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平成16年那審第19号
件名

漁船仁洋丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年11月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:仁洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
推進器翼などに曲損、船底外板に擦過傷

原因
操舵方式の確認不十分で針路の保持措置がとられなかったこと

裁決主文

 本件乗揚は、操舵方式の確認が不十分で、針路の保持を図る措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月28日23時15分
 鹿児島県大島海峡

2 船舶の要目
船種船名 漁船仁洋丸
総トン数 4.9トン
登録長 13.17メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 240キロワット

3 事実の経過
(1)仁洋丸
 仁洋丸は、平成元年2月に進水した一本釣り漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で、船首から順に船首甲板、前部甲板、船室兼操舵室及び船尾甲板を配していた。
 また、操舵室内の前部中央部に舵輪を備え、その前面の棚上に操舵装置の操作盤(以下「操作盤」という。)を置き、その右舷側に主機のスロットルレバー及びクラッチレバーを、左舷側に磁気コンパスをそれぞれ配し、これらの船首側に右舷側から順に主機計器盤、レーダー、GPSプロッター及び魚群探知機を置いていた。
 その操舵装置は、B社製のCB-18GPSと称するもので、操作盤上に手動、自動及び遠隔の各操舵方式を選択する設定つまみがあり、同盤の状態表示画面に手動操舵時には「シュドウ」、自動操舵時には「オート」、遠隔管制器による操舵時には「ソウサエンカク」と有効な操舵方式及び実際の転舵角度などを示すようになっていた。また、同装置は、前示設定つまみを自動としたままでも、遠隔管制器の操舵用つまみが5度以上偏位すると、その指示舵角に従って転舵するとともに同画面に「ソウサエンカク」と表示し、同つまみを中立に戻すとそのときの船首方位で自動操舵状態に戻る機能を有していた。
(2)本件発生に至る経緯
 仁洋丸は、昭和63年1月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、船体修繕を終えて帰港の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年12月28日23時00分鹿児島県奄美大島の古仁屋港を発し、同県喜界島の湾港に向かった。
 ところで、A受審人は、装備していた操舵装置の機能などについては十分に承知しており、船尾甲板で遠隔管制器を使用したときには、同器の操舵用つまみを中立に戻したのち、同甲板上を船横方向に渡した板の上に置くようにしていたところ、発航時に取り入れた係留索が同板の上に置いてあった遠隔管制器に当たり、その操舵用つまみを右偏させたことも、甲板上に同器を落としたことにも気付かなかった。
 こうして、A受審人は、23時05分半古仁屋港防波堤灯台から180度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの地点で、大島海峡を東行して加計呂麻島北岸の待網埼の北側に向かう115度に針路を定め、スロットルレバーを調整して12.0ノットの対地速力とし、舵輪による手動操舵で進行した。
 A受審人は、23時12分半待網埼灯台から325度740メートルの地点に達し、同灯台の左方に大島海峡の東口付近を見通すことができる状況となったとき、反航する他船も見当たらないことから、しばらくの間自動操舵にして操舵室内の片付けを行うこととし、操舵方式の設定つまみを自動に切り替えた。
 このとき、A受審人は、遠隔管制器の操舵用つまみが偏位していると、その指示舵角に従って転舵するおそれがあることを知っていたが、日頃から同器を使用し終えたときには同つまみを中立に戻していたことから、そのまま自動操舵に切り替わったものと思い、操作盤の状態表示画面で有効な操舵方式を十分に確認することなく、操舵室内の片付けに取り掛かったため、遠隔管制器による操舵状態に切り替わっていたことも、その操舵用つまみの指示舵角に従って陸岸に向けて転舵し始めたことにも気付かず、直ちに同盤の設定つまみを手動に戻すなどして針路の保持を図る措置をとらないまま続航した。
 A受審人は、23時14分待網埼灯台から317度290メートルの地点に至り、船首が161度に向いたとき、左舷船首方近くに同灯台を認めるとともに、操作盤の状態表示画面で遠隔管制器による操舵状態となっていることを知り、思わぬ事態に気が動転し、機関を使用して停止することも、同盤の設定つまみを手動とすることにも思い及ばないまま、船尾甲板に移動して同器を捜し始めた。
 A受審人は、23時15分わずか前ようやく甲板上に落ちていた遠隔管制器を捜し出し、周囲の状況なども確認せずに同器の操舵用つまみを左舵一杯に操作したため、仁洋丸は、23時15分その船首が070度に向いたとき、待網埼灯台から212度200メートルの地点において、原速力のまま、加計呂麻島北岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期で視界は良好であった。
 A受審人は、機関を後進にかけて離礁を試みたものの、推進器翼が海底に接触していることを知り、自力離礁を断念して海上保安部に救助を依頼した。仁洋丸は、その後来援した起重機船に吊り揚げられて離礁し、古仁屋港に曳航された。
 乗揚の結果、推進器翼などに曲損を、船底外板に擦過傷を生じたものの、その後修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、鹿児島県大島海峡を航行中、操舵方式の設定つまみを自動に切り替えた際、操作盤の状態表示画面による有効な操舵方式の確認が不十分で、同盤の設定つまみを手動に戻すなどして針路の保持を図る措置がとられず、遠隔管制器の操舵用つまみの指示舵角に従って陸岸に向けて転舵したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鹿児島県大島海峡を航行中、操舵方式の設定つまみを自動に切り替えた場合、遠隔管制器の操舵用つまみが偏位していると、その指示舵角に従って転舵するおそれがあったから、操作盤の状態表示画面で有効な操舵方式を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、日頃から遠隔管制器を使用し終えたときには、その操舵用つまみを中立に戻していたことから、そのまま自動操舵に切り替わったものと思い、有効な操舵方式を十分に確認しなかった職務上の過失により、遠隔管制器による操舵状態に切り替わっていたことも、その操舵用つまみの指示舵角に従って陸岸に向けて転舵し始めたことにも気付かず、直ちに操作盤の設定つまみを手動に戻すなど、針路の保持を図る措置をとらないまま進行して加計呂麻島北岸への乗揚を招き、推進器翼などに曲損を、船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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