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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年横審第113号(第1)
平成15年横審第114号(第2)
件名

(第1)漁船第二十三陽光丸機関損傷事件
(第2)引船東京丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年11月15日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(安藤周二、西田克史、小寺俊秋、佐藤凖一、野本敏治)

理事官
西林 眞

(第1)
 
受審人
A 職名:第二十三陽光丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B社GセンターHグループJチーム 業種名:機関製造業
(第2)
 
指定海難関係人
C 職名:D社K部課長
B社GセンターHグループJチーム 業種名:機関製造業

損害
(第1)主機5番シリンダ左舷側吸気弁が割損、破片による同シリンダ右舷側吸気弁及び過給機等の損傷
(第2)左舷機6番シリンダ左舷側吸気弁が割損、過給機等の損傷

原因
(第1)機関製造業者の設計部門の主機吸気弁の割損防止に必要な注意事 項の周知措置不適切
(第2)保船管理者の主機吸気弁割損防止対策実施不十分

主文

(第1)
 本件機関損傷は、機関製造業者の設計部門が、主機吸気弁の割損防止に必要な注意事項の周知措置が適切でなかったことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、保船管理者が、機関製造業者から周知された主機吸気弁割損防止対策の実施が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成13年8月29日04時45分
 千葉県犬吠埼北東方沖合
 (北緯39度35.0分 東経148度57.0分)
(第2)
 平成15年1月26日10時00分
 京浜港横浜区第2区
 (北緯35度27.1分 東経139度39.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
(第1)
船種船名 漁船第二十三陽光丸
総トン数 99トン
全長 45.02メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,544キロワット
回転数 毎分750
(第2)
船種船名 引船東京丸
総トン数 198トン
全長 33.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 2,647キロワット
回転数 毎分750
(2)設備及び性能等
(第1)
ア 第二十三陽光丸
 第二十三陽光丸(以下「陽光丸」という。)は、昭和63年5月に進水した、大中型まき網漁業船団の鋼製探索船で、可変ピッチプロペラを有し、船体ほぼ中央の上甲板上に操舵室、及び同甲板下に機関室が配置されており、主機が同室に据え付けられ、主機の遠隔操縦装置が操舵室に装備されていた。
イ 主機
 主機は、昭和63年5月にB社が製造した、シリンダ内径270ミリメートル(以下「ミリ」という。)の6MG27HX型と呼称するディーゼル機関で、燃料最大噴射量制限装置の付設により計画出力794キロワット同回転数毎分610(以下、回転数は毎分のものとする。)として登録されており、架構船尾側上部に過給機が装備され、各シリンダに船尾側から順番号が付されていた。
 シリンダヘッドは、船首方に排気弁及び船尾方に吸気弁がそれぞれ2個ずつ組み込まれた4弁式構造で、両弁にバルブローテータが装着されていた。
 吸気弁は、全長496ミリ弁棒基準径20ミリ弁傘外径100ミリの耐熱鋼製きのこ弁で、弁座との弁傘当たり面にステライト盛金(以下「盛金」という。)が施されていた。
 給気系統は、上下2段に仕切られた給気マニホルド、及び海水冷却式の空気冷却器が装備され、過給機のブロワで加圧された給気が給気マニホルド下段から同冷却器、給気マニホルド上段、各シリンダのシリンダヘッドの給気通路、吸気弁を順に経て燃焼室に送り込まれており、給気マニホルド上段に給気温度計が取り付けられていて、給気温度の調節のため、手動の冷却海水流量調節用三方弁が設けられていた。なお、給気中に含まれる水分の凝縮によるドレン(以下「給気ドレン」という。)は、給気マニホルド上段の船首及び船尾両側下部のドレン穴に接続されたドレン管から常時排出されるようになっていた。
 過給機は、B社が製造したNR24/R型と呼称する排気ガスタービン過給機で、タービン翼とブロワ翼とを結合したロータ軸の中央部が浮動スリーブ式軸受で支えられており、主機の排気がタービン翼の外周側のノズルリングから半径方向に流入していた。
(第2)
ア 東京丸
 東京丸は、平成6年8月に進水した、専ら京浜港における大型船の出入港援助業務に従事する鋼製引船で、2機2軸の旋回装置付きプロペラを有し、船体ほぼ中央の航海船橋甲板に操舵室、船尾寄り上甲板下に機関室及び同室上段船首側に機関監視区画が配置されており、主機が機関室の左右両舷側(以下、左舷側を「左舷機」及び右舷側を「右舷機」という。)に据え付けられ、主機の遠隔操縦装置が操舵室に、及び監視装置が機関監視区画に装備され、同装置に警報装置が組み込まれていた。
イ 主機
 主機は、平成6年7月にB社が製造した、シリンダ内径280ミリの6L28HX型と呼称するディーゼル機関で、6MG27HX型と同様にNR24/R型過給機、給気マニホルド及び空気冷却器が装備され、各シリンダに船尾側から順番号が付されていた。
 シリンダヘッドは、6MG27HX型と共通の吸気弁が装着されており、シリンダ内径だけが異なる構造のものであった。
 また、主機は、排気温度が過給機出口の上限温度摂氏470度(以下、温度は摂氏とする。)を超えると、警報装置が作動するようになっていた。

