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平成16年長審第29号
件名

貨物船第八大平丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年10月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦、山本哲也、藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第八大平丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船底外板全般に破口を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月25日05時30分
 長崎県佐世保港口南西岸
 (北緯33度05.5分 東経129度40.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第八大平丸
総トン数 199トン
全長 57.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 第八大平丸(以下「大平丸」という。)は、平成7年2月に進水した限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の雑貨運搬船で、操舵室前側中央部にコンソールスタンドがあり、右から順に機関操縦ハンドル、ジャイロ組込型操舵装置、主レーダー、GPS及び従レーダーが配備され、同操舵装置の舵輪後方には背もたれと肘掛けの付いたいすが備えられていた。

3 事実の経過
 大平丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、船体修理の目的で、船首0.80メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成15年1月24日06時40分関門港を発し、佐世保港に向かった。
 出航して間もなく、A受審人は、長崎県北部に強風、波浪注意報が発表されたことから、07時30分関門港西山区錨地で投錨、避泊したうえ日中はペンキ塗り作業を行い、17時00分同作業を終えて休息していたところ、警報が解除され、風も収まってきたので、20時45分抜錨して再び航海を開始した。
 抜錨後、A受審人は、平戸瀬戸通過時間が自らの当直に当たるよう船橋当直時間割を自らと甲板長による単独の5時間2直制として発航操船を終え、21時00分昇橋してきた甲板長に当直を引き継ぎ、自室で休息をとった。
 翌25日02時00分A受審人は、佐賀県加部島北方0.5海里付近で船橋当直に就き、03時45分ごろ平戸瀬戸北口の広瀬灯台を左舷に見て航過したのち、同瀬戸を南下し、04時57分半牛ケ首灯台から220度(真方位、以下同じ。)0.3海里の地点において、針路を佐世保港口の洗出シノ瀬灯浮標を右舷側に300メートル離すよう130度に定め、機関を全速力前進にかけ11.5ノットの対地速力とし、自動操舵で進行した。
 定針後、A受審人は、出航及び当直前に休息をとって取り立てて疲労が蓄積したり睡眠が不足したりしている状況ではなかったものの、いすに腰掛けて当直に当たっているうち、広い海域に出たことや海上が穏やかで、左舷船首2海里付近に錨泊中の大型船が1隻見えるだけで、周囲に注意するような他船が見えなかったことから気が緩んで眠気を催したが、転針地点まで近いのでその間に居眠りに陥ることはあるまいと思い、立って外気に触れるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった。
 こうして、A受審人は、05時09分高後埼灯台から305度3.4海里に達し、眠気を覚えたまま針路線付近の錨泊船を自動操舵で左舷側に替わして元の針路に戻したのち、依然として居眠り運航の防止措置をとらずに進行するうち、いつしか居眠りに陥り、05時27分高後埼灯台から191度0.3海里の予定転針地点に至ったが、このことに気付かず、転針の措置をとらずに居眠りを続け、佐世保港口の陸岸に向首したまま続航中、05時30分大平丸は、高後埼灯台から152度1,350メートルの地点において、原針路、原速力のまま、佐世保港口南西岸の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、大平丸の船底外板全般に破口を伴う凹損を生じたが、自力離礁し、のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 夜間、単独当直に就いていたA受審人が、定針したとき、広い海域に出たことや海上が穏やかで、前方に錨泊中の大型船以外注意するような他船が見えなかったことから気が緩んで眠気を催したこと
2 A受審人が、居眠りに陥ることはあるまいと思い、立って外気に触れるなどして眠気を払拭する努力をしなかったこと
3 A受審人が、眠気を催したとき頼める交替者がいなかったこと
4 A受審人が、単独で船橋当直中、居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件乗揚は、夜間、平戸瀬戸を経て佐世保港口に向けて南下中、単独で船橋当直に就いていた当直者が居眠りに陥り、予定転針地点に到達したことに気付かず、転針の措置がとられないまま佐世保港口南西岸の浅礁に向首進行したことによるものである。
 したがって、A受審人が、眠気を催した際、立って外気に触れるなどして眠気を払拭する努力をしなかったこと及び単独で船橋当直中、居眠りに陥ったことは、本件発生の原因となる。
 なお、A受審人が、眠気を催したとき頼める交替者がいなかったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、同人が出航及び当直前に休息を十分にとっていること、また、船長という同人の立場から判断して原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件乗揚は、夜間、平戸瀬戸南口から佐世保港口に向けて南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、佐世保港口南西岸の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、平戸瀬戸南口から佐世保港口に向けて南下中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、立って外気に触れるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針地点まで近いのでその間に居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、佐世保港口南西岸の浅礁に向首進行して乗揚を招き、船底外板全般に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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