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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成16年広審第81号
件名

貨物船榮壽丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年10月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
村松雅史

受審人
A 職名:榮壽丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船首部船底外板に亀裂を伴った凹損

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は、水路調査が十分に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月9日07時40分
 瀬戸内海東部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船榮壽丸
総トン数 498トン
全長 49.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 榮壽丸は、海砂採取等に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、当時岡山県水島港南方に位置する塩飽諸島水域のガンツガ瀬で海砂を採取して近郊諸港に陸揚げし、また既に採取陸揚げされた海砂の輸送も行っていたところ、愛媛県三島川之江港で採取済み海砂700立方メートルを載せ、船首3.40メートル船尾4.70メートルの喫水をもって、平成15年12月8日15時00分に同港を発し、香川県津田港に向かった。
 A受審人は、津田港入港時間調整の目的で、いったん観音寺市に寄港し、翌9日02時30分同地を離れ、自ら単独で船橋当直に就いて備讃瀬戸南航路そして同東航路から宇高西航路を南下し、香川県高松港沖に続き同港東部庵治港沖を経て同県北部沿岸に寄って東行した。
 ところで、A受審人は、それまで津田港への入港経験はなかったものの同港沖合を航行したことがあって沿岸一帯から同港沖合の津田湾にかけてのり養殖網等漁具定置施設が設置されていることを認識していた。しかし、この度津田港への運航が決まった時点で、使用していた海図を見て津田湾奥に位置する同港への入港に至るまでの水深が航行上支障ないものと思い、発航に先立って所持していた漁具定置施設設置図等の水路資料や関係先等への問い合わせなどによって入航針路の設定等に関する水路調査を十分に行うことなく、津田港北東方から同港に入航する予定で朝からの荷揚げ時間を調整して発航した。
 こうして、07時09分A受審人は、同県北東部にあたる馬ケ鼻灯台から040度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で、針路を141度に定め、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力で沿岸に沿って手動操舵で進行した。その後同時17分津田港北方にあたる虎ケ鼻沖に達したとき、前方から津田湾一帯にかけて浮子で標示されたのり養殖網等漁具定置施設の設置された状況を見て入航する水路を見定められなくなった。そこで、いったん機関を微速力前進とし4.0ノットに減じて同じ針路で続航するうち、同時22分少し前同灯台から104度1.7海里の地点に達したとき、同施設の側に沿えば水深上航行が可能でありしかも予定していた入港時間に十分に間に合わせられる近道となる四国側陸岸側鷹島と同施設との間の狭い水域に向けた。しかし、当時同島北東方約500メートルのところに水面下に没した状態の沖ノソワイの存在に気付かず、同施設寄りに182度の針路で進行した。やがて同時37分半前路にたこ壷の設置と見られた竹竿数本を認めてこれを替わそうとし、同漁具施設に更に寄ることを避けて右舵で同竹竿を替わしながら続航中、07時40分津田港北防波堤灯台から039度2.15海里の地点において、榮壽丸は、その船首が228度に向いて沖ノソワイに乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、船首部船底外板に亀裂を伴った凹損を生じ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、備讃瀬戸東部にあたる香川県北東岸沿いを東行して入港経験のない同県津田港に入航する際、水路調査が不十分で、同港北方からのり養殖網等漁具定置施設と陸側との間の狭い水域に向けて転針入航し、水面下に没した状態の沖ノソワイに向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、備讃瀬戸東部にあたる香川県北東岸沿いを東行して入港経験のない同県津田港に入航する場合、事前に沿岸一帯から同港沖合の津田湾にかけてのり養殖網等漁具定置施設が設置されていることを認識していたのであったから、発航に先立って所持していた漁具定置施設設置図等の水路資料や関係先等への問い合わせなどによって入航針路の設定等に関する水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、普段使用していた航海用海図を見て津田湾奥に位置する津田港入航に至るまでの水深が航行上支障ないものと思い、発航に先立って所持していた漁具定置施設設置図等の水路資料や関係先等への問い合わせなどによって入航針路の設定等に関する水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同港北方に至って同施設の側に沿えば水深上航行が可能でしかも予定していた入港時間にも間に合わせられる近道となる四国側陸岸と同施設との間の狭い水域に向けて転針入航を企て、水面下に没した状態の険礁の存在に気付かないまま進行して、沖ノソワイへの乗揚を招き、船首部船底外板に亀裂を伴った凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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