態を招き、海上保安庁の巡視艇に曳航されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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