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平成16年門審第80号
件名

油送船藤和丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年11月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(寺戸和夫、清重隆彦、上田英夫)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:藤和丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機過給機のタービン側玉軸受破損、ブロワ翼、タービン動翼、ケーシング及びラビリンスパッキンなど損傷

原因
主機用過給機のサージングの防止措置不十分、及びロータ軸受部の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機用過給機について、サージングの防止措置及びロータ軸受部の整備が、いずれも十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月8日01時50分
 宮崎県日向灘
 (北緯32度26.5分 東経131度54.5分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 油送船藤和丸
総トン数 498トン
全長 64.41メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,103キロワット
回転数 毎分320
(2)設備及び性能等
ア 藤和丸
 藤和丸は、平成8年3月に進水した鋼製の油送船で、運航海域を瀬戸内海及び九州沿海とし、A重油を主とした舶用燃料油の輸送に従事しており、月間1ないし2度C重油を鹿児島港に出入港するカーフェリーに補油していた。
イ 主機
 主機は、B社製のA28R型と称するディーゼル機関で、発停は機関室で行い、増減速及び前後進の操縦は操舵室でそれぞれ行うようになっており、船首側に空気クラッチを介して駆動する貨物油ポンプ2台を、船尾側に湿式多板油圧式のクラッチを内蔵した逆転機を、同逆転機の上方あたりに過給機をそれぞれ備えていた。
 主機は、航行中に加えて揚荷役中も運転され、運転時間は月間500時間に達し、航行中もスケジュールに十分な余裕がなく、平素から計画回転数の毎分280ないしそれをわずかに超える範囲で運転が続けられていた。
ウ 主機用過給機
 主機用過給機(以下「過給機」という。)は、C社で製造されたVTR201-2型と称する排気ガスタービン過給機で、ロータ軸に単段の軸流タービンと単段の遠心式ブロワが結合され、タービン側には単列の、ブロワ側には複列の玉軸受がそれぞれ取り付けられていた。
 タービン側及びブロワ側の玉軸受は、両側の油溜まりに貯蔵されているタービン油を潤滑油とし、それぞれ油面ガラスを通して潤滑油の量、色及び泡立ちの状況などを観察できるようになっていたところ、1箇月毎に同油の新替えが行われ、併せて10日毎にブロワ側の薬剤洗浄が行われていた。
 ところで藤和丸の過給機は、平素から荒天時高出力で航行中、船体の動揺が激しいときなどにサージングが散発しており、整備の際に玉軸受の摩耗やロータ軸の損傷が度々認められ、それらを新替えせざるを得ないことが多かったことから、平成13年8月旧機に較べて能力の高い前示過給機に換装されていた。

