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平成15年神審第107号
件名

貨物船熊豊浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年7月29日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤、平野浩三、甲斐賢一郎)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:熊豊機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B社造機部 責任者:取締役造機部長C 業種名:船舶修理業

損害
主機、逆転減速機、中間軸受などが濡れ損

原因
船尾管軸封装置付ドレン管の点検不十分、舶修理業者の同ドレン管の新替工事における施工方法不適切

主文

 本件浸水は、船尾管軸封装置の保守管理にあたり、同装置付ドレン管の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 船舶修理業者が、船尾管軸封装置付ドレン管の新替工事を行った際、施工方法が不適切であったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月2日04時00分
 徳島県橘港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船熊豊
総トン数 603.16トン
全長 58.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 698キロワット

3 事実の経過
(1)熊豊の概要
 熊豊は、昭和56年10月に進水し、平成5年1月D社が中古で購入した、主に徳島県橘港と徳山下松港間の石炭灰輸送に従事する船尾機関型鋼製セメント運搬船で、機関室中央に主機が据え付けられ、逆転減速機、中間軸、プロペラ軸及びプロペラからなる軸系装置に動力が伝達されるようになっていた。
 プロペラ軸は、外径180ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鍛鋼製で、ニッケル青銅鋳物製全通スリーブで被覆され、機関室後部に隣接する船尾水倉内に設けられた船尾管を貫通していた。
 船尾管は、全長2,090ミリの鋳鉄製で、船尾管軸受として、長さ315ミリ及び720ミリの硬質ゴム製支面材がそれぞれ前部及び後部に挿入され、機関室側のプロペラ軸貫通部に取り付けられた船尾管軸封装置によって水密が保たれていた。
(2)船尾管軸封装置
 船尾管軸封装置は、E社が製造したスターンキーパーB-210型と称する海水潤滑端面シール方式のもので、船尾管前端に取り付けられた青銅鋳物製ケーシング(以下「ケーシング」という。)に、プロペラ軸の振動による影響を緩和するコイルばねを介して組み込まれた同鋳物製の固定摺動リングと、プロペラ軸スリーブの固定回転リングに取り付けられた合成ゴム製の回転摺動リングとが、互いに摺動面を構成して水密を保つようになっており、主機冷却海水系統から分岐した海水管がケーシング上部に配管され、同面及び船尾管軸受を潤滑及び冷却する目的で給水されていた。
 給水される海水は、船尾管軸封装置の性能が前記摺動面の耐久性に依存することから、船尾管内にかかる喫水圧力に抗して適正量かつ清浄である必要があるので、圧力を0.4ないし0.8キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧され、加えて、ケーシング内に滞留するおそれのある異物をドレンとして除去できるよう、ケーシング最下部にドレン孔が設けられ、ねじの呼び2分の1インチ、長さ約16ミリの管用テーパめねじが切られた同孔に、長さ330ミリ、呼び径15A及び厚さ4.7ミリで、ほぼ中央部が90度に曲がった形状の同装置ドレン管(以下「ドレン管」という。)の一端がねじ込まれ、更に他端に止め弁(以下「ドレン弁」という。)が同様に取り付けられ、機関室後部ビルジ溜まりに向け排水できるようになっていた。
 ところで、ドレン管は、ケーシングが青銅鋳物製であることから、電位列が上位となる鉄材との間に海水が存在すると、それが電解液となって局部電池を形成するおそれがあるので、電気化学的作用による腐食を抑制する目的で、材料として耐食性に優れたステンレス鋼が採用されていたうえ、両端のねじ込み部への海水の浸入を阻止できるよう、耐密性に優れた管用テーパおねじが施されていた。
 また、ドレン管は、海水漏洩の有無について点検を行うにあたり、機関室床板から約80センチメートル下方に位置し、同床板上に立った姿勢ではプロペラ軸に遮られて見えなかったうえ、航行中、身を屈めて覗き込むことは回転している同軸による危険を伴うので、停泊中に実施することが望ましく、同装置取扱説明書中の保守に関する記載に従い、1週間を標準間隔として身を屈めてドレン弁を開ける必要があり、その機会などにも外観目視することが可能であった。
(3)A受審人
 A受審人は、熊豊に平成7年8月に初めて乗船して以来、休暇及び転船をはさんで乗下船を繰り返していたところ、平成12年10月ごろドレン管のドレン弁との接続部に海水漏洩を認め、同部の損傷が懸念されたものの、応急処置を施して止水できたので、自らの判断でそのまま使用を続け、平成14年1月熊豊がB社に合入渠した際、同管を新替えすることとし、その取り外しから製作及び取り付けに至る一切の工事を、同社に発注した。
(4)指定海難関係人B社造機部
 B社は、修繕を専門に行う造船所で、造機課、銅工課及び電気課で構成された造機部(以下「B社造機部」という。)に機関関係の業務を担当させており、配管工事を請け負った際には、銅工課が造機課に所属する担当技師の指示を受けて施工する体制をとっていた。
(5)ドレン管の新替にあたり施工方法が不適切であった点
 B社造機部は、ドレン管を新替えするにあたり、メーカーが指定する材料と異なる呼び径15A及び厚さ3.7ミリの圧力配管用炭素鋼鋼管を選定し、現装管と同じ造作とするため、そのほぼ中央部で90度に曲げたうえ、管両端から約22ミリの間にねじの呼び2分の1インチの管用テーパおねじを切る工作を行った。そして、パイプレンチを用いてケーシングにねじ込んだとき、漏洩防止と同管の位置調整などを目的に、ねじ部にシールテープを巻き付けたが、それが過剰であったことから、同管を長さ約10ミリしかねじ込むことができず、テーパおねじの同めねじと相対する有効長さが不十分な締付状態であったので、両ねじ間の耐密性が損なわれ、海水が浸入する状態を生じさせた。
 次いで、B社造機部は、ドレン弁を同管の他端に取り付ける際、すでにケーシングにねじ込まれていたドレン管おねじ部の強度に対する配慮が不十分で、パイプレンチを用いるなどして同管の動きを抑えることなく、ドレン弁にのみ同レンチをかけてねじ込んだので、同おねじ部に生じた過大な曲げ応力により、その先端から約10ミリの谷部に円周方向の亀裂を生じさせたが、通水試験を実施して漏れのないことを確認し、同亀裂の発生及び前記おねじ部の不十分な締付状態に気付かないまま完工した。
(6)浸水に至った経緯
 熊豊は、平成14年1月10日合入渠工事を完工したのち運航に復帰し、海水の浸入によりドレン管おねじ部の腐食が進行するとともに、軸系の振動などが加わってドレン管に生じていた前記亀裂も進行したことから、同部の強度が益々低下する状況になっていたところ、いつしか同部から海水が漏洩し始めた。
 同年4月26日A受審人は、熊豊に機関長として乗船し、機関の運転及び保守管理にあたっていたところ、船尾管軸封装置のドレン弁を開けドレンを排出する機会などに、ドレン管を外観目視すれば海水漏洩を認め得る状態であったが、一度も同弁を操作することがなかったうえ、ドレン管を新替えしてから間もないので著しい腐食の進行がないものと思い、同管を外観目視して海水漏洩の有無について点検を行わなかったので、このことに気付かないまま運転を続けた。
 熊豊は、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で同年6月25日15時00分徳山下松港を発し、苅田港内で錨泊したのち、積荷役待機の目的で、同月28日06時15分徳島県橘港西浜公共岸壁に船首1.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって着岸し、主機冷却海水の船底弁が閉鎖され、船尾管軸封装置に約0.15キロの喫水圧力がかかった状態で係留された。
 こうして、熊豊は、係留を続け、同年7月2日00時ごろ一等機関士が機関室の巡視を行い、運転中の機器やビルジ量に異常のないことが確認されたものの、その後、いつしかドレン管が破断してケーシングから脱落し、多量の海水が機関室内に流入する状況となり、当日予定されていた積荷役の準備としてバラスト水の排出を行う目的で機関室に入った同機関士が、04時00分橘港長島灯台から真方位256度1.65海里の地点において、ビルジが同室下段の床面付近まで増加しているのを発見し、A受審人にその旨を報告した。
 当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、港内の海上は平穏であった。
 熊豊は、A受審人が急ぎ機関室ビルジの排出を試みたものの、浸水量に追いつかず、ドレン孔から海水が漏洩し続ける状態のまま、来援した引船により最寄りの造船所に引き付けられ、陸上からの支援を受けて排水が行われた。
 その結果、熊豊は、船底に脱落しているドレン管が発見されるとともに、増加し続けたビルジにより、主機、逆転減速機、中間軸受などの濡れ損が判明し、のち、いずれも修理された。
(7)本件の処理及び再発防止対策
 B社造機部は、浸水に至った責任を認め、D社に対し本件発生後の修理費用の一部を補償したほか、同種事故の再発を防止するため、ドレン管の新替工事に関わった各作業者に注意を与えるとともに、品質管理の改善に向け全社的に対応することとした。