3 事実の経過
(第1)及び(第2)
 Jチームは、昭和61年にHX型と呼称するディーゼル機関の設計を開始し、燃焼最高圧力(単位キログラム毎平方センチメートル。)がそれまで130であったのを150として性能改善を図り、同63年7月に初号機製造以来、平成14年12月まで27HX型7機及び28HX型407機を含む全HX型舶用機関1,053機の製造実績があり、27HX型及び28HX型共通吸気弁の設計については、燃焼最高圧力、最大出力、正味平均有効圧、弁傘当たり面圧及び排気温度等を勘案して材料を選定し、F社に延べ7,979個を製造させていた。
 ところで、Jチームは、同6年2月以降、漁船や引船等に納入した主機の27HX型及び28HX型共通吸気弁の割損が毎年1回ないし2回発生していて、その都度、F社とともに原因を調査し、弁傘当たり面の盛金部に生じた亀裂の進展を認め、同弁特有の割損ではないものと判断していた。
(第1)
 陽光丸は、毎年4月から5月にかけて入渠し、主機の検査工事でピストン抽出のほか、シリンダヘッドを開放のうえ吸気弁のすり合わせ及び燃料噴射弁等の整備を行っており、平素、燃料最大噴射量制限装置の封印が外されたまま、全速力の回転数710プロペラ翼角21.8度とし、操業中に魚群を追尾するときには主機の高出力領域にかけて急激に負荷が変動する運転状況下、平成11年11月及び12月に吸気弁の割損がそれぞれ発生し、機関製造業者側の調査によって弁傘当たり面のカーボンかみ込み等がその要因とされた後、吸気弁全数が新替えのうえ復旧された。
 Jチームは、27HX型及び28HX型共通吸気弁が割損すると破片の侵入による過給機の損傷を引き起こすことから、同11年7月以降、同弁の割損防止対策を検討していたが、成果が得られなかったものの、陽光丸側に対し、越えて11月取扱説明書に記載されている弁傘当たり面のすり合わせに関する周知措置をとっただけで、カーボンの発生抑制及びかみ込みの回避など割損防止に必要な注意事項の周知措置を適切にとることなく、同13年4月から超耐熱合金製弁傘と盛金部のない当たり面とを一体にした新型吸気弁(以下「新型弁」という。)の実効を確かめていた。
 一方、A受審人は、同13年4月中旬合入渠において主機の吸気弁のすり合わせ、燃料噴射弁のノズルチップの新替えや噴射圧力調節等の整備を行っており、操業が再開された後、夏場の全速力前進時に給気温度及び排気温度をそれぞれ70度及び400度程度とし、給気ドレンの排出が少ないまま、月間450時間ばかりの運転を繰り返していた。
 ところが、主機は、いつしか5番シリンダの燃料噴射弁の噴射圧力が低下して左舷側吸気弁の弁傘部周りに硬質化したカーボンが付着するようになり、閉弁の都度、 剥離(はくり)した同カーボンをかみ込んだ弁傘当たり面から燃焼ガスが少しずつ漏洩(ろうえい)し、熱疲労により同弁傘当たり面の盛金部を起点として生じた亀裂が繰返し応力による材料の疲労に伴い進展していた。
 こうして、陽光丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、かつお・まぐろ漁の操業の目的で、船首2.2メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、越えて8月24日05時00分青森県八戸港を発し、三陸沖合漁場に至り、漁場を移動しながら操業を行い、主機を全速力前進にかけ、千葉県犬吠埼北東方沖合海域を魚群探索中、同月29日04時45分北緯39度35.0分東経148度57.0分の地点において、5番シリンダ左舷側吸気弁が前示亀裂箇所で割損し、破片が過給機のノズルリング及びタービン翼に激突して異音を発した。
 当時、天候は曇で風力3の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 陽光丸は、A受審人が機関室で主機の異音に気付き、5番シリンダ左舷側吸気弁の作動に異状を認め、停止措置をとった後、運転の継続を断念してその旨を船長に報告し、付近の僚船に曳航を要請して宮城県仙台塩釜港に引き付けられ、主機が精査された結果、同弁の割損のほか、破片による同シリンダ右舷側吸気弁及び過給機等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。
 本件後、Jチームは、27HX型及び28HX型共通吸気弁の割損防止に必要な注意事項を周知する改善措置を徹底することとした。
(第2)
 東京丸は、大型船を押すときなどに主機の高出力領域にかけて急激に負荷の変動する運転状況下、過給機出口の排気温度上昇警報が発生しており、検査工事で吸気弁のすり合わせ及び燃料噴射弁の取替え等の整備が行われていたところ、平成13年5月中間検査工事のとき、左舷機の吸気弁2個及び右舷機の吸気弁1個の各弁傘当たり面に亀裂が発見されたことから、同吸気弁の新替えとすり合わせが行われた。
 また、東京丸は、主機の運転が月間200時間ばかりで、冬場には給気温度が38度ないし45度になったまま、給気ドレンの排出が少なかった。
 一方、機関製造業者は、Jチームが27HX型及び28HX型共通吸気弁割損防止対策として、実効が確かめられた新型弁との交換を推奨することとし、翌14年2月上旬東京丸側にこれを周知した。
 しかし、C指定海難関係人は、主機の吸気弁割損防止対策が周知された際、中間検査工事のとき発見された前示亀裂を知っていたものの、次回の検査工事まで吸気弁の整備を予定していなかったことから、越えて4月中旬合入渠時、同対策を十分に実施しないまま、燃料噴射弁の整備を行った。
 出渠後、東京丸は、いつしか左舷機6番シリンダ左舷側吸気弁の弁傘と弁座との当たり幅が狭まり、閉弁の都度、弁傘当たり面の面圧増大及び燃焼ガスの通過等の影響を受け、熱疲労により盛金部を起点として生じた亀裂が繰返し応力による材料の疲労に伴い進展していた。
 こうして、東京丸は、5人が乗り組み、大型船出入港援助業務の目的で、同15年1月26日06時30分京浜港横浜区第1区大桟橋ふ頭の係留地を発し、同業務を行った後、京浜港横浜区第2区山下ふ頭北方海域で主機を停止回転数400として水先艇に水先人を移乗させ、回転数500に増速したところ、10時00分横浜北水堤灯台から真方位156度980メートルの地点において、左舷機6番シリンダ左舷側吸気弁が前示亀裂箇所で割損し、破片が過給機のノズルリング及びタービン翼に激突して異音を発した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は高潮時であった。
 東京丸は、主機を回転数400の前進にかけて係留地に帰着し、左舷機が精査された結果、6番シリンダ左舷側吸気弁の割損のほか、過給機等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。
 本件後、C指定海難関係人は、主機の吸気弁割損防止対策として新型弁との交換を実施した。

