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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成16年長審第46号
件名

漁船第二十八幸福丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年12月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
平良玄栄

指定海難関係人
A 職名:第二十八幸福丸甲板員

損害
船底中央部に擦過傷、のち廃船処理

原因
有資格者を乗り組ませないで運航されたこと、水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は、有資格者の船長を乗り組ませなかったばかりか、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月24日09時40分
 長崎県寺島水道

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八幸福丸
総トン数 74.67トン
登録長 26.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット

3 事実の経過
 第二十八幸福丸(以下「幸福丸」という。)は、昭和54年に進水したFRP製漁船で、B社の社長が自ら船長兼漁労長として、同人の長男であるA指定海難関係人が甲板員としてほか6人と乗り組み、鹿児島県枕崎港を基地に同県奄美大島周辺海域で、きんめだい等を対象魚とする一航海10日前後の深海立はえ縄漁業に従事していたところ、平成15年8月上旬に船長が病気で倒れて操業ができなくなり、佐賀県の名護屋漁港に帰港して待機していたが、船長の療養が長期間になることが判明した。
 B社の実質的責任者となったA指定海難関係人は、有資格者の船長を探したが手配できず、同年10月に中間検査が予定されていたが、本船の船齢から費用がかさむことが予想されたので、廃船とすることを決心し、廃船処分地の熊本県八代港まで回航することとした。
 A指定海難関係人は、それまで船長の経験はなかったものの、小型船舶操縦士(平成3年10月一級小型船舶操縦士免許取得)の資格を有し、昔から幸福丸に乗船している海上経験の長い乗組員(以下「C乗組員」という。)がいたので、2人でなら何とか目的地まで回航できると思い、同免許では本船の船長を務める資格がないことを知っていたが、有資格者船長の手配に手を尽くして同船長を乗り組ませなかったばかりか、船内に備えた航行区域の海図に当たって事前に水路調査を行うことなく、C乗組員を同乗させて自身が運航に当たることとし、他の乗組員を解散して発航準備に取り掛かった。
 こうして、幸福丸は、A指定海難関係人及びC乗組員の2人が乗り組み、回航の目的で、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成15年9月24日04時00分名護屋漁港を発して八代港に向かった。
 A指定海難関係人は、発航後、C乗組員とともに2人で船橋当直に当たり、目視できる陸岸や灯火の状況を頼りに自動操舵により九州北部西岸沿いに南下し、長崎県平戸瀬戸を経て初めて通航する同県寺島水道に向かったが、依然として海図に当たって付近の水路調査を行わなかったので、同水道の中央部に存在するミヨギ瀬のことを知らないまま、09時33分同水道の北口付近に差し掛かった。
 09時33分少し過ぎA指定海難関係人は、大島大橋橋梁灯(C1灯)から015度(真方位、以下同じ。)2,900メートルの地点に至り、水道の右側を航行するつもりで針路を197度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力で、C乗組員を船首の見張りに就けて進行し、前路に設置された右舷標識であるミヨギ瀬灯浮標は認めたもののミヨギ瀬の存在に気付かず、同灯浮標西側の同瀬に向首したまま続航した。
 A指定海難関係人は、同じ針路及び速力のまま進行中、09時40分少し前ミヨギ瀬に気付いたC乗組員が船橋に向かって身振りを交え、大声で「後進、後進」と叫ぶのを認め、機関を全速力後進に掛けたが及ばず、09時40分大島大橋橋梁灯(C1灯)から014度1,450メートルの地点において、幸福丸は、原針路原速力のままミヨギ瀬の東端部に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、幸福丸は手配したタグボートにより引き下ろされ、長崎県佐世保港まで自力航行してダイバーにより点検の結果、船底中央部に擦過傷を生じていることが判明し、のち予定どおり廃船処理された。

(原因)
 本件乗揚は、廃船処理の目的で八代港まで回航するため名護屋漁港を発航する際、有資格者の船長を乗り組ませなかったばかりか、水路調査が不十分で、寺島水道通航中、ミヨギ瀬に向首進行したことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、幸福丸を廃船処分地の八代港まで回航する目的で名護屋漁港を発航する際、有資格者の船長を乗り組ませず、予定航路の水路調査を行わないまま発航し、自身が運航に当たって寺島水道を通航中、ミヨギ瀬に向首進行したことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、幸福丸を廃船処理したのち運航資格のある19トンの漁船を購入して操業に従事しており、深く反省して無資格運航を繰り返すとは考えられないことに徴し、勧告しない。





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