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平成16年門審第59号
件名

漁船第二観音丸浸水事件(簡易)

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年8月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(寺戸和夫)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第二観音丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
左舷側集魚灯用安定器全38台がぬれ損

原因
冷却海水系統の点検不十分

裁決主文

 本件浸水は、冷却海水系統の点検が不十分で、同系統の圧力が急上昇して配管の接続部から海水が漏洩したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月28日23時00分
 山口県見島の西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二観音丸
総トン数 19トン
登録長 19.19メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 421キロワット
回転数 毎分2,030

3 事実の経過
 第二観音丸(以下「観音丸」という。)は、昭和63年に進水したFRP製の漁船で、いか一本釣り漁に従事し、主機として、平成6年に換装したB社製の6M140A-2型と称するディーゼル機関を備え、漁場を山陰沖や壱岐、対馬及び五島列島の周辺沖合とし、時化の日と休漁日を除いて、毎日午後発航して漁場に至り、日没のころから操業を始め、翌朝帰航するか沖泊まりするかの運航を周年繰り返していた。
 観音丸は、主機の船首側動力取出軸によって、直結で集魚灯用発電機を、ベルト駆動で充電用発電機と操舵機用油圧ポンプをそれぞれ駆動しており、主機は、漂泊操業中も含めて発航から帰航するまで連続して運転され、その運転時間は年間2,000ないし2,200時間に達していた。
 主機は、間接冷却方式で、海水が、船底の目皿から主機直結の海水ポンプ(以下「ポンプ」という。)で吸引加圧され、空気冷却器、逆転減速機用潤滑油冷却器及び清水冷却器を順次経て左舷側船外に排出されており、ポンプと空気冷却器の間には、プラスチック製円筒形の海水こし器(以下「こし器」という。)が、機関の左舷側に配管された海水管内の同冷却器直前に取り付けられていた。
 こし器は、主機換装の際、それまでポンプのゴムインペラが損傷したとき、同インペラの切損片が空気冷却器の内部にまで運び込まれ、同片の除去作業の労苦が大きかったことから、昭和63年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が、工事の担当者に依頼して追設されたもので、このときポンプと空気冷却器間に配管されていた銅製の海水管が内径63ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径80ミリ長さ約1メートルのスチールコイル入り耐圧ビニールホース(以下「ホース」という。)に取り替えられ、同ホースの両端が、銅製海水管除去時に残された短い銅管に各3本のスチール製ホースバンド(以下「バンド」という。)で締め付けて接続されていた。
 ところで、観音丸の機関室は、操舵室の下方で魚倉の後方に位置しており、中央に主機が搭載されて船首側に前示の発電機があり、同発電機の左舷側に38台及び右舷側に18台の集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、新造時から船長として乗り組み、機関の運転及び管理を自ら行い、年2回は上架して船体の整備を実施し、主機の冷却海水系統についても、海水の船外排出量が減少したり冷却清水の温度が上昇したときなどには、自らポンプを開放してゴムインペラを取り替え、また、こし器も必要に応じて開放掃除を行っていた。なお、同系統には圧力計は取り付けられていなかった。
 平成15年9月中旬、A受審人は、海水の船外排出状況を観察し、通常は排出される海水の放出距離が舷側から700ないし800ミリに達していたところ、500ミリばかりになっていたことを認めたが、冷却清水の温度上昇には異状を示す顕著な兆しが未だなく、同年7月の上架時こし器を開放掃除したばかりであったこともあり、今しばらく様子を見ても大丈夫だろうと思い、こし器を含む冷却海水系統の点検を十分に行わず、こし器が、海水管内で成長した貝類や海中の浮遊物などで閉塞し始めていたことに気付かないまま、主機の運転を続けた。
 こうして観音丸は、平成15年9月28日15時00分、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、山口県特牛港を発し、主機の回転数を毎分1,550として10.0ノットの対地速力で航行し、同日17時00分同県北方沖合の漁場に至り、主機の回転数を毎分1,800として直結の集魚灯用発電機を運転して漂泊を始め、18時00分全集魚灯を点灯して操業を開始したのち、いか約80キログラムを漁獲したころ、ポンプが海中の浮遊物を吸引し、こし器の閉塞が一気に進行してポンプ出口の圧力が急上昇し、海水管のホースが膨張したことから、バンドが伸びて緩むようになり、ポンプ出口直近のホースと銅管の接続部から海水が漏洩して飛散し始め、23時00分漂泊海域の同県見島西方沖合の北緯34度45分東経130度42分の地点において、安定器がぬれ損して短絡し、電線短絡時独特の異音を発するようになった。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 操舵室で漁具の手入れを行っていたA受審人は、機関室の異音を聞いて同室に急行し、海水が安定器に降りかかっているのを認め、操舵室に戻って全集魚灯のスイッチを遮断した。
 観音丸は、緩んだバンドを増締めしてホースを固定復旧し、操業を中止して翌29日00時30分漁場を発し、自力で長崎県壱岐の勝本港に帰航したのち、ぬれ損した左舷側安定器全38台を新替修理したほか、ホース接続部の銅管を延長してバンド締付の安定化を図り、こし器についても短期間内に定期的な開放掃除を行うなど整備内容を改善した。 

(原因)
 本件浸水は、主機冷却海水の船外排出量の減少を認めた際、冷却海水系統の点検が不十分で、操業中、海水ポンプ出口側に設けたこし器が閉塞してポンプ出口の圧力が急上昇し、同出口側の配管接続部から海水が漏洩したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機を運転中、冷却海水の船外排出量の減少を認めた場合、船底の目皿もしくは海水ポンプの出口側に設けたこし器の閉塞、あるいは同ポンプ自体の不具合が考えられたから、異状箇所を判断できるよう、これらを開放するなどして冷却海水系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、冷却清水温度の上昇には目立った異状はなく、こし器も2箇月前に上架して掃除したばかりだから、今しばらく様子を見ていても大丈夫と思い、冷却海水系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、こし器が著しく閉塞し始めていることに気付かないまま主機の運転を続け、漁場で主機直結の発電機を運転して操業中、こし器の閉塞が更に進行して海水ポンプの出口圧力が急上昇し、同ポンプ出口配管接続部の締付バンドが緩んで同接続部から海水が漏洩する事態を招き、飛散した海水によって付近の集魚灯用安定器がぬれ損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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