(原因)
 本件浸水は、海水潤滑端面シール方式の船尾管軸封装置の保守管理にあたり、同装置付ドレン管の点検が不十分で、同管取付部から海水が漏洩する状況のまま運転が続けられるうち、同部に生じていた腐食及び亀裂が進行し、同管が破断したことによって発生したものである。
 船舶修理業者が、船尾管軸封装置付ドレン管の新替工事を行った際、施工方法が不適切であったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、船尾管軸封装置内の異物を含んだ海水を、定期的に排出する必要がある海水潤滑端面シール方式の同装置の保守管理を行う場合、かつてドレン管からの海水漏洩を経験していたのであるから、同装置ケーシングの下部に設けられていたドレン弁を開け、異物を含んだ海水を排出する機会などに、同管からの海水漏洩の有無について十分に点検を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同管を新替えしてから間もないので著しい腐食の進行がないものと思い、同管からの海水漏洩の有無について十分に点検を行わなかった職務上の過失により、同管の取付ねじ部から海水が漏洩していることに気付かず、同部に生じていた腐食及び亀裂が進行して同管が破断する事態を招き、機関室に多量の海水が浸入してビルジ量が急増し、主機及び逆転減速機などに濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 指定海難関係人B社造機部が、船尾管軸封装置付ドレン管の新替工事を行った際、同管を製作するにあたって指定された材料を用いなかったばかりか、同管を同装置に取り付けるにあたり、ねじ込み量が不足していたうえ、同管の取付ねじ部に過大な応力が生じる方法でドレン弁をねじ込むなど、施工方法が不適切で、同部に腐食及び亀裂を生じさせたことは、本件発生の原因となる。
 指定海難関係人B社造機部に対しては、本件発生に至った責任を認め、今後品質管理の改善に向け全社的に対応するとしている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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