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平成16年函審第24号
件名

漁船二十八宗丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年11月17日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:二十八宗丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機のクランク軸、ピストン5個、シリンダライナ4個及び連接棒6本に焼損、5番シリンダヘッドに排気弁折損による打傷、過給機ロータ軸の曲損

原因
主機の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、ミスト量が多くなった際、主機の整備が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月9日22時00分
 北海道奥尻海峡
 (北緯42度06.8分 東経139度55.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船二十八宗丸
総トン数 19トン
全長 23.04メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 534キロワット
回転数 毎分1,940
(2)二十八宗丸
 二十八宗丸(以下「宗丸」という。)は、平成元年3月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、B社製造の6M170A-1型と称するディーゼル機関を装備し、クランク軸の動力取出軸に集魚灯用発電機を連結していた。
(3)主 機
 主機は、平成10年11月に新品の現装機関と換装されたもので、その潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプにより油量110リットルのオイルパンから吸引、加圧された潤滑油が、油冷却器及び油こし器を順に経て潤滑油主管に至り、クランク軸、カム軸、過給機及び燃料噴射ポンプなどの各軸受のほかピストン冷却ノズルとシリンダヘッドの動弁装置などに導かれる経路となっており、潤滑油圧力が2.2キログラム毎平方センチメートルに低下すると操舵室で警報を発するようになっていた。
 また、主機は、ピストンリングの摩耗が進行すると、燃焼ガスがクランク室へ吹き抜ける現象いわゆるブローバイを起こすことがあり、ブローバイに備え安全性を高める目的で、クランク室から外気に通じるミスト抜き管が設けられており、ミスト量を監視することによってブローバイを早めに察知できるようになっていた。

3 事実の経過
 主機は、購入時点の運転時間が6,000時間で、その後、年間3,000時間ばかり運転し、開放整備が一度も行われずに運転が続けられているうち、ピストンリングの摩耗が徐々に進行し始めた。
 平成15年11月初めごろ、A受審人は、ブローバイにより、操舵室後方の煙突近くに設置されている主機ミスト抜き管のミスト量が多くなったのを認めたが、休漁期まであと少しなので、それまでは大丈夫と思い、ピストンリングを新替えするなど、速やかに主機の整備を行わなかったので、更にブローバイが激しくなる状況となった。
 こうして、宗丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同15年11月9日16時00分久遠漁港を発し、17時ごろ同港南方約8海里の漁場に至り、主機を回転数毎分1,800にかけ集魚灯用発電機を駆動して操業を続けていたところ、ブローバイによりクランク室の圧力が高まり、潤滑油補給口の差込式キャップが外れ、潤滑油が同口から外部に流出し、摺動各部が潤滑阻害となり、22時00分熊石港南防波堤灯台から真方位254度2.6海里の地点において、潤滑油圧力低下警報が作動するとともに、主機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 操舵室で釣りの状況を見守っていたA受審人は、直ちに主機を止めて機関室に急行したところ、潤滑油補給口の周囲に潤滑油が飛び散り、検油棒の先端に潤滑油が付着しないのを認め、主機の運転を断念して救援を求めた。宗丸は、来援した僚船により江差港に引き付けられ、主機の開放調査が行われた結果、クランク軸、ピストン5個、シリンダライナ4個及び連接棒6本に焼損を、5番シリンダヘッドに排気弁折損による打傷を、過給機ロータ軸の破損片混入による曲損をそれぞれ生じていることが判明し、のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、ミスト量が徐々に多くなったのを認めたとき、休漁期まであと少しなので、それまでは大丈夫と思い、ピストンリングを新替えするなど、速やかに主機の整備を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は、主機ミスト抜き管からのミスト量が多くなった状態で運転を続けているうち、オイルパンの潤滑油が同油補給口から外部に流出して、各摺動部が焼損した事件である。以下原因について考察する。
 A受審人は、主機ミスト抜き管からのミスト量が徐々に多くなったのを認めており、そのまま運転を続けると更にブローバイが激しくなることが予想できたにもかかわらず、確たる根拠もないまま、休漁期まであと少しなので、それまでは大丈夫と判断して運転を続けた。
 ブローバイを防ぐ手段は、シリンダの気密性を向上させることであり、ピストンリングを新替えするなど、速やかに主機の整備を行うことによって解決できるものである。
 したがって、A受審人が、主機の整備を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件機関損傷は、主機ミスト抜き管からのミスト量が多くなった際、主機の整備が不十分で、ブローバイによりクランク室の圧力が高まり、潤滑油が同油補給口から外部に流出し、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機ミスト抜き管のミスト量が多くなったのを認めた場合、そのまま運転を続けるとブローバイが激しくなるおそれがあったから、ピストンリングを新替えするなど、速やかに主機の整備を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、休漁期まであと少しなので、それまでは大丈夫と思い、速やかに主機の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、クランク室の圧力が高まり、潤滑油が同油補給口から外部に流出して、潤滑阻害を招き、クランク軸、ピストン5個、シリンダライナ4個及び連接棒6本にいずれも焼損を、シリンダヘッドに打傷を、過給機ロータ軸に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって、主文のとおり裁決する。





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