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平成16年横審第45号
件名

交通船第一さちかぜ乗客負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年11月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋、安藤周二、西田克史)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第一さちかぜ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
B、C、D

損害
乗客が、約2箇月間の通院加療を要する右第3,4指挫滅創を負傷

原因
気象・海象(波浪の変化)に対する判断不適切

主文

 本件乗客負傷は、波浪の変化に対する判断が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月4日17時20分
 三重県四日市港南東方沖合
 (北緯34度54.3分 東経136度42.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 交通船第一さちかぜ
総トン数 14トン
全長 14.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 809キロワット
(2)設備及び性能等
 第一さちかぜ(以下「さちかぜ」という。)は、平成3年10月に進水した、平水区域を航行区域とするFRP製旅客船で、2機2軸の推進装置を有し、船首湾曲部の舷縁に、直径約50センチメートルのタイヤフェンダーが隙間なく取り付けてあり、上甲板上の船体中央部に操舵室、上甲板下の前部に客室、中央部に機関室及び後部に操舵機室が設けられており、最大搭載人員が四日市港内の場合35人、その他の場合が14人と定められ、同港における交通船業務に従事し、乗客の移乗時には、船首上甲板で甲板員が接舷作業や乗客に対する補助作業を行っていた。
 操舵室は、右舷側に舵輪と操縦者用のいすが、左舷側に甲板員用のいすが設置され、舵輪左側にマイクと、同室屋根の右舷側に船外スピーカーとが装備されていた。

3 E号及び同船の舷梯
 E号は、全長333メートル、総トン数159,929トンの鋼製油送船で、船体中央部両舷に船尾側を降下して使用する舷梯を設備していた。
 舷梯は、長さ26.35メートル幅0.82メートルで、両側に外径89.1ミリメートル高さ1,305メートルの鋼管製ハンドレールが取り付けられ、船尾側先端に角度調整が可能な踊り場を備えていた。

4 事実の経過
 さちかぜは、A受審人ほか1人が乗り組み、交通船業務に従事する目的で、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成16年3月4日17時00分四日市港第1区を発し、四日市港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から133度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点に錨泊していたE号に向かった。
 E号は、折からの風に立って北西方に向首し、右舷側の舷梯を海面との角度が23度になるように降下して使用に供していた。
 ところで、当時の四日市港港外における気象及び海象は、北西風毎秒7メートル、波高約0.7メートルで視界は良く、F社が運航基準で発航中止と定めていた、北西風毎秒16メートル以上、波高1.0メートル以上及び視程1,000メートル以下には達していないものの、交通船にとってやや時化(しけ)模様であり、錨泊船の舷梯から乗客を移乗させるには、慎重な操船と相当の注意とが必要で、特に舷梯に接舷する際、大きな波浪が来るときに接舷してその谷部で舷梯下部に船体の一部が入り込まないように、波浪の変化を適切に判断し、小さな波浪が来るときに接舷しなければならない状況であった。
 また、G乗客は、航海計器メーカーの技術職員で、同日13時15分さちかぜでE号を訪れ、同船の航海計器の修理を行った後、手提げ鞄1個を右肩に掛けてさちかぜに乗船する準備を整え、17時過ぎE号の舷梯付近で他の12人の乗客とともに待機していた。
 発航後A受審人は、機関を全速力前進にかけ、23.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)でE号に向けて南東進し、17時13分同船の右舷船首方約300メートルに至り、防波堤灯台から132度3.3海里の地点で減速を始め、右転して波浪を船首方から受け、同船の右舷船尾方から舷梯に接近した。
 A受審人は、舷梯の約20メートル手前で一旦停止して甲板員を船首上甲板に配置し、踊り場の海面上の高さを波高の半分を目安とした約0.4メートル、波浪の谷部からは約0.8メートルに調整させ、舷梯の木製フェンダーが格納状態であったが接舷に支障ないものと判断して接舷することとし、G乗客を含む舷梯上で待機していた乗客に対し、船外スピーカーを使用するなどして、どちら側のハンドレールを握るかなどの待機時の姿勢等について具体的な注意を与えないまま、大きな波浪が通り過ぎ、これに続く比較的小さな波浪が来るころを見計らって微速で前進し、17時15分左舷船首を舷梯に接舷して乗客の移乗を開始した。
 A受審人は、長時間さちかぜの姿勢を安定した状態に保つことが困難であったので、短時間の接舷を繰り返して乗客を移乗させることとし、一旦舷梯を離れ、再度接舷して2回の接舷で乗客6人を移乗させた。
 17時20分少し前A受審人は、3回目の接舷操船を開始することとしたが、大きな波浪が通り過ぎたので比較的小さな波浪がこれに続くものと思い、引き続き波浪の変化に対する判断を適切に行わなかったので、その後予想より大きな波浪が続いて来ることに気付かないまま、舷梯に接舷したところ、左舷船首のタイヤフェンダーが舷梯下部の角部に引っ掛かった。
 A受審人は、17時20分わずか前左舷船首のタイヤフェンダーを直接見ることができなかったが、同船首部の動きでタイヤフェンダーが舷梯下部の角部に引っ掛かったことに気付き、急ぎ機関を後進に掛けたが効なく、17時20分防波堤灯台から133度3.5海里の地点において、波浪の山部で船首が持ち上がって舷梯がE号の船体側に傾き、舷梯上で待機していたG乗客が、ハンドレールに添えていた右手をE号の外板とハンドレールとに挟まれた。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、三重県北部に強風波浪注意報が発表されていた。
 A受審人は、乗客全員を移乗させて定係地に向け帰途に就き、航行中に救急車の手配を行い、着岸後直ちにG乗客を病院に搬送した。
 その結果、G乗客が、約2箇月間の通院加療を要する右第3、4指挫滅創を負った。