3 事実の経過
 藤和丸は、平成14年11月造船所に入渠して第1種中間検査を受け、このとき過給機を陸揚げして開放し、タービン側及びブロワ側の玉軸受の新替え及びロータ軸のカラーチェックなどを行い、その後両側潤滑油の新替えやブロワ側の薬剤洗浄を定期的に実施しながら、主機及び過給機の運転を続けていた。
 主機は、平素から高負荷領域の範囲で運転されており、また燃料油について、出入港中はA重油が使用されていたものの、全速力航行中はC重油が使用されていたので、過給機のブロワの吸い込み側や送り出し側及びタービンノズルの汚損が進み、サージングが発生し易い状況であった。
 藤和丸は、平成16年3月5日早朝、大分県大分港で貨物油倉がほぼ半載となるC重油590キロリットルを積み込み、09時30分同港を発し、主機の回転数を毎分275として鹿児島港に向けて南下を続け、15時ごろ南南西の風が強まって主機の負荷が変動し始め、このため同回転数を毎分270に下げて続航していたところ、翌6日00時10分宮崎県都井岬を航過した頃、風が西に変わって更に強まるとともに、波も高くなって船体の動揺が激しくなり、プロペラが空転して急激な負荷変動を生じ、サージングが散発するようになった。
 その後も藤和丸は、針路を南西にとって進行し、03時30分ごろ風が西北西に変わって一層強まり、サージングが頻発し始めたが、このときA受審人は、主機の回転数を大幅に下げると、速力が落ちて鹿児島港での補油に大幅な遅れが生じると思い、同回転数を毎分265まで下げたものの、更に回転数を大きく下げるなどして、速やかにサージングを防止する措置をとらないまま、主機の運転を続けた。
 藤和丸は、05時15分鹿児島県佐多岬を航過して鹿児島湾に至るまでサージングが収束しなかったが、06時30分同湾口において主機の回転数を元の毎分275に戻し、08時00分燃料油をA重油に切り替え、09時20分鹿児島港に入港したのち、11時05分1隻目のカーフェリーに対する補油を開始し、12時40分同補油を終え、翌日入港予定の2隻目のカーフェリーに対する補油のため、同港で係留したのち待機することとなった。
 A受審人は、待機中過給機の潤滑油を点検し、ブロワ側には異常がなかったものの、タービン側は過去に経験したことがないほど黒く変色して汚損しているのを認め、入港前に経験したサージングの発生状況から、過給機内部の回転部分の損傷を予測できたが、潤滑油を新替えすれば大丈夫だろうと思い、業者に依頼するなどして軸受部を開放し、玉軸受を船内に保有していた予備品と交換するなど、同部の整備を行うことなく同油を新替えした。
 翌7日11時15分藤和丸は、入港した2隻目のカーフェリーに対する補油を開始し、12時35分積載していたC重油を全量揚げきって、当初計画していた補油作業を予定どおり終え、12時50分A受審人ほか5人が乗り組み、新たな舶用の燃料油を積込む目的で、船首0.7メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、空倉のまま、鹿児島港を発し、山口県徳山下松港に向けて主機の回転数を毎分280に定め、11.5ノットの速力で宮崎県の日向灘を北上中、タービン側玉軸受の摩耗が進行し、摩耗した金属粉が潤滑油に混入して、新替えしたばかりの同油が急激に汚損劣化したことから、同軸受の潤滑が著しく不良となり、翌8日01時50分細島灯台から真方位086度11.1海里の地点において、同玉軸受が損傷して過給機が異音を生じるようになった。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 その結果、藤和丸は、同日02時30分宮崎県細島港の港外に投錨し、過給機の運転を断念して主機を無過給運転するための準備を整え、07時00分同港外を発し、主機の回転数を毎分220に定め、9.0ノットの速力で航行したのち15時50分愛媛県三瓶港に自力で入港した。
 藤和丸は、三瓶港において過給機を開放し、タービン側玉軸受が著しく破損していること、ブロワ翼、タービン動翼、ケーシング及びラビリンスパッキンなどがそれぞれ接触して損傷していることが認められ、損傷部品などを新替え修理した。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、サージングが発生した際、主機の負荷を速やかに低減しなかったこと及びそのためにサージングが長時間続いたこと
2 A受審人が、停泊中に過給機軸受部の開放整備を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は、都井岬航過時から佐多岬を航過して鹿児島湾口に至るまで、サージングが5時間以上続き、入港後、過給機潤滑油の点検で同油の汚損が認められたので同油を新替えして発航後、航行中に発生したものである。
 過給機は、荒天時プロペラの空転や非常停止のときなどに起こる主機の急激な負荷変動、ブロワの吸い込み側あるいは送り出し側の汚損による抵抗の増大、タービンノズルの汚損によるガスの絞り過ぎなどが生じた場合、回転体がバランスを崩して激しい異音を発しながら振動するサージングを生じる可能性があり、このとき同振動によって玉軸受の摩耗やロータ軸の移動が引き起こされると、玉軸受やロータ軸の損傷に加え、ブロワ翼及びタービン動翼などがケーシングに接触して損傷するおそれがあった。
 そして、サージングが生じ始めた場合には、速やかに吸気系や排気系を開放して掃除する必要があり、それまで可能な限り主機の負荷を下げ、また大きな負荷変動を避けるような運転を行う必要があった。
 したがって、A受審人が、荒天に遭遇してサージングが生じ始めた際、以後のサージングを確実に防止するため、速やかに主機の負荷を大幅に低減する措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、ほぼ一昼夜にわたる鹿児島港での係留待機中、過給機の軸受部を開放し、摩耗損傷が生じ始めている玉軸受を、船内の手持ち予備品と交換するなどして十分な整備が行われておれば、出港後の玉軸受摩耗の著しい進行は防止できたと認められる。
 したがって、A受審人が、過給機の潤滑油が黒く変色して著しく汚損しているのを認めた際、業者に依頼するなどして過給機軸受部の開放整備を行わなかったことも、本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件機関損傷は、主機用過給機について、サージングの防止措置が十分でなかったことと、過給機潤滑油の変色及び汚損を認めた際、ロータ軸受部の整備が十分に行われなかったこととにより、航行中、玉軸受の摩耗が著しく進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機用過給機について、入港して停泊中、潤滑油が黒く変色して汚損しているのを認めた場合、入港直前のサージング頻発状況からケーシング内の回転部に損傷が生じていることが予測できたから、業者に依頼するなどして、速やかにロータ軸受部を開放し玉軸受を新替えするなど、同部の整備を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、出港後の積荷予定も詰まっており、潤滑油を新替えしたので運転に支障はあるまいと思い、ロータ軸受部の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、玉軸受が摩耗していることに気付かないまま主機及び過給機の運転を続け、出港半日後の航行中、過給機タービン側玉軸受の摩耗が著しく進行する事態を招き、同玉軸受が激しく破損して過給機の運転が不能となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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