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平成16年門審第77号
件名

漁船第三安芸丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年11月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦、織戸孝治、寺戸和夫)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第三安芸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船体が分断、全損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月9日06時30分
 鹿児島県上甑島北岸
 (北緯31度52.6分 東経129度50.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三安芸丸
総トン数 4.5トン
全長 12.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 117キロワット
(2)設備及び性能等
 第三安芸丸(以下「安芸丸」という。)は、昭和61年11月に進水したはえなわ漁に従事するFRP製漁船で、船体中央やや後部に機関室、その上部に操舵室が配置され、前部甲板下には、船首側から順に、漁具庫、第1物入れ、第2物入れ、第1いけす、第2いけす、後部甲板下には、機関室に続いて第3物入れ、第4物入れ及び舵機室がそれぞれ設けられていた。そして、錨索として200メートルの合成繊維製索が備えられていた。
 機関室は、長さ2.84メートル幅2.47メートルで、同室の中央部には、主機として、長さ1.53メートル、幅0.87メートルのB社製のディーゼル機関が、同室の後壁及び左右舷壁に接して、長さ1.50メートル、幅0.50メートルで容量300リットルの燃料タンクがそれぞれ1個据え付けられていた。従って、機関室の作業空間は狭められていた。

3 事実の経過
 安芸丸は、A受審人が1人で乗り組み、たいのはえなわ漁を行う目的で、船首0.4メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成15年12月9日03時30分熊本県牛深港を発し、鹿児島県上甑島北方の漁場に向かった。
 発航に先だち、A受審人は、機関室のそれぞれの燃料タンクには燃料を半載状態で積み込んでいた。
 A受審人は、04時40分縄瀬鼻北方3海里ばかりの目的地に至り、機関を停止回転として前部甲板上で投縄の準備を行い、05時00分縄瀬鼻灯台から000度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点から投縄を開始し、針路を180度に定めて4.9ノットの対地速力で、船尾から縄を投入しながら進行していたところ、作業中、右膝をくじき痛みを感じたので、投縄を中止して休憩することとし、05時30分縄瀬鼻灯台から000度700メートルの地点に達し、はえなわ3本を入れたところで投縄を中断して標識を投入し、機関を停止回転として漂泊を始めた。
 その後、A受審人は、船首が北西方に向いて、うねりによって船体が左右に10度ばかり横揺れする状況のもと、折からの風潮流の影響により南東方に圧流されていることを知った。
 A受審人は、膝を痛めたことでもあり、天候が悪くなれば漁を中止して帰港しようと考え、操舵室で、漁業無線を聴取して気象情報を得るなどしていたところ、06時15分縄瀬鼻灯台から056度400メートルの地点まで圧流されたとき、突然、主機が自停した。
 このとき、A受審人は、主機の自停状況から、過去に何度か経験したように、船体が横揺れしたことにより、燃料油系統に空気が混入したものと判断し、陸岸から200メートルのところまで圧流されていたが、風が強く吹いていなかったことから、大きく圧流されることはあるまいと思い、レーダーを有効に活用するなどして、船位の確認を十分に行うことなく、乗り揚げの危険が迫っていることに気付かないまま、急ぎ機関室に入った。
 A受審人は、燃料油系統に混入した空気の排除作業を始めたものの、機関室内が狭いうえ、右膝をくじいていて力が入らず、いつもより時間がかかる状況のもとで、懸命になって同作業を続けた。
 安芸丸は、315度を向いたまま風潮流の影響により148度の方向に圧流され、06時30分縄瀬鼻灯台から081度500メートルの地点において、岩場に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出時刻は07時09分であった。
 乗揚の結果、波にもまれて船体が分断され、全損となった。

(本件発生に至る事由)
1 出港時、燃料タンクが半載状態であったこと
2 陸岸に近いところで漂泊を開始したこと
3 船体が横揺れしたとき燃料系統に空気が混入して主機が自停したこと
4 船位を確認しなかったこと
5 主機を再始動するためのエア抜き作業に長時間を要したこと

(原因の考察)
 本件は、日出前の薄明時、上甑島縄瀬鼻北方において、機関を停止回転として漂泊中に主機が自停し、風潮流の影響により圧流されて同島北岸に乗り揚げたものであるから、以下原因について検討する。
 A受審人が、陸岸に向かって圧流されている状況のもと、主機を再始動するための燃料系統に混入した空気の排除作業に取り掛かる際、船位の確認を十分に行っていれば、離岸距離が分かるから、投錨するなどして乗り揚げを未然に防げた。従って同受審人が、船位の確認を行わなかったことは本件発生の原因となる。
 燃料タンクが半載状態であったこと、陸岸に近いところで漂泊を開始したこと、船体が動揺したとき燃料系統に空気が混入して主機が自停したこと及びA受審人が右膝をくじいたことにより主機を再始動するためのエア抜き作業に長時間を要したことは、いずれも、本件乗揚に至る過程で関与した事実であるが、燃料系統に混入した空気の排除作業に取り掛かる際、船位の確認を十分に行っていれば、乗り揚げを未然に防げた。従って、これらのことは、本件乗揚と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら、燃料タンクが半載状態であったこと及び陸岸に近いところで漂泊を開始したことは、海難防止の観点から是正されるべき事項であり、船体が動揺したとき燃料系統に空気が混入して主機が自停したことは、同系統に空気が混入しないようにするべきであり、A受審人が右膝をくじいたことにより、主機を再始動するためのエア抜き作業に長時間を要したことは、船上では怪我などがないよう十分に注意して作業に当たるべきである。

(海難の原因)
 本件乗揚は、日出前の薄明時、上甑島縄瀬鼻北方において機関を停止回転として漂泊中、燃料系統に空気が混入し主機が自停したことにより、同空気を排除する作業に取り掛かる際、船位の確認が不十分で、同島北岸に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、上甑島縄瀬鼻北方において機関を停止回転として漂泊中、燃料系統に空気が混入し主機が自停したことにより、同空気を排除する作業に取り掛かる場合、陸岸の方に圧流されていることを知っていたのであるから、陸岸に著しく接近することのないよう、レーダーを有効に活用するなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、風がそれほど強く吹いていなかったことから大きく圧流されることはあるまいと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、乗り揚げの危険が迫っていることに気付かず、機関室に入り同作業を続けて乗揚を招き、その後、波にもまれるうち船体が分断されて全損となるに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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