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平成16年横審第60号
件名

遊漁船美徳丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年12月9日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:美徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
左舷側の外板及び船底に亀裂、舵及びプロペラを損傷、のち廃船

原因
針路確認不十分、船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、転針時の針路の確認が十分でなかったばかりか、その後の船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月30日02時35分
 房総半島南東岸内浦湾湾口

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船美徳丸
総トン数 4.7トン
全長 14.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 183キロワット

3 事実の経過
 美徳丸は、昭和59年9月に進水したFRP製小型遊漁兼用船で、中央より少し船尾側に操舵室があり、レーダー、GPS及び魚群探知機を装備し、月間8日ばかり一本釣り漁などの操業を行うほか、ときどき遊漁船として運航していた。
 A受審人は、昭和50年3月に取得した一級小型船舶操縦士免許を平成16年5月に一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士の免許に更新し、千葉県勝浦港沖合20海里ばかりの海域で操業していたが、遊漁船として運航するときは同港沖合16海里以内で遊漁を行っていた。
 A受審人は、単独で乗り組み、釣り客2人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同年6月30日02時15分千葉県小湊漁港ハライ地区を発し、明るくなる前に釣り場に到着するつもりで、勝浦港沖合に向かった。
 A受審人は、発航するとき霧模様でやや視界が悪かったが、少し前に出航した僚船と無線電話で交信して沖合では視界が良いとの情報を得、GPS及びレーダーを作動させて操舵室中央に立ち、見張りと操舵にあたりながら内浦湾湾口に向かった。
 A受審人は、平素、内浦湾を出て勝浦港沖合に向かう際、ハライ埼から入道ケ埼に至る同湾東岸に散在する岩礁に接近しないよう、祓防波堤を通過して南西方に約700メートル航行したあと、同湾西岸の松ケ鼻南東方沖合400メートルの地点で、針路を180度(真方位、以下同じ。)として同湾を南下し、同湾東岸の大弁天島に並航したとき、ほぼ140度に転針するようにしていた。
 発航後A受審人は、レーダーを3海里レンジとして低速で航行し、02時19分小湊港祓防波堤灯台(以下「祓防波堤灯台」という。)から304度100メートルの地点で、針路を230度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分600の前進にかけ、4.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、陸岸の明かりを見て船位の見当をつけながら内浦湾を航行するうち、霧のため次第に視界が狭められ、転針時の目標としていた松ケ鼻付近の明かりが右舷側にぼんやりと見えるだけで同湾東岸の明かりが見えなくなり、02時24分半祓防波堤灯台から238度700メートルの転針地点に達したとき、針路を180度とするつもりで手動操舵に切り替え、コンパスを見ないまま、124度に転じて自動操舵に切り替えたが、予定針路に向首したものと思い、コンパスを見て針路を十分に確認しなかったので、予定針路より左方に向いていることに気付かず、その後同湾湾口の大弁天島付近の岩礁に向首したまま続航した。
 転針後A受審人は、濃い霧のためハライ埼から入道ケ埼に至る陸岸の明かりを視認することができなかったうえ、レーダーを見て船位を十分に確認しなかったので、前示岩礁に接近していることに気付かず、同島西方を南下しているものと思い込み、02時35分少し前次の転針地点に達するころと思ってレーダーを見たところ、左舷前方至近に陸岸が迫っていることを知り、あわてて手動操舵に切り替えて右舵一杯としたが及ばず、美徳丸は、02時35分祓防波堤灯台から157度1,190メートルの地点において、原針路、原速力のまま、大弁天島西側の干出岩に乗り揚げた。
 当時、天候は霧で風力2の南風が吹き、視程約100メートルで、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、左舷側の外板及び船底に亀裂が生じるとともに、舵及びプロペラを損傷して離礁を断念し、のち廃船とされた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、房総半島南東岸の内浦湾において、千葉県小湊漁港を出航して釣り場に向け航行中、霧のため視界が狭められた松ケ鼻沖合の転針地点で針路を南方に転じた際、針路の確認が十分でなかったばかりか、その後の船位の確認が不十分で、同湾湾口の大弁天島付近の岩礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、房総半島南東岸の内浦湾において、千葉県小湊漁港を出航して釣り場に向け航行中、霧のため視界が狭められた松ケ鼻沖合の転針地点に達し、コンパスを見ないまま針路を南方に転じて自動操舵に切り替えた場合、同湾湾口の岩礁に接近しないよう、コンパスを見て針路を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、予定針路に向首したものと思い、コンパスを見て針路を十分に確認しなかった職務上の過失により、予定針路より左方に向いていることに気付かず、大弁天島付近の岩礁に向首したまま進行して乗揚を招き、左舷側の外板及び船底に亀裂を生じさせるとともに、舵及びプロペラを損傷させて離礁不能となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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