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平成16年仙審第41号
件名

漁船第五十八幸勝丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年10月26日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第五十八幸勝丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給機の、タービン側とブロワ側の両玉軸受、ロータ軸、ノズル案内環及び扇車覆等が損傷

原因
主機排気ガスタービン過給機の油面計及び潤滑油の汚損に対する対応不適切

裁決主文

 本件機関損傷は、主機排気ガスタービン過給機の油面計及び潤滑油の汚損を認めたのちの対応が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月14日10時10分
 宮城県気仙沼港東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八幸勝丸
総トン数 65トン
全長 31.64メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 617キロワット
回転数 毎分670

3 事実の経過
 第五十八幸勝丸(以下「幸勝丸」という。)は、平成3年11月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、B社製の6DLM-24FSL型ディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側架構上にC社が製造したVTR201型と称する排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。
 過給機は、タービン車室、渦巻室及び軸流タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸等で構成され、ロータ軸がタービン側軸受室の単列玉軸受とブロワ側軸受室の複列玉軸受とによって支持されていて、同軸の両端に取り付けられたポンプ円板によって各軸受室の油溜めに溜められた潤滑油が各玉軸受に給油されるようになっており、各軸受室には、油溜めの潤滑油の油量及び色相が容易に点検できるように油面計が取り付けられていた。
 A受審人は、前任の機関長が怪我をして急に下船したため、急遽、平成15年12月上旬から臨時の機関長として乗り組んでいたもので、主機を月間500時間ほど運転するとともに、ほぼ2箇月ごとに過給機の潤滑油(以下「潤滑油」という。)を取り替えながら操業に従事していた。
 A受審人は、同16年2月上旬に潤滑油を取り替えたとき、油面計が油量は確認できるものの色相までは確認できないほど汚れていたほか、抜き出した潤滑油も汚損されて色が黒ずんでいるなど、主機の排気ガスが潤滑油に混入しているおそれがあることを認めたが、今までに乗船した船では2箇月ごとの取替えで問題がなかったから大丈夫だろうと思い、油面計を掃除して潤滑油の色が濃くなってきたら早めに取り替えるなどの適切な対応を取らなかった。
 ちなみに、過給機メーカーは、500ないし1,000時間ごとに潤滑油を取り替えるよう取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
 その後、幸勝丸は、A受審人が、出港後の機関室点検時に過給機の潤滑油量は確認していたものの油面計の掃除を行わず、タービン側の潤滑油が汚損し始めたことに気付かないまま過給機の運転を続けているうち、いつしか過給機タービン側玉軸受の潤滑が阻害されて同軸受の摩耗が著しく進行する状況になっていた。
 こうして、幸勝丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、同年4月14日02時30分宮城県女川港を発し、金華山北東方沖合の漁場に至ったのち主機を運転しながら操業を行っていたところ、前示の摩耗が更に進行してタービン動翼先端がノズル案内環に接触するなどし、10時10分綾里埼灯台から真方位154度14.0海里の地点において、煙突から出る主機の排気ガス色が黒変するとともに間もなく機関室の入口から煙が発生した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 投網作業中に異変に気付いたA受審人は、機関室に戻って過給機のガス抜き穴から多量の煙が発生しているのを認めたので、直ちに漁ろう長に連絡して投網中の網を揚げさせたのち、10時20分ごろ主機を停止して主機の運転継続が不可能であることを船長に報告した。
 幸勝丸は、付近で操業中の僚船に曳航されて女川港に引き返し、修理業者が過給機を開放して調査したところ、タービン側とブロワ側の両玉軸受、ロータ軸、ノズル案内環及び扇車覆等が損傷していることが判明したので、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、過給機潤滑油の性状管理に当たり、タービン側の油面計が色相の確認ができないほど汚れていて抜き出した潤滑油も汚損しているのを認めた際、その後の対応が不適切で、潤滑油が著しく汚損したまま過給機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、過給機潤滑油の性状管理に当たり、タービン側の油面計が色相の確認ができないほど汚れていて抜き出した潤滑油も汚損しているのを認めた場合、主機の排気ガスが潤滑油に混入しているおそれがあったから、潤滑油が汚損したまま過給機の運転を続けて玉軸受が損傷することのないよう、油面計を掃除して潤滑油の色が濃くなってきたら早めに取り替えるなどの適切な対応を取るべき注意義務があった。ところが、同人は、今までに乗船した船では2箇月ごとの取替えで問題がなかったから大丈夫だろうと思い、油面計を掃除して潤滑油の色が濃くなってきたら早めに取り替えるなどの適切な対応を取らなかった職務上の過失により、タービン側の潤滑油が著しく汚損したまま過給機の運転を続け、玉軸受が損傷してロータ軸が振れ回る事態を招き、玉軸受、ロータ軸、ノズル案内環及び扇車覆等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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