(本件発生に至る事由)
(第1)
1 主機の燃料最大噴射量制限装置の封印が外されたまま、高出力領域にかけて急激に負荷が変動する運転状況にあったこと
2 Jチームが、主機吸気弁の割損防止に必要な注意事項の周知措置を適切にとらなかったこと
(第2)
1 主機の高出力領域にかけて急激に負荷が変動する運転状況にあったこと
2 C指定海難関係人が、機関製造業者から周知された主機吸気弁割損防止対策を十分に実施しなかったこと

(原因の考察)
(第1)
 本件は、機関製造業者の設計部門が、主機吸気弁の割損防止対策を検討した際、陽光丸側に対し、カーボンの発生抑制やかみ込みの回避など、割損防止に必要な注意事項の周知措置を適切にとっていたなら、その効果があったと認められる。
 したがって、Jチームが、主機吸気弁の割損防止に必要な注意事項の周知措置を適切にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 主機の燃料最大噴射量制限装置の封印が外されたまま、高出力領域にかけて急激に負荷が変動する運転状況にあったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、同封印が外されたまま、高出力領域の運転を行うことは、海難防止の観点から是正されるべきである。
(第2)
 本件は、保船管理者が、機関製造業者から主機吸気弁割損防止対策が周知された際、同対策を十分に実施していたなら、実効があったと認められる。
 したがって、C指定海難関係人が、主機吸気弁割損防止対策を十分に実施しなかったことは、本件発生の原因となる。
 主機の高出力領域にかけて急激に負荷が変動する運転状況にあったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
(第1)
 本件機関損傷は、機関製造業者の設計部門が、主機吸気弁の割損防止に必要な注意事項の周知措置が不適切で、主機の高出力領域にかけて急激に負荷が変動する運転状況下、吸気弁の閉弁の都度、カーボンをかみ込んだ弁傘当たり面から燃焼ガスが漏洩し、弁傘当たり面の熱疲労により盛金部を起点として生じた亀裂が繰返し応力による材料の疲労に伴い進展したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、保船管理者が、機関製造業者から周知された主機吸気弁割損防止対策の実施が不十分で、主機の高出力領域にかけて急激に負荷が変動する運転状況下、吸気弁の弁傘と弁座との当たり幅が狭まり、閉弁の都度、弁傘当たり面の面圧増大及び燃焼ガスの通過等の影響を受け、熱疲労により盛金部を起点として生じた亀裂が繰返し応力による材料の疲労に伴い進展したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
(第1)
1 懲戒
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
2 勧告
 Jチームが、主機吸気弁の割損防止対策を検討した際、割損防止に必要な注意事項の周知措置を適切にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 Jチームに対しては、本件後、主機吸気弁の割損防止に必要な注意事項を周知する改善措置を徹底することとした点に徴し、勧告しない。
(第2)
 勧告
 C指定海難関係人が、機関製造業者から主機吸気弁割損防止対策が周知された際、同対策を十分に実施しなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、本件後、主機吸気弁割損防止対策を実施した点に徴し、勧告しない。
 Jチームの所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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