(本件発生に至る事由)
1 交通船にとってやや時化模様であったこと
2 A受審人が、E号の舷梯の木製フェンダーが格納状態であったが接舷に支障ないものと判断したこと
3 A受審人が、乗客に対して移乗時の姿勢等について具体的な注意を与えなかったこと
4 A受審人が、波浪の変化に対する判断を適切に行わなかったこと
5 A受審人が、予想より大きな波浪が来るまま舷梯に接舷したこと

(原因の考察)
 本件は、さちかぜの船長が、本件発生直前に、同様の海面状態で2回舷梯に接舷して安全に乗客の移乗を行っており、波浪の変化に対する判断を適切に行い、小さな波浪が来るときに舷梯に接舷すれば、本件発生は避けることができたと認められる。
 したがって、A受審人が、波浪の変化に対する判断を適切に行わなかったこと及び予想より大きな波浪が来るまま舷梯に接舷したことは、それぞれ本件発生の原因となる。
 A受審人が、E号の舷梯の木製フェンダーが格納状態であったが接舷に支障ないものと判断したこと及び乗客に対して待機時の姿勢等について具体的な注意を与えなかったことは、いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 交通船にとってやや時化模様であったことについては、本件と相当な因果関係があると認められず、原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗客負傷は、愛知県四日市港南東方沖合において、やや時化模様の状況下、乗客を移乗させるため錨泊船の舷梯に接舷する際、波浪の変化に対する判断が不適切で、予想より大きな波浪が来るまま接舷し、左舷船首のタイヤフェンダーが舷梯下部の角部に引っ掛かって舷梯を錨泊船の船体側に傾かせ、乗客が右手を舷梯ハンドレールと錨泊船の外板とに挟まれたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、愛知県四日市港南東方沖合において、やや時化模様の状況下、乗客を移乗させるため錨泊船の舷梯に接舷する場合、小さな波浪が来るときに接舷できるよう、波浪の変化に対する判断を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大きな波浪が通り過ぎたので比較的小さな波浪がこれに続くものと思い、引き続き波浪の変化に対する判断を適切に行わなかった職務上の過失により、予想より大きな波浪が続いて来ることに気付かないまま舷梯に接舷し、左舷船首のタイヤフェンダーが舷梯下部の角部に引っ掛かって波浪の山部で舷梯を錨泊船側に傾かせ、舷梯上で待機していた乗客が、右手を舷梯ハンドレールと錨泊船の外板とに挟まれて右第3,4指挫滅創を負う事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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